農政・農協ニュース

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相互理解が必要

−中国農業問題で学習会

五条満義准教授 本紙が加盟している農林記者会が設立60周年を記念して9月に公開シンポジウムを開催する予定だが、その準備イベントとして東京農大の五条満義准教授と中国社会科学研究所の曹斌研究員を招いて、中国農業の現実と日中の相互理解についてのこのほど学習会を開いた。 五条氏は中国の農村部を1年半かけて回った経験から、日本農業の将来を考える時に中国をどのような視点で捉えるべきかというテーマで語った。 中国は改革開放以降、集団で農地を所有し個人農家が耕作を請負う「双層経営」という経営政策を採ってきた。しかし個人で集団内の他の農地を請負ったり、その請負った農地をさらに他人に貸したりする又請負をする若者...

五条満義准教授
五条満義准教授

本紙が加盟している農林記者会が設立60周年を記念して9月に公開シンポジウムを開催する予定だが、その準備イベントとして東京農大の五条満義准教授と中国社会科学研究所の曹斌研究員を招いて、中国農業の現実と日中の相互理解についてのこのほど学習会を開いた。
五条氏は中国の農村部を1年半かけて回った経験から、日本農業の将来を考える時に中国をどのような視点で捉えるべきかというテーマで語った。
中国は改革開放以降、集団で農地を所有し個人農家が耕作を請負う「双層経営」という経営政策を採ってきた。しかし個人で集団内の他の農地を請負ったり、その請負った農地をさらに他人に貸したりする又請負をする若者が多く、「45歳未満の若い人たちが農地を貸して農村から外に出ていく」傾向にあるという。

◆グリーンツーリズムもブーム

曹斌氏
曹斌氏

五条氏はこのような農地経営権の集積で大規模化した農家の成功例として、とあるイチゴ栽培農家をあげた。その背景には「大規模化して経営が安定した農家が無償で技術指導を行うとともに、生産資材の販売、販路の確立まで自発的に行っているから」と解説。
また、北京近郊のスイカ産地で村人から資金を集めて配当を出す「合作社」を設立し、地域農家が一体となって1つの作物を生産し販売して大規模化した事例も紹介した。
合作社の成功について五条氏は「合作社は日本で言う専門農協。銀行はお金を出してくれないが、村人からしっかりと資金を集められたことで成功した」と分析。合作社について曹斌氏は「90年代まで合作社はほとんど失敗していたが、政府が合作社を優遇する法律を作ったことで成功しはじめた」と、国の援助があることを紹介した。
農家の大規模化とは違った農村部の現状として、グリーンツーリズムも大流行しているという。
農家が独自に「農家院」という宿泊施設を作り、北京市民が週末を農村保養ですごしたり、都心では味わえなくなった地域の伝統食を楽しみにする客足が途絶えない。来客は9割が口コミや飛び込みで、旅行社を介するものは1割程度だという。
五条氏はこういった中国農村部の現状を「中国の農家は家族経営から次第に変化して、資金を集め、技術を習得し、販売ルートを確立する新たな主体形成の動きもある」と分析しながらも、「日中の農業の共通点は伝統農業に立脚している点。欧米型の農業とは異なる。中国は2020年には年間4〜5000万tの穀物を輸入すると見られているが、東アジア全体の食糧安全保障のためにも日中の相互理解と共通認識を深める必要がある」と話した。
最近話題になっている中国農産物の安全性については、五条氏は「私の見たところでは農薬使用基準をしっかり紙に書いて貼ってあったし、農薬の空びんが散乱していたような農家はなかった」と、現場ごとでまったく対応が違うのではないかという。曹斌氏も「2002年の残留農薬問題以降、管理は厳しくなった。日本への輸入は制限が厳しくリスクが高いため、輸出に消極的な農家もいる。そもそも中国では農薬が高くてあまり大量に使えない農家も多い」と、こういう点でも日中間の誤解が解消してほしいと話した。

(2008.06.05)