農政・農協ニュース

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地域興しの活動こそが人づくり 第9回JA人づくり研究会

 JAの組織づくり・人材育成などについて考える「JA人づくり研究会」(代表:今村奈良臣JA総研所長)は10月8日、東京・大手町のJAビルで第9回研究会を開いた。
 第7回(22年3月)で「地域おこしとJAの役割」、第8回(同7月)で「地域を興す人材の創造」をテーマとし、地域づくりによって人材を育成しよう、またはその道を模索しようというある種の方向付けがなされたが、今回はその過去2回の内容を引き継ぎ、「農業の6次産業化で地域を興す―そのための人材をいかに増やすか―」をテーマにした。これまで2日間の日程で開いてきた研究会だが、今回から1日に短縮した。農業の6次産業化に取り組む4件の実践報告と総合討議があり、全国各地のJAや県連などから70人以上が集まる盛況な研究会となった。

参加者に「JAによる6次産業化」を呼びかける今村代表(後方中心)

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参加者に「JAによる6次産業化」を呼びかける今村代表(中心)


【総合討議】

◆JAは断固として6次産業化を

 今村代表は、郷里の大分県で大山町農協が農協としては全国初となる直売所「木の花ガルテン」を開くとともに、「ウメ、クリ植えてハワイに行こう」をキャッチフレーズに、条件不利地でいかにしてお金になる作物をつくろうとしているかの取り組みを見て、「6次産業化を思いついた」という。
 6次産業化や直売所など地域興しの活動によって人材は育つ。この日発表した4件の事例はその好例だとして、「JAが断固として6次産業化をやっていかなければならない」と提言した。
 また、「トップダウンで答えを与えるのではなく、ボトムアップで問題を発見させて解かせるのが人づくりにつながる。研究会では、問題解決の答え探しをするのではなく、そのためのヒントを持って帰ってほしい」と参加者に呼びかけた。

◆将来、どんな地域社会をつくりたいのか?

宇都宮大学・守友裕一教授 4つの実践報告を総括した宇都宮大学の守友裕一教授は、「4人とも非常に信念を持って活動している」と評価した一方、これからは規格外品や加工品などの取り扱いが増え商品が多彩化する中で、いかに売り先を探し、それを支えるネットワークを構築するかが課題になると指摘した。
 また、農商工連携と6次産業化について、「平成20年に発布された農商工連携促進法は、中小企業者と農林水産漁業者のマッチングでそれぞれの経営改善を図ろうというものだったが、(現在検討されている)6次産業化促進法案は、新規の農林水産物や資源を有効活用し、農山漁村の活性化を図るのが目的だ」とそれぞれの法(案)を例に取り、めざす方向が違っていることを説明した。
 その上で、6次産業化は産業の総合的な複合化だとし、「それによって産み出した付加価値をどう地域に還元し、さらにはその先を見据えてどのような地域社会をつくるか、という発想がもっとも大事だ」と総括した。

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宇都宮大学・守友裕一教授


◆「コーディネート=補助金」ではない

総合討議では活発な意見交換が行われた 実践報告の後に行われた総合討議では、職員教育や組織運営、協同組合の本来的なあり方にいたるまで、さまざまな議論がなされた。
 実践報告の中でもっとも職員教育について多く語ったのはJA中札内村の山本組合長だった。教育に対する考え方について問われると、「特別な教育制度や研修内容よりも、トップの姿勢が大事だろう」と改めて強調した。というのも、山本組合長が毎朝7時半に事務所に出勤してると、次第に全職員が組合長を追うように早く出勤するようになったからだ。職員の自発的な意識改革を促した好例である。
 JA全中教育部の田村政司教育企画課長からは、「近年、JAの職員教育でネットワークの構築・普及や地域でのコーディネート、組織化を手がける職員を育成してこなかったのではないかと、反省している」との意見があり、オルガナイズのできる職員をどう育てればよいかと質問した。
 それに対して世羅高原の後さんは、「現状を見据えて、問題点がどこにあるのか、次はどう動けばいいのかを考えなくては、コーディネートはできない」と答えた。
 地域の人たちが集まって何か加工品を作りたいという漠然とした意見から「ふるさと小包」を商品化した経験を例に出し、「その場その場で、中身、人、状況は変わる。しっかり相手をみて、何をすればみんなが興味を持ってくれるかを追求するべきだ」と提起した。
 加えて、「コーディネート=事業(補助金)の誘致」と勘違いしている人も多いが、「お金がなくてもやる気があれば地域づくりはできる」と、力強く述べた。


