農政・農協ニュース

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財界農政と決別し国民合意で真の農政改革を 創立40周年記念シンポジウムを開催

−(社)農業開発研修センター

    (社)農業開発研修センター(会長理事:藤谷築次・京大名誉教授)は今年創立40周年を迎え、同センターが事務局となっている近畿農協研究会も創立50周年となることから両者が共同で記念事業を実施、その一環として11月28日には記念シンポジウム「日本農業・農政と農協運動の新しい展開方向を探る」を京都JA会館で開いた。JA関係者、研究者、行政関係者ら約120名が参加し議論した。   藤谷築次会長理事     創立40周年を記念し同センターは、研究書も記念出版した。『日本農業と農政の新しい展開方向&minus...

    (社)農業開発研修センター(会長理事:藤谷築次・京大名誉教授)は今年創立40周年を迎え、同センターが事務局となっている近畿農協研究会も創立50周年となることから両者が共同で記念事業を実施、その一環として11月28日には記念シンポジウム「日本農業・農政と農協運動の新しい展開方向を探る」を京都JA会館で開いた。JA関係者、研究者、行政関係者ら約120名が参加し議論した。

 

藤谷築次会長理事
藤谷築次会長理事

    創立40周年を記念し同センターは、研究書も記念出版した。『日本農業と農政の新しい展開方向−財界農政への決別と新戦略』(藤谷築次編著)、『農協の存在意義と新しい展開方向−他律的改革への決別と新提言』(小池恒男編著)がそれで(いすれも昭和堂)シンポジウムでは同書をふまえて2つの報告が行われた。


◆日本農業の基礎条件を直視して

小池恒男滋賀県立大名誉教授
小池恒男
    滋賀県立大名誉教授

    小池恒男滋賀県立大名誉教授は「日本農業・農政の基本問題を考える」と題して前出「日本農業と農政〜」書に基づいて報告した。
    日本農業に国際競争力をつけるため構造改革を進めるべきなどとする財界農政は土地、気候、他産業の労働条件といった日本農業の基礎的条件を軽視した主張であり、これを直視することなしに「あるべき日本農業の姿を描く」ことはできない、とするのが同書の基本的な主張である。
    日本農業は農地に占める水田比率が高いのが特徴だが、小池氏は農業の展望を拓くにはこの水田の高度利用・多面利用が鍵を握ることを報告した。
    同書では水田利用の将来予測を行っている。それによると現在の約100万haの転作面積が2025年には主食用米の消費減少から、150万haへと増えることが示された。水稲作付け面積と転作面積の比率が現在の6対4から次第に5対5へ、そして4対6へと逆転することが考えられるという。
    このような現実にどう向き合うかは重い課題だが、わが国の食料安全保障、さらに世界の食料需給のひっ迫の備えと国際貢献も含め水田をどう活用するか。小池氏はこれは「遠大な課題」だが、国民の食料自給率向上の声が高まっている今こそ、とくに飼料用米の位置づけの大転換が求められているとした。また、基本計画はこうした課題を整理して抜本的見直しを行い、そのうえで「水田高度利用促進法」など、日本の農業の根幹である水田の新たな利用を体系づける制度・政策を構想すべきではないかと提起した。
    担い手政策のあり方では、「育成すべき担い手についての考え方」と「有効な担い手政策」に分けて考えるべきであるとした。
    現状では家族経営が中心である以上、今後はその組織化・協同化による生産組織や集落営農なども拡大し、個別経営中心ではなく、経営体の多様化が進む可能性も高いことを指摘。また、中山間地域では農業の担い手には公共的事業主体の側面もあること、一方で地域に深く関わる地元企業と農協との連携により若い担い手を組み込むなども担い手像の視野に入れて考える必要があるという。また、産業としての農業の担い手と、地域社会の構成員である農家を区別して考えることはできないことも強調した。
    こうした担い手の姿を想定すれば、その育成策は、規模要件などで「絞り込んで直接支払いをするという計画経済まがいの手法」ではなく、農協などが事業展開をするなかで生まれてくる経営体を、掘り起こし育成するという市場原理に沿った手法で支援すべきではないかと指摘。
    いずれにしても、「単に大規模農家に農地を集めればよいという単純な状況にはなく」、地域農業の担い手の裾野をいかに広げるかを考え「もっと分厚い農業の担い手構造」を作り出すべきだと提言した。
    そのために市民の農業への参画なども含めて「国民合意形成にもとづく農政づくりを目に見えるかたち」で進めていくことが、真の農政転換につながるのではないかと指摘した。

