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「政策の大柱を立て議論を」

−審議会企画部会−
−特命チーム会合−「農業、がけっぷちの意識あるか」

    新たな食料・農業・農村基本計画に向けて議論している審議会と、政府一体で農政改革を検討する農政改革特命チーム会合は2月下旬から3月初めに、それぞれ現行基本計画の検証をテーマに議論を行った。審議会では、国民の農業への関心は高まっているが農政の全体像は分かりにくく「政策の大柱を立てて議論すべき」などの意見が出た。一方、特命チーム会合では食料自給率目標が達成できていないことや、耕作放棄地が増えていることなどの現状に対して「なぜ、こうなったのかという原因の追求が不足」、「農業が崖っぷちにあるとの意識があるのか」と農水省の分析に対して注文が出た。意見の概要...

    新たな食料・農業・農村基本計画に向けて議論している審議会と、政府一体で農政改革を検討する農政改革特命チーム会合は2月下旬から3月初めに、それぞれ現行基本計画の検証をテーマに議論を行った。審議会では、国民の農業への関心は高まっているが農政の全体像は分かりにくく「政策の大柱を立てて議論すべき」などの意見が出た。一方、特命チーム会合では食料自給率目標が達成できていないことや、耕作放棄地が増えていることなどの現状に対して「なぜ、こうなったのかという原因の追求が不足」、「農業が崖っぷちにあるとの意識があるのか」と農水省の分析に対して注文が出た。意見の概要を紹介する。

現行基本計画の検証作業進める

◆審議会の位置づけを確認

    2月26日に開催された審議会企画部会では冒頭、農政改革関係閣僚会議の特命チームや、経済財政諮問会議などでも農政改革が議論されていることから、委員から「審議会の位置づけを確認したい」との意見が出た。
    これに対して針原総括審議官は「農業政策の基本は食料・農業・農村基本法。これに基づく計画を議論する審議会は今後5年間の農政のあり方を決める重要な場。最終的には基本計画に結実していくということ。整合性のある検討をしていく」と答え、特命チームのアドバイザーでもある鈴木部会長も国民各界、各層の代表が委員になっているとして「みなさんの意見が重要。審議会の意見が(特命チーム会合にも)反映できるよう十分議論を」と述べた。
    この日の企画部会で、JA全中の茂木会長は、世界の食料事情が大きく変わっているなか、水田農業と食料安保の位置づけを明確にすることや、行き過ぎた市場原理、規制緩和の方向を見直すことが、新基本計画策定の基本となるべきだと強調した。
    また、農業の担い手については地域の実態をふまえた確保、育成が必要であること、生産調整について選択制が報道されていることは「極めて遺憾」であり、市場任せにすれば米価は大幅に下落し担い手にこそ打撃を与えることから、「計画生産を前提に生産調整のメリット措置の充実が必要だ」との意見を述べた。

◆施策の集中の必要性も

    他の委員からは、「担い手を支援することは後戻りできない。ばらまきでは農政をあやまる。生産調整も見直しの方向で施策を担い手に集中させるべきだ」との意見がある一方、、「若い人が農業をやってみたいという施策にしなければ。それにはある程度再生産可能な利益が必要。これをつくればこの価格は保障する、ということがないと若い人は就農しない」との指摘も出た。
    また、生産調整に関しては「過剰米が出て一方で耕作放棄地が増える現状では決して成功したとはいえない」として「長期的に日本の米政策はどうあるべきかを検討すべき。地域ごとの生産コストなどデータを示して、どの基準なら再生産できるのかを掘り下げて議論すべき」と今後の議論に向けた具体的な提案もあった。
    ただし、消費者委員からは「生産調整と言われても分からないというのが本音。MA米を輸入していることはほとんどの人は知らないが、生産調整をしながら輸入するというのは納得できないし、耕作放棄地が増えるのはいやだが、どうしたらよいのかは分からない」との率直な声もあった。
    そのほか、地域条件が異なるなか、生産調整など政策の枠組みは、基本部分と地域合意で上乗せしていける部分に区別して組み立てることを追求できないかといった指摘もあった。
    生産調整など米政策や担い手確保対策、農地などを中心に議論が行われるなか基本計画の4つの課題(食料の安定供給、農業の持続的発展、農村の振興、施策の総合的な推進)について「何を重点にするか優先順位をつけるべき」、「政策の大柱を立てるほうが国民に分かりやすい」との意見もあり、鈴木部会長は委員に対してその具体的な内容を提案するよう求めた。また、自給率目標については企画部会で検討することになっているが「委員も共同の責任を負っている。何年か後に(自給率が)上がっていなければみなさんにも責任が生じるという覚悟で議論していただきたい」と要望した。

