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重要品目、最大6%

−農業交渉議長第4次改訂版を提示
安易な妥協は将来に重大な禍根

◆米の輸入、114万トンにも 上記の図をクリックすると別窓で拡大表示されます     12月6日にWTO農業交渉のファルコナー議長が示した議長案第4次改訂版は、本体となる文書のほかに3種類の作業文書が用意された。モダリティ(共通のルール)の本体文書は7月以降の議論の進展をふまえ括弧書きの部分が大幅に減った。その一方で合意に至っていない論点として「重要品目」、「関税割当の新設」、「途上国向けセーフガード(SSM)」について作業文書を示したのが今回の特徴だ。    「重要品目」の数については、基本が全タリフライン(関税...

◆米の輸入、114万トンにも

上記の図をクリックすると別窓で拡大表示されます

    12月6日にWTO農業交渉のファルコナー議長が示した議長案第4次改訂版は、本体となる文書のほかに3種類の作業文書が用意された。モダリティ(共通のルール)の本体文書は7月以降の議論の進展をふまえ括弧書きの部分が大幅に減った。その一方で合意に至っていない論点として「重要品目」、「関税割当の新設」、「途上国向けセーフガード(SSM)」について作業文書を示したのが今回の特徴だ。
    「重要品目」の数については、基本が全タリフライン(関税分類品目)の4%までと明記された。
    関税削減率と関税割当拡大幅の関係は(1)一般品目の削減率の3分の2の場合は国内消費量の3%拡大、(2)同2分の1の場合は3.5%拡大、(3)同3分の1の場合は4%とされている。関税割当の拡大は重要品目に指定した場合の代償措置だ。
    今回の文書では一般品目の関税削減率は関税が75%を超える最上位階層について70%と明記されたことから、(1)の場合は約47%、(2)は35%、(3)は約23%の削減率となる。
    現在の米の関税率は従量税で1kgあたり341円。米を「一般品目」に指定した場合は、関税割当(ミニマム・アクセス、MA米)の数量拡大は求められないが、関税は1kg102円に下がってしまう。
    重要品目に指定した場合の(1)から(3)は、関税が182円から261円となるがMA米の数量拡大が求められることになる。いちばん関税引き下げ幅の少ない選択をした場合(23%削減)、ミニマム・アクセス数量は4%増やさなければならないことになる。
    9日の参議院農林水産委員会で農水省は03〜05年の消費量をもとにした4%の数量は、37万5000トンとなるとの試算値を示した。現行のMA米76.7万トンにこれが積み増しされれば114万2000トンとなる(上図)

◆作業文書には日本の主張も

    重要品目数を2%追加し6%とすることも可能としているが、その場合は追加した2%相当数の品目について関税割当数量をさらに0.5%上乗せすることが要求される。代償措置を付けなければ重要品目の拡大は認めないという考えだ。
    本体文書では、この重要品目数を規定した部分に「日本とカナダは合意していない」との注釈が記されている。また、作業文書では日本が重要品目数を8%と主張していることも記されているが、具体的にどう対応するかは書かれていない。
    上限関税については前回と同様、記述はないが、重要品目について関税削減後も100%を超える品目については、代償措置としてその品目の関税割当をさらに0.5%拡大するよう要求する記述は残っている。
    また、一般品目で100%を超える品目が残る場合は、タリフライン数の1%に限り、(1)すべての重要品目の関税割当をさらに0.5%拡大、または(2)該当品目の関税削減を2年短縮して実施する、または(3)該当品目の削減幅を従価税ベースで10%ポイント上乗せするかをしなければならないことも記されている。
    ただ、作業文書にはこれらの選択肢に加えて、4年間に限定して全対タリフラインの2%まで100%超の品目が残ることを認める議論もあることを提示している。
    