◆問われる農協の存在意義

滋賀県立大学の増田佳明教授
増田佳明
    滋賀県立大学教授

    滋賀県立大学の増田佳明教授は「農協の基本課題を考える」と題して報告した。
    増田氏は農協の事業体制の変化を整理。広域合併による事業縦割り体制の進行と部門別採算の確立、地域の事業拠点の統廃合とそれにともなう「出向く」営業体制への転換、組合員サービスから金融機関的顧客サービスへの変質などを挙げた。
    また、組合員も多様化し、農協を総合的に利用する帰属意識の強い世代が後退し、当事者意識の弱い世代や准組合員、事業を単品利用する「名ばかり組合員」も増大し、組織・事業基盤の変化も進んでいることを指摘した。
    こうしたなか、農協の事業はそれぞれの分野で事業量の拡大に努めてきているとみられるが、それは「理念なき経営の多角化」につながりかねないのでは、と懸念したうえで、今、求められているのは「農協が何をめざすのかを明確にすること」、しかもそれを対外的に宣言することが重要だと提起した。
    その理念の基本は「農を基軸とした地域協同組合」。「農」にウエートを置くか、それとも「地域」か、はそれぞれの農協によって異なるが、農協の理念を幅広くすることによって、たとえば、農業生産力の増大のための組織という位置づけではなく、農村地域の活性化という観点からも協同組合として規定することも考えていいのではないかと指摘した。
    ただし、農協組織の地域における公益性とは「お墨付きが与えられる」ものではなく、組合員、地域のニーズを事業活動化することによって「自ら公益性を獲得すること」だと認識しなければならず、だからこそ「運動体であることを再確認すべき」だという。
    そのためには「組合員起点、地域起点のビジネスモデル」をどう組み立てるか。
    また、事業利用者を幅広く正組合員化することや、運営参加方式を見直すことなどにも取り組み、その成功例のひとつのモデルとして増田氏はファーマーズマーケットを挙げた。こうした成功例から何を導き出すかなども課題となる。
    組合員の間に生まれた取り組みを支援するスタイルも農協の求められているとして、広域化するなかで地域で生まれる「小さな協同をどう農協が支援するか」も重要だと指摘した。
    このように課題を整理したうえで、今後も農協運動にとって、基本は農協=単協であり連合会・中央会はサポートするもの、「単協が瀬略を立てることがますます大事だ」と強調した。
    一方、中央会のナショナルセンターとしての機能を再度考える必要があることも指摘した。経済事業改革指針などをJAグループの「基本方針」に盛り込むことになっているが、これは農協法に規定されている。増田氏によれば、いわばJAグループの「グループ自治」の方針が「法定化」されたともいえ、主体性の喪失も懸念されることなども課題提起した。

◆国民合意の農政運動を

    パネルディスカッションには京都府農林水産部の黄瀬謙治部長と、兵庫県農協中央会の坂木陽一氏も加わった。黄瀬氏は京都府の実態から国の大規模農家育成方針に疑問を感じるとし、一方で多様な人々がどう農業に関わっていけるか、その仕組みづくりが課題となっていることなどを話した。
    坂木氏も組合員のニーズといえば「私の田んぼを管理してほしい」がいちばん多いと危機感を募らせた。
    改めて議論されたのはとくに中山間地域の多い西日本では農地を担い手に集約するという政策が現実的ではなく、複合経営への支援や集落営農などの組織化の大切さ。多様な市民の農業参加も農業、農協にとっての課題であることも強調された。
    藤谷会長理事は「現行の基本法には(大規模経営の実現による)国際競争力の強化など一言も出てこない。きちんとしたアンチテーゼを作りあげ、食料自給率向上など実現のための国民合意づくりに取り組めば農政改革は実現できる。あきらめてはいけない」などと語った。

(2008.12.08)