コラム

吉武輝子のメッセージ JAの女性たちへ

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【吉武輝子】
お取り寄せ魔の背後に女性あり

 自他共に認めるお取り寄せ魔である。お取り寄せしたものを有無も言わせず、土井たか...

 自他共に認めるお取り寄せ魔である。お取り寄せしたものを有無も言わせず、土井たか子さんや秋山ちえ子さんや俵萠子さんたち、大好きな女性に送りつける趣向押しつけ魔でもある。
 お取り寄せの上位ベスト3は、高知のあぞのトマト、福井県大野の里芋、同じ福井の越前水仙である。数え上げていったらゆうに10本の指を越える。
 あぞのトマトに巡り会ったのは、もうかれこれ25年前になる。高知市の講演会に招かれ、終えた後、少しゆとりがあったので日曜市をふらりと見て回った。早春の高知は風がふんわりと心を優しく包んでくれる。と朝取りの野菜を並べて売っているお店の奥から「ねっ!ねっ!」と囁くように呼びかける声が聞こえた。のぞき込むとまるで宝石のような真っ赤なトマトがざるに盛られて並んでいた。大きく口を開けたら一口でお腹に収まってしまうような小さなトマトなのに、命を燃え立たせるオーラが漲っている。魅せられたように1ざる買い求めた。
 根っからの取り寄せ魔のカンで、一回こっきりのお付き合いとは思えなかったので、女主に名前と住所と電話番号を書いてもらった。これが近藤美代子さんとのお付き合いの始まりだった。
 持ち帰ったトマトは、抜群のうまさだった。露地物で2月から6月まで。多分土の関係なのだろう、このトマトは一宮地域でしかとれず、10軒ぐらいの農家が作っていると言うことだった。押しつけ魔の本領を発揮して贈ったトマトは大好評だった。「そろそろあのトマトのシーズンですね」なんて葉書が送られてくると、すぐさま、近藤さんに連絡して一番おいしい4月頃に発送してもらっていた。
 5年前、俵萠子さんが乳ガンを患った後、交通事故に遭いかなり心理的にも落ち込み、食欲不振に悩まされていた。その俵さんが欣喜雀躍かぶりついたのが、近藤美代子さんが丹念に育て上げていたあぞのトマトだった。昨年、俵さんに「早く早く」とせがまれて近藤美代子さんに連絡したが体調を崩されて、作付けができなかったと思いがけないお返事が返ってきた。
 考えてみたら25年間のお付き合いの間にトマト農家は5軒に減っていた。美代子さんもけっこうなお年になっておられるはずである。がっかりしきっているわたくしに「人様に役立っていることを知ると元気が出ます。来年はなんとかしておいしいトマトお送りします」と美代子さんが晴れ晴れとした声で言った。以来ひたすら美代子さんの健康を祈り続けている。
 大野の里芋は福井市の講演に行ったときJAの女性が「日本一おいしい里芋です」とおみやげに下さった。その後すぐに福井出身の作家山崎朋子さんが「日本一おいしい里芋だと言われています」と添え書きをして同じ里芋をおくって下さった。べらぼうにおいしかった。ことに田辺市の南高梅の白干しを入れて炊いた里芋ご飯は絶品である。以来毎年8月に申し込み、10月に送ってくる里芋を南高梅と一緒に隣近所に配りまくるのが習慣になっている。水仙はやはりJAの女性部からのプレゼント。「感動的」と秋山ちえ子さんが必ずお便りを下さる。でも、自然の恵みをたっぷり享受しての気品あるこの花は、時折自然の過酷さに曝され、お届け不可能の悲劇に見舞われる。
 自然の恩恵とその過酷さと付き合いながら、生きてあることの喜ばしさを人々に届けるために、地道に働く女たちの姿を身近に感じるたびごとに、お取り寄せ魔の幸せをしみじみと味わっている。

(2006.10.20)