◆できるものと売れるものは違う

総合討議では活発な意見交換が行われた JAいずもの米原稔組合長は、就任して3カ月。今一番の悩みは「果たしてJAやその職員が組合員のためと思ってやっていることは、本当に組合員のためになっているのか」ということだという。
 「(生産現場で)できるものと、商品になるもの(消費者ニーズに合うもの)は違う」と指摘し、同JAではブドウのデラウェアを地域ブランドとして確立しているが、農家組合員がマンネリ化してしまい、つくればJAは勝手に売ってくれると思われているという現状を報告。「これまで農家がつくってきたブランドを、どう維持すればよいか」と問いかけた。
 JA中野市前常務の前澤氏は、数年前、販売店やバイヤーからの要望を受けて皮を剥かなくても食べられる小ぶりのリンゴ「ピッコロ」をつくろうと6a分の苗木を無償で組合員に配ったが、組合員からは「現在決められている規格に沿ってしっかりやっているので、それと違うことはあまりやりたくない」と断られた経緯を話し、「直販事業によって、消費者ニーズを直接知ることができる。100%直販はできないが、総合的なニーズを把握することが必要だ」と述べた。

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総合討議では活発な意見交換が行われた


◆人づくりとは地域を元気にする取り組み

 JAえひめ南の黒田義人組合長は、世羅高原6次産業ネットワークの取り組みに非常に刺激を受けたと述べ、「農産物価格の低迷などで、明らかに衰退している農村現場においては、これまでやってきた農業協同組合のやり方と、世羅高原のような地域ネットワークシステムと、どちらが強力になるのだろうか」と問題提起した。
 ただし、ネットワーク組織の場合、問題になるのはその資金繰りや組織運営だ。総合JAの場合は信用・共済事業などによりしっかりした財務基盤を持っているが、ネットワークの場合そういった基盤づくりは難しく、実際にはネットワークの中核を担う人々の気持ちに支えられている部分が大きい。自主独立の組織になるためには、どのように事業展開すればよいかがこれからの課題になる。
 地域づくりの取り組みは人材育成だけでなく、協同組合本来のあり方をどう考えるかという問題にもつながる。
 協同組合経営研究所客員研究員の内田正二氏(JAいずも元専務)は第2回から継続して研究会に参加しているが、「講師陣を含めて、内容がだんだんと具体的になってきた」との感想を述べ、「人づくりというのは、事業展開をどんどんやりながら、組合員も職員もみんな巻き込んで、地域を元気にしようという取り組みだと思う。協同組合の本来的な原理、原則、原点に立ち返り、今から本気になって再び農協を作り直していくべきだ」と提案した。
 JA名西郡の綾部正専務もJAグループの現状を「JA綱領や各連合会など理念や組織は立派だが、その中身は組合員がスムーズに理解できるものになっているのだろうか」と疑問を述べ、「非常に厳しい財政、経済状況、迷走する農政の中で、今こそ協同組合の原点に立ち返って役職員は真剣勝負をすべきだ」と、参加者らに呼びかけた。

◇   ◇

 次回のJA人づくり研究会は2011年2月10日に開催される。第10回の記念研究会として、これまでの歩みや総括などを発表・討議する予定だ。


【実践報告1】

加工事業拡大ねらい、地域を越えたネットワーク組織を構築
本山優蔵 氏(JAあしきた総合直販部部長)

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本山優蔵 氏(JAあしきた総合直販部部長) JAあしきたは熊本県内でも比較的規模の小さいJAだが、特産品の甘夏・デコポンをつかった加工品の生産・販売やファーマーズ・マーケット(FM)など、6次産業化を基軸に独自の地域振興に取り組んでいる。

◇   ◇

加工品で一番人気のデコポンゼリー。国際的な商標登録も得ている JAあしきたが今取り組んでいるのは、促成栽培よりも普通栽培の生産拡大だ。規格の集約や生産体系の見直しにより、「旬の農産物をいちばんいい時期に出荷しようという、当たり前の取り組み」を進めている。
 旬の時期に出荷すると市場では安値で取引されるので、生産者の手取り減少にならないためにもJAが買い取るシステムをつくった。生産拡大した分は加工原料用にまわし、加工事業全体の拡大につなげている。
 デコポンのゼリーやプリン、辛味を抑えたサラダ用タマネギの「サラたまちゃん」(商標登録)を使ったジュースやギョーザなど、詰め合わせ商品も含めると、現在販売している加工商品は実に470種類以上になる。
 加工事業拡大のため組織したのが「JAあしきた農産物直販ネットワーク協議会」だ。県内外のJAグループ、行政、学校、メーカーや小売店などのほか、マスコミや著名人など120以上が加盟し、新たな加工品の商品開発、販売、PRなどを行っている。「活動の中心は主にJAからの商品開発の提案だが、このネットワークをいかに活かして地域活性化につなげるか」が今後の課題だ。

