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「不利な妥結はしない」を堅持

−WTO閣僚会合の基本方針

◆激変した食料事情下の閣僚会合  WTO交渉は、7月21日からスイス・ジュネーブでモダリティ(基本的な貿易ルール)確立をめざした閣僚会合が開催されている。  日本政府は閣僚会合に先立ち対応方針を決めている。  それによると、食料需給のひっ迫や食料価格の高騰など「ドーハ・ラウンドが始まった当初とは世界の食料事情が激変し」、「G8サミットでも明らかにされたように食料安全保障の確立が極めて重要である」と強調、「わが国は今こそ発想を転換して食料の大半を海外に依存している現状から脱却し、自国の農業生産を基本として食料自給率を向上させることが必...

◆激変した食料事情下の閣僚会合

 WTO交渉は、7月21日からスイス・ジュネーブでモダリティ(基本的な貿易ルール)確立をめざした閣僚会合が開催されている。
 日本政府は閣僚会合に先立ち対応方針を決めている。
 それによると、食料需給のひっ迫や食料価格の高騰など「ドーハ・ラウンドが始まった当初とは世界の食料事情が激変し」、「G8サミットでも明らかにされたように食料安全保障の確立が極めて重要である」と強調、「わが国は今こそ発想を転換して食料の大半を海外に依存している現状から脱却し、自国の農業生産を基本として食料自給率を向上させることが必要である」との認識を明記している。
 また、米のミニマム・アクセスについても言及。唯一、自給可能な米について、約4割の生産調整を行いながら「77万トンにおよぶ米輸入が継続して課されるという理不尽な事態になっている」と指摘し、閣僚会合には「食料安全保障に支障を来さないよう、食料輸入国の立場が十分反映された貿易ルールの確立」を強く主張していくべきだとし「多様な農業の共存」を基本理念として交渉に臨むことを決めた。
 具体的には(1)上限関税の断固措置、(2)重要品目数の十分な確保と重要品目の自己選択原則の確立、(3)関税割当拡大幅など重要品目についての柔軟性の確保、を最重要項目とした。
 また、輸出規制については、輸出入国間の権利義務のバランスの回復、食料安全保障の観点から、発動にあたってのルールの明確化などさらに規律を強化するよう交渉で主張する。

◆「蹴ってもいいという覚悟で」

 閣僚会合で交渉のベースとなるのがファルコナー農業交渉議長が7月11日に示した第3次改訂版だ。
 日本にとって最大の重要分野である関税削減などのルール「市場アクセス分野」では、関税削減の基本形として、高関税品目グループ(75%以上)から以下4つの階層に分け、最上位階層では66〜73%削減、50%以上品目では64%削減など、具体的な削減水準を示した。
 また、農産物全体で削減率が平均で54%となることも求めている。削減率が平均で54%にならなかった場合には追加的な削減も求めている。
 「一般品目」にくらべて関税削減率を、3分の1から3分の2とする案で緩和する「重要品目」については、その数を3次改訂版でも「4〜6%」としている。日本をはじめG10の主張は10〜15%が必要だと主張している。
 日本の場合、関税化品目(タリフライン)数は1332品目。このうち米、麦や関税化品目ではない砂糖も含め、日本の高関税品目は169ある。かりに重要品目数が6%となれば約80。議長案では2%多い8%まで増やすことができる選択肢もあるが、それでも約107品目にとどまる。また、重要品目数を2%増やした場合は、低関税輸入枠である関税割当数量を国内消費量の0.5%分を追加的に拡大にしなければならないという「代償措置」をともなう。
 さらに第3次案で示された大きな問題点は、関税割当を行っていない品目は重要品目に指定できないという案が、重要品目は当事国が自主的に指定するという従来案とともに両論併記されたことだ。重要品目に指定できるのは現行の関税割当品目だけと仮に限定されれば、関税割当制度を導入していない砂糖、でんぷんなどが指定できないことになる。日本として「到底受け入れることができない」(JAグループ)点のひとつだ。
 また、関税を一定水準以下に抑えようとする上限関税の考え方については直接の言及はない。しかし、関税削減後も100%超の関税品目が残る場合について具体的な対応を示した。
 議長案では、重要品目について関税削減後も100%超の関税を認めるが、その場合、当該品目に国内消費量の0.5%の追加的な関税割当拡大を提案している。
 また、一般品目については全タリフラインの2%まで認めるが、代償措置として3つの選択肢を示した。(1)すべての重要品目の関税割当拡大を0.5%追加拡大、(2)当該品目の関税削減を2年前倒し実施、(3)当該品目の削減幅を5ポイント上乗せ(従価税ベース)、である。
 日本としては上限関税の考え方そのものに反対しているが、さらに代償措置も含めて拒否する必要がある。
 「多様な農業の共存」という理念は、農業の多面的機能、食料安全保障の確立などを支える基本理念だ。市場アクセス分野で関税削減など「一般品目」と異なる扱いをする「重要品目」を貿易ルールの基本形として位置づけたのは、その理念実現の足がかりとなる合意といえる。
 しかし、この段階にいたっても、「重要品目」にこれだけの「代償措置」の網をかけ、輸入国を中心とした農業生産に大きなしわ寄せを与える考え方には、多様な農業の共存という理念がほとんど反映されていないに等しい。また、ドーハ・ラウンド開始当初と「世界の食料事情が激変した」という状況にも、農業生産の増大を阻みかねない点で逆行している。
 日本は、重要品目数10〜15%の確保を主張してきており、閣僚会合でも「不退転の気持ちで努力しなければならない」(谷津義男自民党農林水産物貿易調査会長)とする。JA全中が7月16日に開いた緊急集会では谷津会長はわが国をはじめとする輸入国の立場が十分に反映されないなら「蹴ってきてもいいという覚悟を持っている」と述べた。JAグループも宮田勇全中会長を団長とする代表団を派遣した。現地では政府、与党と連日協議をしながら政府の交渉を支援する。今回の閣僚会合での妥結は「5分5分」とされるが、「いつなんどき急激に決まる要素もないわけではない」(谷津氏)ことから予断を許さない状況にある。

(2008.07.22)