コラム

吉武輝子のメッセージ JAの女性たちへ

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【吉武輝子】
百歳の手習いもありという時代の快楽

ね、わたくし昨年の7月27日に喜寿を迎えたの。誰彼に「わたくし新進気鋭の後期高齢者よ」と宣伝しまくっているんですけどね、半分は怒りまくっているんですよ。だってね、自分が老いのまっただ中を生きるようになってしみじみ感じるようになったのは、老いほど個人差の幅が広いっていうこと。それなのに勝手に年齢で輪切りにしてね。前期、後期に分けちゃうなんて。

 ね、わたくし昨年の7月27日に喜寿を迎えたの。誰彼に「わたくし新進気鋭の後期高齢者よ」と宣伝しまくっているんですけどね、半分は怒りまくっているんですよ。だってね、自分が老いのまっただ中を生きるようになってしみじみ感じるようになったのは、老いほど個人差の幅が広いっていうこと。それなのに勝手に年齢で輪切りにしてね。前期、後期に分けちゃうなんて。
 わたくしね、進行性の呼吸器障害にとっつかまっているものだから、家の中ではポンプ型、外出の時は携帯用酸素ボンベ引っ張って歩いているんですけどね。2月に1回家内用のポンプの取り替え…月に5回7本づつの酸素ボンベ。それにね、ホテルに泊まるときは早めにメーカーに連絡しておくと、ちゃんとホテルに室内用のポンプと換えの酸素ボンベを運んで置いてくれる。「便利な時代になったわよ」って言ったら友人の一人が「それは吉武さんがお金持ちだから」って言ったんです。とんでもない。治療対象の器具だから、通院している東京厚生年金病院からのレンタルでね、何回自宅やホテルに運んでもらったって月9000円なんですよ。
 ところがね、後期高齢者医療制度が完全にスタートして後期高齢者の持ち点が例えば600点と決まったとしてごらんなさい。後期高齢者は病気が多重型の人が多いから、目医者に行って歯医者に行って骨の治療を受けてあちこち回っていたら、あっというまに600点を使い切っちゃうと、酸素ボンベは治療対象外になってね、なんと月13万円の支払額になっちゃうの。
 後期高齢者になれば収入も減ってくる。ということは金のないやつは死ねと言うのが本音なのよね。完全にアメリカ型になってきちゃっているんですよ。だからわたくし見事にキレてるんです。後期高齢者医療制度の発想に。
 で、断固として沢山生きることの醍醐味を満喫することにしたんです。まず第一に喜寿を迎えた直後に絵本作家としてデビューしたんですよ。絵本と言うよりは写真本なんですけどね。ベストセラーになった「盲導犬クイール」の写真家秋元良平さんが、犬の目の部分を中心にした51枚の写真を持ってきたんですよ。題名は「一○一のひとみ」。51枚だったら犬の数は51匹。目の数は102なのに最期の1匹が片眼だからひとみの数は101。わたくしね、60代の中に入って俳句始めたんだけど、世界で一番短い詩といわれている俳句と絵本のことばが同類項と分かった瞬間からすいすい筆が進んで、絵本作家としてのデビューを宣言しちゃったんです。
 それと同時にね、筆禅道というお習字も習い始めたの。書く前にね、まず座禅組んでね、禅のお経読んでね、気を発する体操してから、紙の前に向かうの。筆は太くて大きくてね、たっぷりと墨汁を附けて、息を吐いて吐いて吐きぬいてまず天に向かって斜めの棒をかき、終えたときに鼻から息を吸う。次に同じ要領で丸。
 高齢者って肺の機能が低下するでしょ。だからこの腹式法の筆禅道って肺を鍛えるのに最高なんですよ。来年の3月には師と二人展をしましょうねと指切りげんまんしたうえで、知人、友人に吹聴し歩いてるんですよ。
 人生百年時代になるとね、好奇心と実行力がありさえすれば、ほんとうに八十の手習いから百歳の手習いまで、たっぷりこたっぷりこ。新しい世界が開けていく瞬間はまさに快楽中の快楽。続けていくコツはちょっとハードルの高い約束事を師と結んで、それを言いふらして我が身をしっかりと縛り上げる。これが快楽を満喫する最高の方法なんですよ。おかげでわたくしめ、60代に入ってから俳句に歌手にミュージックベルの奏者に、絵本作家に書道家に、うん、実は墨絵の手習いも志しているんですよ。楽しきかな高齢社会。うきうき気分で快楽のまっただ中に身をおきながら、その快楽を妨げる理不尽に対しては見事にキレる高齢者になって見せますぞ。みなさまもお仲間いりいかが?

(2009.05.28)