農政・農協ニュース

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【農政レポート】新基本計画策定へ企画部会が再開

 今年1月に前政権が審議会に諮問した「食料・農業・農村基本計画」の見直し作業が、審議会企画部会で再開された。
 政権交代で注目されていた企画部会は10月21日に会合を開催。農水省から提出された「政策課題の整理の概要」には戸別所得補償制度、6次産業化など民主党のマニフェストの言葉がずらり。出席した郡司副大臣は「与党の方針にしたがって改めて課題を整理していただければ」と今後の議論に期待した。しかし、委員からは「マニフェストはあくまで参考。拘束されることなく意見を出し合っていけばいいのでは」との意見も出た。
 今後、来年3月の閣議決定をめざして急ピッチで議論を進めるが、赤松農相は林業、水産業、さらに民主党が提唱している6次産業化も含めた「もう少し大きな枠組みの基本計画にしたほうがいいのではないか」と発言しており、今後の検討が注目される。

マニュフェスト国民合意へ

◆3月閣議決定めざす

あいさつする郡司彰副大臣 郡司彰副大臣は会合の冒頭にあいさつ。「選挙による本格的な政権交代が起きた。国民の多くが政治の変化を望んでおり、それは農林水産政策にも向けられている。そうした変化をマニフェストの推進でハッキリ打ち出していきたい」と強調し、審議会の議論について「マニフェストで示した与党の方針に従って改めて課題を整理していただければ。これにそって主要施策の見直しに関する議論を進めていくことをお願いしたい」と述べた。
 「基本計画」は食料自給率目標を設定するなど、当面の食料・農業・農村政策の方向を定めるもので、平成11年に制定された基本法で「概ね5年ごと」に策定することになっている。
 現行基本計画は2回目となる平成17年策定であることから、前政権は昨年末、おおむね10年後に食料自給率50%とする方向で来年3月に見直す方針を決め、今年1月に審議会(食料・農業・農村政策審議会)に政策課題や見直し方向について諮問した。
 新政権は政権交代による農政転換をめざすにしても現行基本法がある以上、基本計画の策定がまさに“基本”作業となることから、これを継続することとし3月末の閣議決定をめざすことにした。

(写真)あいさつする郡司彰副大臣

◆審議会の役割は?

 ただし、この日に提出された政策課題を整理した資料には、これまでの審議会では議論されなかった「言葉」が盛り込まれた。
 代表格はいうまでもなく「戸別所得補償制度の導入」と「農業・農村の6次産業化」だ。
 審議会のこれまでの議論でも「主要農産物を生産する農業者の所得を補償するため、販売価格が生産費を下回る場合にその差額を基本とする仕組みを創設することが必要」との指摘は出ていた。それを民主党マニフェストの「戸別所得補償制度」と符合させ整理した格好だ。
 また、“売れる農業・儲かる農業”を実現し農業者の所得向上につなげる課題は「農業・農村の6次産業化」として括られた。
 資料と同時に委員にはマニフェストも配布されたが、政策課題としては、マニフェストで掲げた食料自給率50%目標は示されなかった。
 こうした課題整理について委員からは「われわれが議論してきたことの上にマニフェスト(が掲げた項目)があっては少し変ではないか。マニフェストは参考とするにしても拘束されることなく、意見を出し合って10年、20年後の(日本農業の)姿を示せばいいのではないか」との意見もあった。
 鈴木部会長はこうした指摘に対し、「自由な議論を尊重しその結論をまとめるのはその通りだ。ただ、政権が代わったからといっても(食料・農業・農村をめぐる)論点は同じということではないか」と引き取った。
 また、郡司副大臣はあいさつのなかで戸別所得補償制度など総選挙で掲げた公約について、「今後、国民的合意を得ていかなければならない。審議会のあり方もそこから出てくる」との認識を示した。

◆構造展望が課題

 新基本計画策定に向けた今後の課題として指摘が多かったのは、いわゆる農業構造の展望をどう描くかだった。
「構造展望が議論の整理から消えた。夢のある展望をどう描くが大事では」、「担い手、認定農業者の言葉がない」、「戸別所得補償制度は手段であって目的ではない。どういう構造をめざしてどういう手段をとるのかを議論すべき」、「10年後、20年後の農業をどうするのか集中して議論したい」などの意見があった。
 そのほか「果敢に挑戦していく人を育てるのが政策ではないか。(担い手像をめぐって)民主党議員にも参加してもらっていいのでは」といった意見もあった。