◆米政策が焦点に

一方、3月3日の特命チーム会合(写真)でも審議会と同様、現行基本計画の進捗状況を検討し意見交換した。
    意見では「日本の農政の根底は米偏重では。米は安くなってはいけないという意識があった。にもかかわらず水田農業の担い手がいない。それがなぜなのかを検証すべき。基本計画の枠では扱いきれないかもしれないがぜひテーマにすべきだ」、「担い手育成や農地利用の集積はそれなりに進み成果はあるというが、それならなぜ農業生産額は下がってしまったのか。日本農業に力量はあるのにそれを発揮できない政策になっているのでは。たとえば、担い手についても経営というコンセプトがない農業者を担い手というのかといったことも考えるべきだ」などの意見が出た一方、「現場がどのように困っているかを検証し、元気が出て自給力が上がるような政策はどうあるべきかと検討したほうが分かりやすい」との指摘もあった。
    また、生産調整についても大規模農家のほうが必要だという声もあることや、実際に、米価が下落しているのに「農地の流動化は起きていない。それはなぜかを検証すべき」など現場の実態に即した議論の必要性も指摘された。
    農水省の検証についても「農業が崖っぷちならこの検証が甘い」と厳しい指摘もあり、米政策の徹底検証や、農地改革などを掘り下げるべきとの意見もあった。 こうした議論をふまえ、米価と農地流動化への影響、新規就農者の実態、参入意向のある企業などの声など、検討項目を整理して議論を進めることになった。

【食料・農業・農村政策審議会企画部会委員】
▽荒蒔康一郎(キリンホールディングス(株)取締役会長・日本経団連農政問題委員会共同委員長)▽岡本明子(環境カウンセラー・主婦)▽榧野信治(読売新聞東京本社論説副委員長)▽古口達也(栃木県茂木町長)▽櫻井敬子(学習院大法科大学院教授)▽鈴木宣弘(東京大大学院教授(部会長))▽玉沖仁美((株)リクルートじゃらんリサーチセンター客員研究員)▽平田克明(平田観光農園代表取締役会長)▽深川由起子(早稲田大政治経済学術院教授)▽藤岡茂憲(藤岡農産代表取締役・日本農業法人協会副会長)▽松本広太(全国農業会議所専務理事)▽茂木守(JA全中会長)▽森野美徳(都市ジャーナリスト・日経広告研究所主席研究員)▽吉川洋(東京大大学院経済学研究科教授)

●農政改革関係閣僚会合メンバー
▽河村健夫・内閣官房長官▽石破茂・農政改革担当大臣(農林水産大臣)▽与謝野馨・経済財政政策担当大臣・財務大臣▽鳩山邦夫・総務大臣▽二階俊博・経済産業大臣(主宰者:内閣官房長官、農政改革担当大臣)
◎特命チームメンバー
▽内閣官房内閣参事官▽内閣府大臣官房審議官▽総務省大臣官房企画課長▽財務省主計局総務課長▽農林水産省大臣官房総括審議官▽経済産業省大臣官房審議官
【アドバイザリーメンバー】
▽大泉一貫・宮城大大学院事業構想学研究科研究科長▽鈴木宣弘・東京大大学院教授▽中村靖彦・東京農業大客員教授

(2009.03.11)