農政・農協ニュース

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食料供給力の強化等を議論

−農林記者会60周年記念シンポジウム (9/16)

    農業や食品産業、食品流通の専門紙などで構成し本紙も加盟している農林記者会は、今年9月の設立60周年を迎えるにあたって9月16日、記念シンポジウム「食料をめぐる新たな潮流〜日本人は本当に食べていけるのか〜」を開き、記者会会員を含めて農業や食品業界関係者など200人以上が集まった。

基調講演「海外の食糧事情と我が国の対応」(農水省食料安全保障課末松広行課長)の概要

末松広行課長
末松広行課長

    途上国の経済発展による農畜産物需要増、バイオ燃料の生産拡大、地球規模の気候変動などを背景に、2006年秋頃から小麦・大豆・トウモロコシの価格高騰が始まり、アフリカなどでは食料をめぐる抗議運動や暴動が頻発し、南米や中央アジアなどでは食料の輸出規制に踏み出す国が出てきた。
    食料の輸出規制には2つの側面がある。1つは自国内の食料を確保するためだが、もう1つは自国経済の保護のためだ。食料供給力の高い発展途上国が食料を輸出をすると、世界的な食料価格高騰に国内の価格が連動してしまい、国内での公平な需給関係が崩れるおそれがあるからだ。
    今後も世界の食料需給はひっ迫傾向を強めるだろうと見ており、日本が各国と食料を奪い合ったり、世界的な飢餓を助長したりするような状況を避けるためには、国内の食料供給力を高めることが不可欠となる。
    会場からの質問では、福田前首相が自給率を50%まで高めるという目標を掲げ、農水省もそれに向けての工程表を作成するとしたが、その検討状況を問われて「いまだ検討中だが、水田や休耕地を活用して生産力を高めていく方針だ」という。07年度には米の消費量が微増したが、年々上がるということは考えにくく、楽観はできないと慎重な姿勢を示した。
    また農畜産物の貿易や農政については、「適地適産で貿易の障害をなくして自由貿易にした方がいいとか、国が邪魔をしないで規制を撤廃した方が生産力が高まるといった意見を目にするが、例えば隣の韓国では全て自由にしたところ、小麦農家がほとんどいなくなって、自国の食料供給力が弱まった。やはり計画的な農業をしていかなければならない」と答えた。

自給率75%だった昭和40年と、自給率40%以下となった平成19年の一般的食卓の違い

◆「日本人が食べていくにはどうするべきか」 4人のパネラーが活気あふれる討論

永井進専務
永井進専務
(永井農場)
加藤一郎専務
加藤一郎専務
(JA全農)
五島彰氏
五島彰氏
(コープネット事業連合)
鈴木宣弘氏
鈴木宣弘氏
(東大教授)

    後半のパネルディスカッションに参加したのは、長野県東御市(有)永井農場の永井進専務取締役、JA全農の加藤一郎代表理事専務、コープネット事業連合の五島彰商品事業担当執行役員、東大の鈴木宣弘教授の4人。 基調講演について、永井専務は「実際に自給率50%に向けて、具体的にどのような取り組みをするべきかを話し合いたい」、加藤専務は「自給率向上は非常に難しく、米を増産したら消費量が増えるのかと言えば、それは別の問題。米粉についても、輸入小麦の価格が今後も下がらないという確証がなければ、経営者レベルでは10億円以上の設備投資をして増産に取り組むものはなかなかいないだろう」と、指摘した。
    五島氏は「EUがエリアでの視点で政策を立てているように、日本もアジア全体を見据えた視点と政策が必要だ」と話し、鈴木教授は「WTO農業交渉は自由貿易の推進ではなく、現在充分な食料自給力のある国が余剰食料を処理したいだけだ。このままでは日本の食料自給率が12%にまで低下するという見方もあるから、自給率向上どころか下がらないようにする努力をしなければいけない」と、強調した。
    永井専務は農業経営者からそのほかの視点として、「20年間消費者ニーズを考えてきたが、生産者ニーズの視点が足りなかった。これからは消費者に、生産者のメッセージを届けたい」と、目標を掲げながら、「今の農政ではモチベーションが上がらない。農業が自立するためにも、補助金漬けの政策を転換するべきだ」と提言した。
    それに対して鈴木教授は「日本の農業にはむしろ支援が足りない。自給率の高い欧米諸国は、食料安定供給のために農業支援をたくさんしている。例えばフランスは政府からの直接支払いが所得の8割だし、アメリカも5割ある。単なるバラマキ補助金ではなく、効果的な支援策を講じなければいけない」と提言した。
    加藤専務は生産現場のモチベーションについて「賞味期限が切れたとか、カビが生えたとかの理由で簡単に捨てられてしまう。消費者側の食品評価基準も、“柔らかい”“甘い”だけになってしまっている。これではモチベーションが上がらないだろう」と述べた。
    五島氏は流通業界からの視点として、「食べ物は命を育むもの。他の工業製品と同列に扱うことはできない。消費者のニーズにばかり合わせるのではなく、生産者や流通も一緒になって考えていくべきだ」と語った。

(2008.09.25)