◆米の需給調整に懸念

 主要議題のもうひとつが、政府が来年度から実施するとする戸別所得補償制度のモデル事業。
 米に対する事業は「生産数量目標に即した生産を行った集落営農を含む販売農家」が対象。来年度からの事業内容は、
 (1)標準的な生産費(過去数年平均、家族労働費は8割)と「当年の販売価格」との差額を全国一律単価として交付。
 (2)交付金のうち、標準的な生産費と「標準的な販売価格(過去数年平均)」との差額を定額部分として価格水準に関わらず交付((1)との違いは当年産価格と過去数年平均価格)、とされている。
 農水省の説明ではこの定額交付金(面積あたりの固定支払い分)があるため、「作付け規模の拡大によってコストダウンすればするほど所得増が見通せる」ことから大規模化が誘導されるとした。
 これに対して委員からは全国一律交付について異論が出た。「たとえば中国・四国などは生産費が全国平均よりも高い」として、十分な補てんが受けられないとなれば「小規模農家は(生産数量目標生産に)参加せず想定外の米価下落が起きるのでは」との意見もあった。
 農水省の幹部はこれに対して戸別所得補償制度ですべてを補償するわけでなく、コスト高となる条件不利地は中山間地域直接支払いの活用などを考え「政策体系全体として本格実施に向けて検討していく」とした。
 また、22年産の実施概要を決める11月末までには定額交付額は決める見込みと説明した。ただし、交代水準を決める課題は「定額部分を厚くすると買い叩きの対象になる」とした。
 
◆政策体系が課題
 
 モデル事業のもうひとつが「水田利活用自給力向上事業」。
 これは「米の生産数量目標に即した生産のいかんに関わらず」すべての生産者を助成対象とするもの。麦・大豆、飼料作物、新規需要米などに10aあたり1万円(野菜など)〜8万円(米粉米など)の全国統一単価を設定する。
 これら二つの事業が生産調整実施でリンクされてはいないことから需給調整への懸念も出ている。
 農水省はこれら二つの政策の関係について、今回は米生産への支援策として戸別所得補償が導入されることを強調し、
 (1)生産調整を100%は達成できない生産者(部分達成者)であっても麦・大豆への支援が組み込まれたことから米の過剰生産には歯止めがかかる。
 (2)大豆・麦の支援単価が低く米への支援のほうが有利だと判断した場合でも、生産数量目標に即した生産(→戸別所得補償制度に参加)を行わなければならないこと。
 などを例に挙げて需給調整に寄与する仕組みであることを強調した。
 ただし、米粉や飼料用米の場合、その生産増への誘導を、主食用米の計画生産とリンクさせずに実現できるか懸念もある。
 次回の企画部会は11月10日ごろの予定。
 
◎茂木守JA全中会長の意見

 企画部会委員の茂木守JA全中会長はカナダで開催された国際農業生産者連盟(IFAP)会合出席のため次のような意見を寄せた。
【政策目標の設定】
(1)
農業者の意欲を高め農業・農村に元気を取り戻すため国が取り組むべき政策の目標として農業生産・所得額の増大目標を設定すべき。そのうえで生産・加工・流通の一体化など6次産業化や販売価格向上、生産量拡大、コスト削減など必要な施策を関係者が一体となって具体化することが必要。
(2)食料自給率の向上は農地の利活用、担い手の育成・確保によって食料自給力を強化するとともに、戸別所得補償制度と合わせ品目別支援策を措置することなどにより、概ね10年後50%を目標にすべき。
【戸別所得補償制度】
 (1)22年産対策として需要に応じた生産に取り組む計画生産実施者に対するメリット措置と理解。来年の米生産に向け待ったなしの時期。事業目的、対象者、支援単価などを早急に明らかにしたうえで全国の稲作生産者への周知徹底と22年産の計画生産への取り組みを。
(2)麦・大豆など戦略作物への直接支払いの全国統一単価は分かりやすいが、これまで担い手が中心となって進めてきた主産地の麦・大豆などの取り組みが後退しないか、地域の創意工夫ある取り組みや推進体制はどうなるのか、目標達成を交付要件としないことによって米の需給緩和、過剰米が発生するのではないかなどの懸念がある。適切な評価と対応が必要。

 

「政策課題の整理」概要

企画部会の検討テーマと予定

(2009.10.26)