コラム

吉武輝子のメッセージ JAの女性たちへ

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【吉武輝子】
見事にキレる高齢者になりたいな

 東京都から「後期高齢者医療被保険者証」が送られてきたとき、何か長生きが悪のように見なされているような気がして、ひどく気落ちしたものだった。
 新聞のコラムを読んでいたら、今は政界を引退しているが、かって小泉内閣時代に財務大臣として構造改革に全力を挙げた塩川正十郎、通称塩爺が「後期高齢者医療被保険証を見た瞬間疎外感でかっと来た」と書いていた。

 東京都から「後期高齢者医療被保険者証」が送られてきたとき、何か長生きが悪のように見なされているような気がして、ひどく気落ちしたものだった。
 新聞のコラムを読んでいたら、今は政界を引退しているが、かって小泉内閣時代に財務大臣として構造改革に全力を挙げた塩川正十郎、通称塩爺が「後期高齢者医療被保険証を見た瞬間疎外感でかっと来た」と書いていた。わたくしは1931年生まれ・塩爺は1921年。10歳年上の塩爺が「疎外感でかっときた」のだから、新進気鋭の後期高齢者のわたくしが気落ちしたと言うよりも「うぬら、ジーパンをかっこよく着こなし、ひたすら『ベストジーニスト賞』をねらっているわたくしめを長生きしすぎた一団の中にくくるとはなにごとぞ」とキレまくったとしても不思議じゃないじゃありませんか。
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 70代にはいってしみじみ思えるようになったのは、老いほど個人差のはっきり出るものはないってこと。70代でも老いがお洋服来たみたいに老けちゃている人もいるし、80代でも好奇心丸出しの若々しい人もいる。それなのに勝手に75歳で横線を引いて、75歳までは前期高齢者、75歳以降を後期高齢者。後で聞いたら「末期高齢者」と命名しょうとした人も、いたんですって。ほんとに首しめてやりたい。
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 それよりも何よりも仰天したのは、後期高齢者医療制度が実施されるようになったら、後期高齢者の持ち点は600点。呼吸器障害のため、酸素ボンベのお世話になっているの。家用のは大きなポンプ型で、部屋の空気をリサイクルして鼻に附けたビニールの管に酸素を送り込んでくれるの。ありがたいことに、長生きをするようになったために、出てきた肉体の引き算の部分をカバーしてくれる補助器具が発達してくれたおかげでね、携帯用酸素ボンベを引っ張ってわたくし北海道にも、沖縄にも講演に行くことが出来るってわけ。
 すごいのよ、メーカーの帝人に、「何月の何日にどこそこのホテルに泊る」って連絡しておくとね。ちゃんと指定のホテルの部屋に部屋用のポンプ型のものと携帯用の替え用のボンベをきちんとセットしておいてくれるの。そんなことを大分に行ったときに講演会の実行委員の人たちに話したら
「それは吉武さんがお金持ちだからよ」って言われちゃったじゃありませんか。とんでもない。わたくしの酸素ボンベは治療対象でね。東京厚生年金のレンタルなので何本ボンベを頼もうと、ホテルにポンプ型と替えボンベを送り込んでもらっても月9000円なんですってば。
 でも「後期高齢者医療制度」が本格的にスタートして、持ち点が600点になるとね、わたくしのような病気のデパートのオーナーは、目医者に行って、歯医者に行って、大腸癌の検査を3月に一度して、呼吸器科に行って、膠原病科に行っていたら、あっという間に600点を使い果たしてしまう。酸素ボンべが治療対象から外れてしまうと、月9000円であったものが、なんと13万円。年を重ねれば一生懸命に働いてもどんどん収入は減っていく。と言うことは「金のないやつは死ね」って言うアメリカ型にぐんと日本の医療制度は近づいていくことになる。
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 いま非正規の若者たちが増えていて、結婚も出来なければ子供も産めない状況に置かれている。これは国の雇用制度の落ち度の結果なのに、後期高齢者が年金を取りすぎる、医療制度を使いすぎるから若者たちが貧しいのだ、と社会の弱者同士を反目させあっている。
 可愛い物わかりのよい高齢者になんかなってなるものか。若い人たちが、きちんと働き、結婚し子供を産んで、豊かな老いを生きられることを邪魔する政治のありようには見事にキレる高齢者になる。 これが若い人たちとの間の溝を埋める再短距離だと、しかと理解して以来、わたくしは見事にキレることの出来る高齢者たらんと専ら背筋をぐいと伸ばしている真っ最中である。この輪が日本中に広がったら嬉しいな。

(2009.09.03)