◆新商品発表の場としてのFM

デコポン JAあしきたFM「でこぽん」は県内初のJA直売所だ。コンセプトのひとつに「農商工連携の新商品を披露する場」としての役割がある。「新しい商品は、試食宣伝会などは開けてもなかなか店に置いてもらえない。いいものを作っても販売機会が得られないという恒常的な悩みを解消するため、店に入ってすぐにプレゼンテーション用のスペースをつくった」という。
 そのほかJAでは、高齢者訪問活動の専門員「らいふサポーター」の設置、JAコンビニ店舗の展開、植物工場の建設などをすすめているが、「こういったさまざまな事業展開は、職員教育や人づくりをしっかりやっているからこそ」の成果だ。

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加工品で一番人気のデコポンゼリー。国際的な商標登録も得ている


【実践報告2】

トップの姿勢次第で人材は育つ
山本勝博 氏(JA中札内村代表理事組合長)
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山本勝博 氏(JA中札内村代表理事組合長) JA中札内村の山本組合長は今年で就任して9年目だ。職員教育に取り組むとともに、職員の質をあげることで全国一のえだ豆産地を形成した経緯などを発表。組合員戸数170戸と小規模なJAながら、昨年度は北海道110JAの中でも6番目に多い3億1000万円の剰余金を計上するまでに成長している。

◇   ◇

 山本氏が組合長に就任して最初に驚いたのは「職員の茶髪やノーネクタイが多かった」ことだ。まずは身だしなみから整えさせようと、全職員を集めて注意した。当時の役員は「せいぜい1週間で元に戻るよ」と言ったが、「自分と職員との戦い。最初が肝心だ」と厳しく指導した。
 そのほか、主に女子職員の仕事だったお茶汲みや掃除を各自がやるように変え、業務の効率化を徹底させることで多額の残業代を減らすなど、職員の意識改革に腐心した。
 特徴的なのは直売所の運営だ。特定の店長や職員をおかず、全部門全役職員に1週間交代で必ず店に立つようにし、礼儀やJA・地域のことなどを学ぶ職員教育の場にしている。中には、自分が店番の時に家族・友人に声をかけて売り上げを伸ばそうと努める職員もおり、「非常にいい結果を生んだ」と評価する。

◆職員が変われば農産物も変わる

職員教育の拠点にもなっているJA中札内村の直売所(道の駅店) 平成20年の農政事務所の調査では、中札内村の1戸あたり平均所得は1844万円と全国的にも類をみない高所得地域だ。これは「生産者とJAが一体にならないと実現できない。生産者が責任を持ってつくるには、JAの徹底した営農指導が必要だ」という。
 えだ豆を含めた輪作体系、残留農薬検査、肥料・農薬の使い方、など厳しい営農指導をすることで、組合員が生産への高い意識を持つようになった。
 職員のやる気を引き出すためには、トップが責任をもって活動しなければいけない。
 山本組合長は自らセールスマンになって、職員とともに東奔西走し販路を拡大している。また数年前、えだ豆の取引業者に夜逃げされ1000万円近い負債が出たときも、組合長と専務で500万円ずつ自腹を切って補てんし、職員には「気にしないでがんばれ」と声をかけた。
 「トップがしっかりした姿勢を示すことで、職員や組合員の意識が変わる。弱点のある職員が変わることで、農産物の質もよくなる」と持論を述べた。

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職員教育の拠点にもなっているJA中札内村の直売所(道の駅店)


【実践報告3】

販売力=地域ブランド×商品力×人間力
前澤憲雄 氏(JA中野市前常務理事)

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前澤憲雄 氏(JA中野市前常務理事) JA中野市は、昭和39年に合併し当時としては珍しい1行政1農協として誕生した。合併して46年、めざす姿は「つくる農協から売る農協へ」で一貫している。

◇   ◇

 JAでは46年にエノキダケの種苗センターを開設、47年に巨峰の加温ハウス栽培を始め、50年代には水稲転作としてアスパラガスを導入するなど、次々と新作物を導入し、常に日本一の産地をつくってきた。
 JAの販売高は平成元年に初めて200億円を突破したが、15年には158億円まで落ち込んだ。なんとかしてもう1度、JAの販売高を復活させようと『200億円販売再構築』をスローガンに、「組合員とともにJAへの結集力を高める」ことで販売力を強化しようと取り組んだ。

