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【JAおおふなと代表理事組合長】
菅生 新一 氏

 忌まわしく思い出したくもない東日本大震災、大津波から早や3年、多くの尊い人命と、財産と故郷の景観までをも奪い去った自然の脅威は、一体我々に何を示唆し何を警鐘しようとしたのでありましょうか。あまりにも甚大な被害からは、それらに対する適切な答えを見出すことはできません。しかし、時の流れの中に忘却してはいけないことは、確かであります。

運命に挑み、使命に燃え

 

 ◆津波と原発で甚大な被害が

被災した店舗 これまで、全国の農協系統組織や国内外の多くの方々の多岐にわたる復興支援に助けられ励まされて復旧、復興の道のりを歩んでまいりました。農協運動が連綿として築きあげてきた「協力同心」「結いの精神」「絆の精神文化」の結実に、感謝申し上げます。
 当JA管内では、震災・大津波により農地の被害面積460ha、水稲を作付出来なかった農家581戸など、被害額は、約176億円と甚大な被害をうけました。さらには、原発事故による農地・農畜産物の汚染や価格下落等その被害は重大かつ深刻であり、多くの組合員がやり場のない怒りの中、大きな不安に直面しておりました。
 また、JAの本店・支店、購買センター、給油所、農業関連施設など27施設が被災しました。特に、18支店のうち11支店が流失・全壊となり、平成24年11月3支店を廃止し、残る8支店は現在も仮設店舗での営業を余儀なくされております。
 震災直後は、役職員が一丸となって今日でき得ることを精一杯おこなう日々でありましたが、平成23年7月の金融機能の強化を目的とする再編強化法改正に伴う特例措置による優先出資107億9000万円を発行し、当JAが地域農業・経済の一日も早い復旧・復興を実現する役割を、強化・継続するための信用事業強化計画を関係機関のご指導のもと着実に実施してきました。

(写真)
被災した店舗

 

◆復興を牽引する協同運動を醸成

JA職員による圃場復旧 これまでの3年間JAおおふなとは、被災した地域に寄り添い、郷土再建の牽引役となるべく、事業に取り組んでまいりました。
 我々の先代、先々代が生活の拠り所として創りあげた農業協同組合であります。これまで、支え合って、助け合ってきて、私どもの今日があるはずであります。この歴史的災害から立ち上がるために、JAに、私たちの組織に救いを求めている人達がいるならば、JAのあらゆる事業を通じて手を差し伸べなければならないと思っております。これは、過去に先代や先々代が当然のようにおこなってきたことでもあります。「協同の精神」とは、かくの如くであると理解しております。JAが地域に存在価値を見出していくためにも、震災復興し地域の風土、文化を維持していくためにも、さらなる協同組合運動の醸成が必要であると思っております。
 このような状況の中で、4か所もの寺院が被災した陸前高田市内に、仮設住宅生活の方々でご葬儀やご法事等の難儀な状況を解消するため葬祭会館ごくようを建設、さらに同市内に経済施設復旧第一号となる全農震災復興支援セルフSSを設置しました。そして、気仙の農業復興は、組合員の努力に任せるだけでなく、JA自らが地域農業の担い手の一翼を担うため、JA出資型農業生産法人「株式会社JAおおふなとアグリサービス」を設立し、全中の被災地JAの復興業務にかかる支援事業によりJA香川県から支援職員を派遣頂き、新たに復興整備された農地等の農作業受託や施設園芸による農業経営、新規就農者の研修を行っております。
 被災農地の復旧作業は岩手県が事業主体となり圃場の大区画整備事業と併せて実施され、各地でその進捗状況が見えてまいりました。平成27年の春には全ての圃場で水稲の作付けができるようにと工事を急いでおります。また、陸前高田市の総合営農拠点施設や果樹等集出荷施設、穀物乾燥貯蔵調整施設そして大規模園芸施設団地等の被災地域農業復興総合支援事業が着工し、気仙農業の復活に大きな力になるものと期待をしております。

(写真)
JA職員による圃場復旧

 

◆自立再建向け大きな一歩を

 「宿命に生まれ、運命に挑み、使命に燃える」という言葉があります。この言葉はまさに、宿命としてこの地に生まれ、運命として大震災復興に挑み、組合員・地域住民の生活を守るという使命に燃えるJAおおふなと役職員一人ひとりに対し、天が授けた言葉のように感じています。これまで、現時点でやれることを精一杯やって一歩ずつ前へ歩んでまいりました。お陰様で、平成26年5月24日開催の総代会で支店再編基本構想を含む経営計画を承認頂き、JAの自立再建に向け大きな一歩を組合員のみなさまから後押しいただきました。今、まさにこの地域のために、当JAに何ができるのか、何をすべきかを念頭に置き、協同組合運動を実践してまいりたいと、固く決意しておるところであります。
 最後に農協人文化賞という栄誉ある賞をいただき、私をこれまで支えてくれた方々に感謝申し上げるとともに、今後も震災復興に向け更なる精進を重ねてまいる所存であります。

【推薦の言葉】

地域・農業復興の礎築く

 平成23年3月11日に発生した東日本大震災においては、多くの組合員・職員が犠牲になるとともに、本店および18支店のうち12店舗が全壊または使用不能となったほか、JA管内の農地約460haも使用できなくなるなど、甚大な被害を受けた。
 復旧・復興には相当な時間を要するため、農業従事者の減少や高齢化による担い手不足が深刻になり地域全体の農業生産の減少に拍車がかかることが懸念されることから、地域農業振興戦略の要としてJA出資型農業生産法人「JAおおふなとアグリサービス」を設立し、被災した農地の活用による農業振興および雇用創出、新規就農者・担い手の育成に取り組むなど、組合長としてのリーダーシップを発揮し、復興の礎を築いた。
 東日本大震災における支援活動、農業および地域の復旧・復興に向けた取組みによる組合員・地域住民への貢献は顕著であり、JA運動の発展に寄与した功績は誠に大きい。


【略歴】
すごう・しんいち
昭和24年生まれ。岩手県立一関第一高等学校卒。平成3年大船渡市農協理事、15年同農協専務理事、平成21年同農協代表理事組合長。21年岩手県農協中央会理事ほか、各県連理事、運営委員等を務める。

(2014.07.17)