コラム

「正義派の農政論」

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【森島 賢】
党首選の争点はTPPと原発

 2大政党である民主党と自民党の党首選挙が、今週から本格化する。
 いまの重要な政治課題はTPPと原発である。だから、この2つが党首選の争点として底流に流れている。これは、全国の各地で行われている集会やデモの成果と言っていい。
 民主党の中には、反TPP派もいるし、反原発派もいる。自民党も同様である。両党とも、党内が重要政策について、一致していない。だから争点になる。
 既成政党への不信は、ここに根ざしている。アメリカのように、民主党は中間層重視で大きな政府、共和党は富裕層優遇で小さな政府、という色分けができない。
 だから、無党派層が広がり、それを狙った第3党が出てくる。

 第3党として「日本維新の会」が出てきた。この政党は、TPPに参加することを明確に掲げた。原発については「脱原発依存」という。
 しかし、党首に予定されている橋下徹大阪市長は、当初、大飯原発の再稼動に反対、と言っていた。だが、結局、前言をひるがえし、容認してしまった。そして、またしても政策を変えて「脱原発依存」といっている。そして、不信をかっている。
 この第3党は、市場原理主義政党だ、と多くの国民は見透かしている。だから「脱原発依存」といっても、やがてまた変わるだろう、とみている。

 だが、この第3党には勢いがある。既成政党に対する舌鋒鋭い批判が人気を博し、喝采を浴びている。それは、古今東西の第3党に共通する性質である。その時々で主張が変わるのだが、現状に不満な人たちの一部を惹きつける。
 この勢いのある第3党の政策と、どのような距離を保つかで、「近いうちに」行われる総選挙での各政党の重要政策が決まるだろう。
 すでに小沢新党は、この第3党がTPP参加を主張しているので、重要政策の中でTPPに言及することを止めた。党内にTPP反対派が大勢いるにもかかわらず、である。

 総選挙の結果、政界の再編成が行われるかもしれない。
 いくつかの中小政党を除いて、多くの政党は、党内に反TPP派とTPP推進派、反原発派と原発推進派を抱えている。そして党内で争っている。
 だから総選挙後は、政党の離合集散ではなく、TPP政策と原発政策を中心にした政界の再編を期待しておこう。

 TPP問題は、これから長い間つづく。TPPは、いまは交渉に参加するかどうか、という段階で、仮に交渉に参加することにしても、交渉は、それから始まって長くつづく。
 原発問題も、長くつづく。いまは、将来原発をゼロにするかどうか、という議論の段階である。それさえ決まっていない。今後、大飯原発を止めるのか、既存の原発を再稼動するのか、長い間の議論がつづく。
 だから、この2つの問題に対する政策を明確に示せないと、政治の混迷は、これからも長くつづく。そして、第3党が、ますます勢いづく。

 TPPにしても、原発にしても、いますぐに解決できる問題である。TPPは不参加を決めればいいし、原発は今すぐに止めればいい。そうして、新しい経済政策や新エネルギー政策の立案に集中すればいい。
 そうすれば、もっと重要な、緊急な政治課題である福島の原発被害からの復興、東日本の震災復興や消費増税問題、オスプレイ問題に、政治が集中できる。
 それが多くの国民の要求である。このことを、党首選に明け暮れている政治家は、早く気づかねばならない。

 TPPと原発の問題は、市場原理主義に対する政治姿勢の問題である。
 TPP問題は、TPPに参加して日本経済の発展を図る、という考えである。それが不可能であることは、多くの論者が指摘しているが、発想は、そうである。
 ここには、農業や医療に市場原理を取り入れて経済を発展させる、そのためには、食糧安保や食糧の安全性や、また、医療格差の拡大はどうなってもいい、という考えがある。人間の命や健康とカネとを天秤にかけて、カネの方を大事にする、という考えである。
 原発問題も汚いカネにまみれている。原発ゼロでは、経済が衰弱するという。この点にも多くの反論があるが、ここにも、人間の健康や命よりも、カネの方が大事、という考えがある。

 2つの党首選をみながら、多くの国民は、2つの党のTPPや原発の政策をみるだけでなく、また、日本維新の会との距離感をみるだけでなく、市場原理主義との距離感をみている。
 そして、諸悪の根源である市場原理主義を否定し、1%の人たちではなく、99%の人たちを代弁する、力強い第3党の出現を求めている。


(前回 「維新八策」でTPP参加を明記

(前々回 原発推進派に加担するマスコミ

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(2012.09.10)