コラム

「正義派の農政論」

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【森島 賢】
原発推進派に加担するマスコミ

 政府は22日、将来の原発政策についての世論調査の結果を発表した。2030年の原発依存度を、0%、15%、20〜25%にするという3つの案のうち、どれを支持するか、という世論調査である。政府は、この結果に基づいて、中長期的なエネルギー政策を決定する、という重要な世論調査である。
 この調査は、設問自体に重大な問題があった。この設問では、中庸の15%が多数を占めるように誘導されやすい。それを政府は狙ったとしか思えない。だが、結果は思惑どおりにいかなかった。
 この世論調査は、3つの方法で行われた。それぞれ結果は違ったが、多くのマスコミは、この3つの調査結果のうち、原発ゼロ案の支持率が最も低い調査結果だけに焦点を当てて、無批判に大きく報道した。原発ゼロの支持率は47%だった、というのである。
 15%や20〜25%より多いものの、原発ゼロは半数にならない、という結果である。これでは、中間を採って10%程度にしよう、という結論になりやすい。つまり、原発を再稼動しなければならないことになる。
 この調査は、回答者数が、僅か285人だった。これで広く国民の意見を聞いたことになるのだろうか。しかも世論を誘導し易い方法による調査である。
 多くのマスコミは、この1つの世論調査の結果だけに、国民の目を引きつけ、他の2つの結果に目を覆うことで、原発推進派に加担し、再稼動への世論の誘導に、片棒を担いだことになる。

 2030年の原発依存度についての世論調査の結果。公募型世論調査では8万9124人のうち87%が「0%」の回答だが、討論型世論調査では285人しか回答者がなく「0%」回答も47%だ。 3つの世論調査の結果は、上表に示した通りである。
 1つ目は、パブリックコメントという名前の公募型世論調査である。その結果は、原発ゼロ案の支持率が87%で、圧倒的に多い。インターネットと郵送とファックスで公募した調査だか、応募した人数は8万9124人だった。。
 2つ目は、全国の各地で行った、意見聴取会の結果である。1542人の回答者のうち、原発ゼロ案を支持した人は68%である。これは、電力会社の多数の社員が再稼動を主張するなど、批判の多い調査だった。だが、それでも原発ゼロ案の支持者が大多数になった。

 3つ目が討論型世論調査の結果である。回答者は、僅か285人にすぎない。公募型の300分の1、意見聴取会の5分の1である。その結果は、原発ゼロ案を支持した人が47%だった。この結果を、マスコミが大きく報道したのである。
 この調査方法には、多くの批判がある。主な批判は、世論誘導にならないようにするための方策が講じられていない、というものである。つまり、世論を原発再稼動へ誘導したのである。

 この調査は、政府が株式会社博報堂に5775万円で委託したものである。回答者1人あたり20万円という膨大な金額である。
 調査の監修委員会は、アメリカの大学の3人だけで構成している。しかも、この調査方法は、アメリカのこの大学が商品登録をしているので、その大学の理解と協力がないと実施できない、というものである。市場原理主義は、ここまで科学を蝕み、その発展を妨げている。
 主題とやや離れるが、もしもTPPに加盟すれば、アメリカの企業が、こうした政府調達に参加させよ、と主張するだろう。そして、もしも拒否すれば、ISD条項に基づいて、日本政府に損害賠償を要求するだろう。

 こうした、科学を装った原発推進のムラが、新しく原子力ムラに加わった。世論を原発再稼動へ誘導するためのムラである。
 マスコミが社会の木鐸を標榜したいのなら、福島の苦難を直視し、また、毎週金曜日の夕方に、首相官邸に響く「再稼動反対」の大きな叫びに耳を傾けて、世論を原発の再稼動へ誘導するこうした企みを、厳しく糾弾しなければならない。

 

(前回 脱原発デモに戸惑う首相

(前々回 全国35か所の脱原発集会が首相を動揺させた

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(2012.08.27)