◆単品大量から、多彩な品目へ

イベントできのこの解説をする「きのこマイスター」。地域活性化とPRに一役買っている その基本方針は「単品大量生産による『量は力』の販売から、キノコと園芸品を2本の柱として多彩な品目の組み合わせによる『総合』販売への切り替え」だ。「過去にはリンゴ、巨峰、アスパラガス、エノキダケなど日本一の農産物をつくってきたが、単品で突出した生産はいつか必ず売れなくなる」というのが、戦略を変えた理由だ。
 それにより21年には205億円を達成。さらに23年には288億円にまで高めようと高い目標を掲げている。「ものを売るだけが農協の仕事じゃない、とも言われるが、やはり販売力の強化はJAの本分。総合販売力=地域ブランド力X各農産物商品力X人間力、だと考えている。1つでも欠けたら販売力はゼロになる」という。
 JA主導の人材育成事業として、4年前からキノコの魅力を正しく発信するキノコソムリエ「信州きのこマイスター」育成事業を始めた。22年6月には一般社団法人信州きのこマイスター協会を設立し、独立事業とした。
 マイスターの主な活動は、「ベジタリアンのように、キノコや発酵食品を毎日好んで食べる人たち『マイコファジスト』の拡大と、地元特産品であるキノコのPRなど」だ。4年間の累計で入門コース204人、その上のマイスター100人を認定し、全国各地のイベントや販促などに活躍している。

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イベントできのこの解説をする「きのこマイスター」。地域活性化とPRに一役買っている


【実践報告4】

町全体を日本一大きな観光農園に
後由美子 氏(世羅高原6次産業ネットワーク前コーディネーター)

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後由美子 氏(世羅高原6次産業ネットワーク前コーディネーター) 世羅高原6次産業ネットワークは、地域で6次産業化に意欲的な生産者・団体・企業などがつくるネットワーク組織である。農業の6次産業化の実践で、農産物加工品の生産・販売だけでなく、町全体を日本一大きな農村公園にした。

◇   ◇

 世羅高原は昭和52年から、国営開発事業として山を切り崩して357haの広大な団地農園をつくったが、土地条件や生産者の技術不足などの理由で倒産・夜逃げが相次いだ。
 そこで平成10年1月に、地元の生産部会、行政、JA尾道市など関係機関が連携して世羅高原6次産業推進協議会を設立。翌年には加工グループや観光農園など32の生産者団体を中心とするネットワーク組織を設立した。現在の参加団体は61にまで拡大している。
 ネットワークの主な活動は、農産物・加工品の開発、各地イベントへの共同出展、マネージメントセミナーなど。開発した加工品は100種類を超え、ネットワークにも加入している地元の世羅高校とタイアップして作った梨ジュース「世羅っとした梨 ランニングウォーター」などのヒット商品も生まれた。

◆拠点施設は「協同組合」

ネットワークの郷土料理部会が開く「地産地消のつどい」。40品目以上の郷土料理を紹介し、次代へ伝統の味を継承する。 平成9年以降毎年、市町村や国の補助金が出ていたが、「補助事業がなくなった時、急に売り先がなくなったら困る。自分たちの活動拠点をつくろう」と、18年4月に念願の拠点施設「協同組合 夢高原市場」を立ち上げた。2年間の準備期間では、年間100回以上の会合を開いたという。
 「夢高原市場」にはショップ、農業公園、ワイナリー、レストランがあり、生産者による対面販売、特産加工品の販売、販売農業・農村体験、郷土食の伝承などを行っている。「まさにネットワークの集大成であり、農業のトータル産業化という6次産業化の実践」である。地域全体の農産物や加工品の売り上げ、世羅高原の知名度と来客数の増加だけでなく、若者の就農増、異業種との連携、新しい町づくりの発展など、さまざまな相乗効果を生んだ。
 「現在の夢高原市場の売り上げは7000万円ぐらい。本来だったら稼いだお金で事務局を運営したいが、なかなかそこまではできない」のが現在の課題だ。「今は参加しているみんなの『気持ち』で運営しているが、10年後にはなんとか自立したい」という。

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ネットワークの郷土料理部会が開く「地産地消のつどい」。40品目以上の郷土料理を紹介し、次代へ伝統の味を継承する。

(2010.10.21)