    ◆関割新設は両論併記

    現在、関税割当がない品目について、関税削減率を抑える代わりに関税割当枠を新設するという問題については、(1)現行の関税割当品目に限定するとして、これを否定する案、(2)すべての品目に関税割当指定ができるとする案の両論併記で前回改訂版と変わらない。
    ただし、作業文書では全タリフラインの1%について、通常より大きい関税割当拡大を行う場合に限って認める案が提示されている。
    関税割当の新設が必要な国として米国、EUも文書に示されていることから、農水省国際部によると「少なくとも関税割当の新設は認めないという議論にはならないだろう」と話す。ただ、作業文書に示されているように関割拡大など厳しい条件が求められる可能性はある。
    日本にとっては関税割当を新設して重要品目に指定する必要があるのは、砂糖やコーンスターチ用トウモロコシなど。JAグループは砂糖は国境線に近い地域で生産されており国家安全保障の観点からも国内生産が必要だとし、また、スターチ用トウモロコシは主産地での畑作輪作体系に組み込まれていたり、雇用など地域経済にとっても重要な作物になっていると強調している。
    
    ◆途上国向けセーフガードも焦点

    輸出規制については関係国との協議と協議状況についての農業委員会への報告などの規定が新しく盛り込まれ日本の主張が反映されている。農水省はこの点については評価できるとする。
    そのほか、7月の閣僚会合で米国と中国・インドが対立し決裂の原因となった途上国向けセーフガード措置(SSM)について、今回は作業文書で新たな提案を行った。
    この問題で焦点になっているのは、輸入量急増でセーフガード措置を発動した場合、ウルグアイ・ラウンドで約束した関税水準(譲許税率)を超えてどこまで関税引き上げができることにするか、その発動基準と引き上げ幅だった。
    7月にラミー事務局長が示した調停案では、発動基準は過去3年間の輸入平均量が140%を超える場合のみ。そして譲許税率を超える幅は15%が限度とされた。また、この措置は輸入急増によって実際に国内価格の低下が認められた場合のみ発動できるとした。
    途上国は譲許税率を超える引き上げ幅をもともと30%と主張。中国・インドは、実際の価格低下を要件とするなどの厳しい要件も含め途上国の声を代表して調停案を拒否した。
    インドの平均譲許税率は約120%だが、実際の適用税率は平均約37%。適用税率との幅がかなりあることから、実際は譲許税率を超える関税引き上げ問題には関心がないのでは、との指摘もあるという。しかし、中国はWTO加盟時に大幅に関税削減をし、平均譲許税率16.2%に対し適用税率は15.8%とほとんど差がない。したがって、輸入急増時に譲許税率を超えてどこまで引き上げできるかは切実な問題だった(全中「国際農業・食料レター10月号」より)。
    一方、米国にとっては発動基準が140%では低すぎるとの不満を持ち、結局、決裂した。
    今回はこの問題について、発動基準を120%と140%とし、それぞれに譲許税率を超える引き上げ幅を示した(120%案=8%ポイントまたは関税率の3分の1引き上げ。140%案=12%ポイントまたは関税率の2分の1の引き上げ)。ただし、前回と同様に価格低下が認められない場合は発動できないとの記述もあり、SSMをめぐる対立も再び焦点となることも考えられる。
    
    ◆不透明な各国の思惑

    11月の金融サミットやAPEC首脳会合で年内合意をめざすメッセージが出され閣僚会合が年内に開催される見通しもでている。しかし、各国で足並みがそろっているわけではない。
    豪州、ブラジル、EUとラミー事務局長は早期妥結に動いていると言われるが、インドは「先進国が譲歩しなければ決着しない」との立場だ。
    また、農業分野だけではなく非農産品分野(NAMA)でも対立がある。NAMA交渉でも改訂議長案が示されたが、分野別関税撤廃については、議論が収斂していないことが明記された。たとえば、農業では早期合意を求めるアルゼンチンも、鉱工業品分野の関税削減で困難があり合意には否定的だという。
    米国は政権移行期にあり交渉姿勢は不透明になっているが、米国ファームビューローなど農業団体が早期妥結をめざした閣僚会合に反対しているだけでなく、全米製造業者協会やサービス産業連盟も、今の案では他国の市場開放が不十分だと反対しているという。
    予断を許さない状況だが、「世界の食と農の将来に縦断な禍根が残しかねない」(9日の緊急決議)合意を断固としてはねのけ、多様な農業の共存を実現する合意へと大幅な修正を図る取り組みを進める必要がある。

(2008.12.10)