コラム

落ち穂

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【駄々っ子】
佐渡の春

 「大空に放たれし朱鷺 新たなる生活求(と)めて 野へと飛びゆく」。旧聞になるが...

 「大空に放たれし朱鷺 新たなる生活求(と)めて 野へと飛びゆく」。旧聞になるが、これは昨年9月、佐渡で朱鷺を放鳥された秋篠宮さまの今年の歌会始の歌。歌には何の造詣もないが、この歌には佐渡島民、いや、国民の願い、希望が存分に込められているように思う。でも、この国の総務相さん、かんぽの宿でいちやく「トキの人?」になったのをいいことに、中央郵便局の再建築をめぐって「これは文化遺産だ。残さないのはトキを焼き鳥にするようなものだ」と、朱鷺が真っ青になりかねことを、しゃあしゃあと宣う。
 2月下旬、その朱鷺のいる島、佐渡に同僚(佐渡出身)と渡った。佐渡へは新潟港から高速船だと1時間だが、一般船で2時間半かけて行く。宿泊は佐渡でも老舗の旅館(志い屋さん)。ロビーで年代物のお雛様飾りの歓迎を受ける。何でも佐渡は正月や雛祭り、男子の節句は旧で祝う風習が残っており、雛祭りも4月3日が本番とか。一足早い雛飾り、春を待ちわびる姿がひしひし。
 翌日、早速お目当てのトキの森公園に出かけるが、雨のせいか朱鷺は金網の施設の中で縮こまっている。以前、兵庫・豊岡市のコウノトリをみたが、1度絶滅した種を野生復帰させるのは並大抵のことでない。ここでも1ha区画の無・減農薬の田んぼやビオトーブで、ドジョウや蛙など餌の確保に苦労している。こんな努力を逆なでする、トキの人発言は島民ならずとも腹がたつ。
 それにしても佐渡は歴史の宝庫。日蓮や世阿弥にみる「遠流の島」、江戸時代の「佐渡金山」、みごとに「貴族文化」、「武家文化」、「町人文化」が融合。つくづく歴史を感じさせる。でも、一泊やそこらの旅で佐渡を知るのは無理、出直しと思いながら歴史伝説館で、すかし百合の球根を求め、同僚のお袋さんから紅ずわい蟹、数の子が詰まったスケソウ鱈を土産に帰路につく。
 後日談。渋谷・表参道に新潟館ネスパスがある。ここで帰京後、首都圏佐渡経済人懇談会による産業振興フォーラムがあった。島は農漁業が基盤、若者は学業を終えると島外に、赤ちゃんは年に400人しか生まれず、人口減に悩んでいるそうな。でも、郷土愛は健在。懇親会が会館地下の店で開かれたが、棚には新潟や佐渡の酒が百種類ほどずらり。来館者は郷土の酒を飲み、いごねり(天草)などの郷土食を舌づつみ、島の話に花を咲かせる。かくて歴史の詰まった佐渡にすっかりはまったのでした。

(2009.03.24)