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幹部職員の責任重大

−事故米問題、有識者会議の報告

◆食の安全、意識欠落 内閣府の有識者会議に出席した野田大臣(右)、左端は農水省の井出次官     事故米問題で内閣府に設置された有識者会議が11月25日、原因と責任の所在を検証した報告書(第一次)をまとめ、同日、野田聖子担当大臣に提出した。    有識者会議は問題発覚後、政府全体として原因究明、責任の所在を明らかにするため、法曹関係、消費者問題の専門家などで9月19日に設置、農水省、厚生省からのヒアリングを中心に17回の会議を開催して報告書をまとめた。    報告書では事故米...

◆食の安全、意識欠落

内閣府の有識者会議に出席した野田大臣(右)、左端は農水省の井出次官
内閣府の有識者会議に出席した野田大臣(右)、左端は農水省の井出次官

    事故米問題で内閣府に設置された有識者会議が11月25日、原因と責任の所在を検証した報告書(第一次)をまとめ、同日、野田聖子担当大臣に提出した。
    有識者会議は問題発覚後、政府全体として原因究明、責任の所在を明らかにするため、法曹関係、消費者問題の専門家などで9月19日に設置、農水省、厚生省からのヒアリングを中心に17回の会議を開催して報告書をまとめた。
    報告書では事故米が食用として流通した原因について「農水省は保管中の汚染米の有害性を認識していながら、『食の安全』を確保することよりも、安価・早期処分を優先させ」、「食用への流用防止のための有効な手段を何一つ講じなかった」と断じた。
    また、三笠フーズに対する福岡農政事務所の96回もの検査について、食用米を扱っている三笠フーズに非食用として売却された事実を知っていながら「本省から適切な検査方法の指示もなかったことから漫然と検査を行い」、96回検査しても不正流用を発見できなかったと、地方農政事務所だけでなく本省の責任も重いとした。
    そのほか、19年1月、2月に三笠フーズが焼酎原料として残留農薬で問題がある米を売り込んでいるという匿名投書があったことについて、この投書では、米の売り込みの際、同社が行った残留農薬検査書が付けられており、この検査書添付自体が不自然ではないかと告発したものであったにも関わらず、投書そのものを福岡農政事務所に示さず単に在庫確認を指示したとして、農水省は流用監視の適切な対処をしなかったと指摘した。
    さらに商社が輸入したミニマム・アクセス米(MA米)のうち輸入後の検査で残留農薬基準値を超えたものを非食用として流通させることを容認したことについて、着色等の横流れ防止措置を講じていなかったことが食用への流用を防げなかったとした。商社にとって事故米と認定されても非食用での売却が認められていたことは、廃棄や積み戻しなどのコストがかからない分、負担が軽くなる措置だと業者寄りの対応を批判。また、農水省には、非食用でも一旦、輸入されればMA米の輸入実績にカウントされるという点も考えたのではないかと指摘している。

◆歴代の大臣にも反省求める

    検証の総括で報告書は、「自分が取り扱っている職務が国民の『食の安全』につながっているという自覚や責任感の欠落、目先の仕事をこなしていればよいという官僚主義的体質」が今回の問題の「深因」であると指摘した。
    そして責任の所在については(1)農林水産省総合食料局の局部長等の幹部職員の責任は最も重い、(2)BSE問題の反省を生かせず、歴代の大臣、事務次官をはじめとする本省幹部職員にも強く反省を求める、(3)福岡農政事務所の幹部職員、とくに事故米の扱いについて本省から判断と処理を任せられている農政事務所長の責任は重いとした。
    今後の農水省の取り組みについては、食の安全視点を最優先する意識改革、縦割り意識の解消に向けた組織見直しなどを求めた。また、食の安全についての政府の取り組みは、農水省、厚労省、内閣府など政府が一体的に取り組んでいくことが不可欠だと強調した。

◆使命感と誇りを持って

但木敬一座長
但木敬一座長

    「食の安全に関する意識が薄いと非難することは簡単。しかし、非難したからといって立ち直れるのかといえばそうではないのではないか」。報告書を内閣府野田特命大臣に手渡した後の記者会見で、有識者会議の但木敬一座長はこう指摘した。
    報告書で農水省のこれまでの対応を厳しく批判したのは「シュリンク(萎縮)させるためではない。そうなったらかえって国民が不幸。食の安全を守るんだという意気込み、誇りが農水省や厚労省に本当に芽生え大きくなっていかないと改革をいくらやってもうまくいかないと思っている」とも語った。
    有識者会議は消費者庁構想のなかでオンブズマン的な役割を果たす「消費者政策委員会」をいわば前倒しして設置したものと内閣府は位置づけている。事故米問題では農水省が善意の業者への支援策を打ち出したが「政府の動きを遮断して徹底的に消費者の立場で審議」(但木座長)する立場から、会議では「食品を扱う業者なら知らなかったでは済まないはず」と農水省の対応に批判も出ていた。報告書でも支援策の費用は「結局、国民が納めた税金から支出されることになる」と指摘した。
    今後は米の流通実態の問題点も含めて引き続き審議していくことになっており、トレーサビリティを義務づけた米流通システム検討会の今後の議論にも影響を与えそうだ。
    但木座長は「消費者が願うこと、生産者や国が政府全体の立場から願うことはやはり同じではないのではないか。この会議は最後まで消費者にとって何が必要か、消費者サイドから注文をつけることになると思う」と語った。
    これまでの会議で、今回の事故米問題では消費者だけでなくまじめに米づくりに取り組む生産者も被害者、との指摘は一部にあった。しかし、報告書にはそうした観点は盛り込まれていない。

(2008.12.01)