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規模拡大で食料基地150万ha構想を提言

−日本国際フォーラム

◆1200万トン生産体制を  (財)日本国際フォーラムの政策委員会は政策提言「グローバル化のなかでの日本農業の総合戦略」を1月14日に公表、麻生総理に提出した。  提言は、WTO農業交渉について現在のファルコナー事務局長案の受諾を前提に、対外政策を練り直すべきだとする自由化受け入れ路線が基本。そのうえで大規模化による水田農業の構造改革をさらに進め、世界市場に進出する成長産業として日本農業を構想している。  提言は本間正義東大大学院教授を主査に荒木一郎横浜国大大学院教授、大泉一貫宮城大大学院教授、丸山康之読売新聞調査研究本部主任研究員をメンバーにまとめた。 ...

◆1200万トン生産体制を

 (財)日本国際フォーラムの政策委員会は政策提言「グローバル化のなかでの日本農業の総合戦略」を1月14日に公表、麻生総理に提出した。
 提言は、WTO農業交渉について現在のファルコナー事務局長案の受諾を前提に、対外政策を練り直すべきだとする自由化受け入れ路線が基本。そのうえで大規模化による水田農業の構造改革をさらに進め、世界市場に進出する成長産業として日本農業を構想している。
 提言は本間正義東大大学院教授を主査に荒木一郎横浜国大大学院教授、大泉一貫宮城大大学院教授、丸山康之読売新聞調査研究本部主任研究員をメンバーにまとめた。
 提言について本間教授は日本農業の基幹は「米」であるとして、政策の基本は「生産者のやる気と生産性の向上につきる」と強調。基本的な構想のポイントに「減反政策の抜本的見直し」を掲げ、「米農家がのびのびと自由に生産し、さまざまなコメビジネスを展開する環境を整えるべき」だと主張している。
 具体的には、世界市場に進出することとを視野に「1200万トン」の生産体制を復活させるため「減反廃止の工程表」を作成することが必要だとしている。
 同時に生産者の自由な活動で規模拡大を図れるように、農地規制の適用を除外する経済特区を設定し、100ha規模の農業経営体を1万創出、現行の約460万haの農地の3分の1にあたる150万haを「食料基地」とするのが同提言の構想だ。
 また、こうした構想を実現する農業経営支援策には、現在の補助金制度を改め、規模拡大を誘因する大型融資制度を導入すべきだとしている。経営規模目標などの基準となる計画達成者には返済免除措置を設ければ意欲が高まるとする。

◆生産数量枠を市場取引

 農地集約化のために、提言でいう経済特区では、たとえば30年間農地以外への転用を完全禁止すれば、転用期待による農地保有がなくなり意欲ある生産者への農地集約が進み100ha経営が実現するという。
 また、緊急にとるべき対策として、小規模農家の離農を促す、農地の権利委譲などを条件とした早期廃業への援助措置を導入すべきとも提言している。
 米の生産調整では廃止に向けた工程表を作成するが、当面、総量として生産数量を調整することが必要なら生産者間で「生産数量枠を自由に取引できる市場を創設すべき」であるとしている。
 米の生産量が1200万トンの場合の米価を本間教授は「60kg7〜8000円」と試算。100ha規模ならコスト低減で関税が100%になっても内外価格差は均衡しているのでは、とする。
 また、将来の米需給の姿は国産主食用が500万トン、自由化によって輸入される外国産米が100万トン、残りの国産米700万トンを飼料用、米粉、輸出に回す世界を描く。
 「飼料用、米粉用の生産増を、という現在の議論とかみ合わない提言ではない。ただ、日本は米こそが基本的な商品で、戦略は世界に米を食べてもらうこと。将来は(日本のコストダウンと途上国の経済発展で)途上国の一般市民にも売れる米もできるはず」と本間教授は話す。
 同フォーラム事務局によれば提言を受け取った麻生総理は「関心を示した」という。
 現行のWTO交渉案の受諾という一層の農産物貿易自由化を前提に、規模拡大によって国際競争力をつけ日本農業を成長産業にするというこの提言には、産業界、経済学者、元大使など外交関係者、著名ジャーナリストなどが名を連ねる同フォーラム政策委員99人が署名した。
 本間教授は「100ha規模1万経営体=150万ha食料基地」構想について、1992年の農水省「新政策」が10〜20ha経営を15万、農地面積にして300万haと構想していたことを指摘し、「(現状に合わせた)焼き直しではあっても決して荒唐無稽ではない」と会見で強調した。
 現行の水田・畑作経営所得安定対策は経営規模による選別が問題になったが「むしろ現行の直接支払いは経営規模を現状で固定しかねないもの。さらに規模拡大を通じた構造改革を進め、それが実現した後に直接支払いが必要」との考えを示す。そのために生産刺激的な融資制度が必要だという。

【解説】
 同提言の食料基地構想に含まれない農地・農業者については、畜産、野菜など経営の高度化、差別化で維持していける経営が残り、さらに定年退職者の就農支援なども通じ多面的機能を発揮させる農業として残すべきだとする。支援方法としてふるさと納税など導入なども提唱している。
 また、農商工連携による農村での新たな雇用機会の創出と、農地確保・利用については国土計画・都市計画と一元化した検討が必要だとも提言している。
 構想の核となっている100ha規模の水田経営についてはたしかに現在でも皆無ではない。ただ、たとえば北海道の大規模稲作経営で、効率化のために1ha区画のほ場整備をしようにも「風が強く湛水が一方に吹き寄せられてしまう」(農中総研・調査と情報/09.1/藤野信之主席研究員)といった現状も指摘されている。このように、たとえ農地の分散状態を解決したとしても、なおその地域の気象条件などに合わざるを得ない農地利用の課題もある。「規模拡大による効率化は机上で考えるほど容易ではない」(同)実態はある。
 また、当面の生産調整に関して生産数量枠の取引を提言、一部で県間取引がすでに定着していることから、これを生産者段階で実施する「機は熟している」とする。ただし、当面の問題とは、まさにそもそも生産調整に参加していない生産者、地域に対する不公平感だ。これを生産枠の取引だけで現場の閉塞感が払拭できるかどうか。
 また、提言では「減反政策の廃止」を言うが、米の生産調整政策は、最近でこそ水田のフル活用が強調されるものの、そもそも水田を過剰基調の主食米以外にどう活用するかが課題だった。しかし、主食用以外の米づくりや他作物でも水田経営が成り立つ支援策が継続・実現されなかったことから、「現象」としての不作付け=減反を一部で生み、一方で米の過剰作付けを招いた。現場では作物対策の充実も焦点にすることが期待されている。
 同提言は基本計画の見直しをにらんでまとめられた。現場からの検証が必要だ。

(2009.01.26)