農政・農協ニュース

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米の備蓄量引き下げ、SBS拡大が論点!?―行政刷新会議の事業仕分け第3弾

 10月27日から行政刷新会議による事業仕分け第3弾が始まる。今回の対象は、政府のすべての特別会計(特会)。特会で行われている事業を検証するとともに、特会制度そのものも検証するという。 農林水産省所管では5会計(18勘定)があるが、このうち米の備蓄のためなどの予算である食料安定供給特会については、「備蓄水準の引き下げによる経費の削減」、「SBS米の拡大によるMA米経費の削減」などという論点も想定されるという。

◆ゼロベースで見直し

 特別会計とは特定の事業などのために、一般会計とは別に特定の収入と支出で区分する経理。たとえば年金保険料を一般会計にまとめてしまうと、受益と負担の関係が明確でなくなることから区分経理を設けたものだ。現在は、18の特会がある(1つの特会のなかをさらに区分する場合は「勘定」と呼び現在51ある)。
 この特会について、行政刷新会議は「事業の内容や資金の流れが国民・納税者から見て分かりにくい」、「区分経理されていることで歳出が既得権となったり、ムダ使いを助長することになるのでないか」、「不要な積立金や剰余金があるのでは」といった指摘があることから、今回、ゼロベースで見直すことにした。
 食料安定供給特会は、国民への食料の安定供給を図るため、国有農地の管理・処分、資金の貸付・回収(農業経営基盤強化勘定)、戸別所得補償制度による米・畑作物の交付金の交付(農業経営安定勘定)、備蓄米・外国産麦の売買(米管理勘定、麦管理勘定)、国営土地改良事業の工事(国営土地改良事業勘定)などを一体的に実施している。このうち国営土地改良事業勘定は、平成20年度から未完了借入事業の工事が全部完了するまでの経過措置として設置された。
 財源は貸付金の償還金や納付金、米麦の売却代と一般会計からの繰入れだ。23年度概算要求では、食料安定供給特会は歳入3兆5841億円、歳出3兆5534億円となっている。このうち戸別所得補償制度の所得補償交付金として4200億円、米の棚上げ備蓄のための523億円を所要額として要求している。また、22年度には予算の見直しでこの特会の剰余金・積立金486億円を一般会計に戻した。

◆農政にとってふさわしい論点か?

 行政刷新会議の特会仕分けでは、これまでの農水省との協議のなかで、(1)戸別所得補償制度の交付金の財源となる農業経営安定勘定で多額の剰余金が発生するなか、一般会計から繰り入れることが妥当かどうか、
(2)米の100万t備蓄水準の引き下げによる経費縮減を図ってはどうか、(3)ミニマム・アクセス米の運用はSBS(売買同時契約方式)部分を拡大して経費負担を少なくしてはどうか、さらに(4)農業経営基盤強化勘定、食糧管理勘定(米・麦の管理勘定)を一般会計化する、が論点になると想定する。
 このうち(1)については、米の戸別所得補償制度の変動部分の支払いのためには必要で、「存続させるべきだ」と民主党の農林水産部門会議でも意見が出ている。
 また、(2)の米の備蓄水準の見直しについても筒井信隆副大臣は10月14日の会見で「論点にすべきではないと思う」と述べている。備蓄水準が100万tで十分かどうかの議論もまだあるなかで、「(論点になれば)さらに下げろということになる。下がるようなことではなくて逆の方向を検討しなくてはいけない」(筒井副大臣)との考えだ。民主党は昨年夏の衆院選で米備蓄300万tを政策集(政策インデックス)に掲げていた。
 また、(3)のSBSの拡大による経費削減も問題だ。
 SBSは、ミニマム・アクセス(MA)輸入米の運用のうち売買同時契約方式で行うもので、77万tのMA米のうち10万tをSBS枠としている。
 この枠で輸入された米は主食用として外食産業などに販売されていくため、備蓄経費は確かにかからない。しかし、国産の主食用米に影響を与えることは明らかだ。このため制度導入当初から批判もあり、平成13年までこの枠は12万tだったがそれを10万tに減らした経緯がある。
 さらに最近では米の国際価格の高騰もあって各回の落札数量が予定数量に達しないことも多い。今年度もSBS枠は米の基本指針で10万tと決められているが、これまで2回の入札で6500tしか契約が成立していない。農水省は10万t枠を達成するのに21年度は6回、20年度は8回入札を実施した。
 こうした実態もさることながら、なにより備蓄水準にしてもMA米の運用にしても食料・農業政策の根幹にかかわることだ。経費削減の観点から論じるだけではおおいに問題だろう。「SBS拡大による経費削減」などは食料自給率向上目的と相反することは明らかで、これが論点として浮上すること自体、疑問だ。
 行政刷新会議担当の蓮舫大臣は特会を対象にした今回の事業仕分け第3弾について「廃止・削減して金を生み出すものではありません。政策の目的をどんな手段で達成しようとしているのか、適切な手段がとられているのか、手段を問うもの」(『世界』11月号)と語っている。
 食料・農業政策の目的は何かをしっかりふまえて検討されることが望まれる。
 食料安定供給特別会計は27日午後、ワーキンググループBで検討される。

(農水省関係特会の国会議員評価者)長妻昭、本多平直、岡田康裕、緒方林太郎、長島一由、花咲宏基(以上、衆議院議員)。
(民間有識者)赤井伸郎・阪大大学院国際公共政策研究科准教授、太田康広・慶大大学院経営管理研究科准教授、梶川融・太陽ASG有限責任監査法人総括代表社員、土居丈朗・慶大経済学部教授、岡田秀二・岩手大農学部教授、樫谷隆夫・公認会計士、税理士、角紀代恵・立教大法学部長、佐藤主光・一橋大大学院経済学研究科、政策大学院教授、鈴木豊・青学大大学院会計プロフェッション研究科長、中村卓・構想日本政策担当ディレクター、馬場治・東京海洋大教授、原田泰・大和総研専務、森信茂樹・中大法科大学院教授。
(政府)園田康博・内閣府大臣政務官、寺田学・総理大臣補佐官

【農林水産省所管特別会計】
○食料安定供給特別会計(7勘定)、○農業共済再保険特別会計(6勘定)、○森林保険特別会計、○国有林野事業特別会計、○漁船再保険及び漁業共済保険特別会計(5勘定)。

(2010.10.26)