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JAにも期待される「集落支援員」への取り組み -「補助金」ならぬ「補助人」が制度化 -中山間地域フォーラムの集会から

-「補助金」ならぬ「補助人」が制度化 -中山間地域フォーラムの集会から

 人口減少と高齢化で消滅も懸念される集落で、住民が主体となった集落再生・維持に向けた話し合いなどの活動を外部の人材でサポートする「集落支援員」の制度を総務省が導入した。この制度は支援員の活動費や人件費などを特別交付税で支払うもの。昨年8月のスタートで、本格実施は21年度予算からだが、すでに同制度を活用して集落支援員を設置する市町村も多い。総務省が想定する人材は地域の実情に詳しい「身近な人」。現場からは「長年農家とコンタクトをとり農業の知識も豊富なJAのOB職員なども集落支援員として期待したい」との声も出ている。このほど行われた集落支援員全国交流集会の議論からの制度の現状と課題を考えてみた。

◆集落を歩く若者の姿に「元気が出る」

中山間地域フォーラムが2月28日に開いたシンポジウム「集落支援員全国交流集会 ‐ 若者が集落の元気を作る」には全国から自治体関係者ら300名以上が集まり急遽第2会場を用意するなどの盛況ぶりだった。
実践報告は島根県浜田市弥栄自治区(旧弥栄村)で地域マネージャーとして活動する皆田潔氏と、新潟県長岡市で中越地震からの復興に取り組む集落を支援する地域復興支援員の杉崎康太氏が行った。

皆田氏は島根県の中山間地域研究センターの客員研究員に採用され、27集落ある弥栄自治区の集落活動を支援する弥栄ラボの事務局として19年から地域マネジャー活動を始めた。
活動は「住民と住民、弥栄地区と他地域をつなぐ結節機能の発揮」が目的。具体的には島根県立大学の学生組織、里山レンジャーズと連携し、外部の若者たちが中心となって地域住民の依頼で草刈りや耕作放棄地の復興、栽培管理、地域新聞の発行などの活動を行っている。
活動は住民の指導のもとに行い、山林管理や弥栄地区の資源資源を学ぶ機会にもなっている。手伝いのお礼に農家でもらう食べきれないほどの野菜を、学生たちは大学や浜田市街で直売することを企画、地域の宣伝とともに活動資金を得る取り組みも展開している。
4戸しかない山間地の集落では13年間不作付け地だった農地を草刈り管理を条件に借り受け、里芋、小麦の作付けをしたほか、風景を活かして、簡単な木のベンチを設置、「天空のカフェ」と名付けたところ市街地から若者が大勢集落を訪ねてきたという。
これまでに全27集落のうち23集落で活動を実施。「若者が歩いているだけで元気が出る」といった声が住民から聞かれるようになるなど、「楽しみが増えた」、「生活の不安が解消された」、「頼りになる」などの評価も出てきた。「ようやく地域のつなぎ役となる下準備ができた。これからが地域への支え役となるステップの段階」と皆田氏は話す。

◆復興ではなく地域づくり

新潟県では中越地震被害で急激に人口が減り、集落機能が維持できなくなる可能性のある被災地域で、“地域復興支援員”を19年に設置した。
杉崎氏はこれに応募して、長岡市栃尾地区の地域復興支援員として活動している。スタッフはほかに地元の男性と女性で構成。
集落づくりを話し合う場を設定し住民の声に耳を傾けるなかから、地域の行事を通じて住民が元気を出す活動に力を入れることに。年中行事の復活や、収穫祭や昔の写真・スライド上映会など、これまでになかった新行事まで支援員として提案、集落づくりの背中を押している。同時にこうした集落活動を市街地にも知らせるPR活動にも力を入れてきた。
支援員の仕事は「決まっているようで決まっていない」。地域住民との信頼関係をつくるために「集落に通ってよく話をすること。ときには酒を飲みながらでも」という。
また、活動を通じて感じたのは「震災は地域を見つめ直すひとつのきっかけに過ぎないということだ」と指摘、「復興ではなく、今置かれている状況から地域がどう集落づくりをするのか、戦略を持った支援活動が求められている」などと話した。

◆地域の実情をよく知る人に期待

総務省の調べでは20年度の集落支援員制度への取り組みは11府県、66市町村でスタート。専任の集落支援員は199人、そのほか自治会長などと兼務の集落支援員は約2000人いるという。
全国交流会では、農山村で暮らしたいという都会の若者を送り込んできた「緑にふるさと協力隊」の取り組みも紹介された。過去15年の実績で研修後も農山村に定住した若者が4割もいて、集落活動や農林業の支援からも地域に住み着く若者の可能性も紹介された。また、(社)農山漁村文化協会の甲斐良治氏は、90年代不況のなかで就職氷河期を迎えた若者たちには「何をしてどんな風に生きてきたのか、そのお手本として農村のお年寄りの『持続性』に学ぶ」という価値観が生まれてきていると指摘、「コミュニティも若者を必要としているが、若者もコミュニティを必要としている」と話し、集落支援員についても「ウエイ・オブ・ライフとしての農」という新たな視点からの必要性を提起した。
実践報告した皆田氏も杉崎氏も外部の人間。そうした立場のメリットとして「地元の人間であればかえって聞けないような事情や悩みも率直に聞けてしまう」といった点を上げる。
ただ、課題を聞くと、「いきなり地域のなかに入ることはできない。学ぶ時間も必要でまずは顔を知ってもらわなければ」といった基本的な点や「地域に流れる時間の速度を狂わせるような活動は禁物」などを皆田氏は指摘する。また、「活動の成果はすぐに出るものではない」と杉崎氏は地道な努力を課題に上げる。
今回のシンポジウムでは集落を元気にする若者たちに焦点が当たったが、集落支援員として総務省が想定しているのは「地域の実情に詳しい身近な人材」だ。行政、農業委員、普及指導員ももちろんだが、JAのOBも当然含まれる。
緑のふるさと協力隊を積極的に受け入れ定住する若者を増やしてきた山口県の旧豊田町長の吉本知則氏は、集落支援員制度について「やはり農家と長年コンタクトをとってきた人は農家にとってやさしい存在。市町村は合併によって個々の集落にそっけなくなっている実態がある。JAのOBには期待できるはず。JAも思い切って(この制度を活用して)手をさしのべるべきだと思う」と話していた。

(2009.04.01)