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政府、TPP「協議開始」を明記―基本方針を明日、閣議決定

 政府は11月9日、新成長戦略の一環として諸外国との経済連携強化と貿易拡大をめざす「包括的経済連携に関する基本方針」(EPA(経済連携協定)基本方針)を閣議決定する。焦点となっていたのは10月1日に菅首相が国会の所信演説で突如表明した環太平洋連携協定(TPP)へ日本が参加することを盛り込むかどうか。
 TPPは関税撤廃の例外を認めない完全な自由貿易化をめざした交渉で、締結すれば「日本農業が壊滅するのは火を見るより明らか」、「国民の圧倒的多数が望む食料自給率50%の達成は到底不可能になる」(茂木守・JA全中会長)としてJAグループをはじめ農林水産関係団体はもちろん、市町村、消費者団体からも断固反対の声が全国から一斉に上がっていた。これを受けて与党内からも「議論が拙速。熟議が必要」との異論が強く、今回の基本方針では「参加」の判断は先送りされた。ただし「情報収集を進める」ために「関係国との協議を開始する」ことは明記された。予断を許さない状況で今後、各方面と連携した運動が重要になる。

 EPA基本方針(包括的経済連携に関する基本方針)では「高いレベルの経済連携を進める」と宣言し、そのために必要となる「競争力強化等の抜本的な国内改革を先行的に推進する」ことも明記した。国内農業・農村振興と経済連携を「両立」させることを目的に総理を議長とする「農業構造改革推進本部(仮称)」を設置し来年6月をめどに基本方針を決定する、としている。

◆すべてを自由化対象

政府のEPA基本方針のポイント 基本方針では「高いレベルの経済連携」の必要性を繰り返し強調し、そのために「センシティブ品目について配慮を行いつつ、すべての品目を自由化交渉対象」とすることを明記した。
 わが国は現在、12か国とEPA・FTAを締結している。しかし、FTA(自由貿易協定)比率は16%で、韓国36%、米国38%、EU30%にくらべ低いとして自由化率を高めるのが政府の狙い。
 これまでにわが国が締結したEPA・FTAでは米、牛肉、乳製品などをすべて例外扱いしてきたが、「高いレベルの経済連携、ではこれまでの20%を超えるような例外を設けることなどできない」(平野達男内閣府副大臣)ことを意味するという。
 基本方針では、センシティブ品目に配慮することが盛り込まれているものの、同時に豪州やペルーとの現在交渉中のEPA交渉の妥結、日韓EPA交渉の再開に向けた取り組みを加速化することなど具体的な国名を挙げた。日豪EPA交渉は今年4月までに11回交渉が行われているが、日本側が主張するセンシティブ品目についての溝は埋まっていない。
 政権交代後、赤松元農相は昨年10月、豪州のクリーン貿易大臣に対して「日本にとって米、小麦、牛肉、乳製品、砂糖の5品目は非常にセンシティブ」と新政権でも農産物は除外する方針であることを表明した。
 こうした経過を考えると、この基本方針に即してどう妥結を図るのか、注視される。
 
◆TPP、「参加判断」の文言はなし

 TPPについては4日に民主党のプロジェクトチームは(1)情報収集のための協議を行い、参加・不参加を判断する、(2)参加条件を詰める本格交渉、(3)国会による批准、という段階を踏むべきだと提言した。
 「協議」については当初「事前協議」とする案が提示されたが、これでは参加を前提としたものになりかねないとの反発が出て、単に情報収集のための「協議」とされた。
 また、情報収集した事実関係をもとに「徹底的な検証と国民的議論を行うことを前提とする」ことも盛り込まれた。
 しかし、基本方針ではTPPについて「その情報収集を進めながら対応していく必要があり、国内の環境整備を早急に進めるとともに、関係国との協議を開始する」と明記した。
関係閣僚会合後に記者会見する平野内閣府副大臣 関係閣僚会合後の記者会見で平野達男内閣府副大臣は「協議」について「情報収集をかねた協議をするということ。どこかで(参加・不参加を)判断することになる。判断するに足るための情報収集、あるいは協議をやるということ」と述べたが、その時期については明言しなかった。 参加・不参加の判断をいずれはすると言うが、基本方針では一言も登場しない。その点では党の提言を退けたともいえなくもない。また、外交交渉だけでなく、どんな行動にしても情報収集するのは当たり前のことともいえる。こうした点からも「関係国との協議」の文言をめぐっては政府・与党内の混乱も予想され、予断を許さない問題だといえる。

(写真)関係閣僚会合後に記者会見する平野内閣府副大臣

 

◆またも「構造改革」

 菅総理は「開国」と「農業再生」を「両立」させると再三、強調してきた。
 そのため総理を議長とした「農業構造改革推進本部(仮称)」を設置する。副議長には玄葉国家戦略担当大臣と鹿野農水大臣が就任する。
 同本部では持続可能な力強い農業を育てるための対策を検討し、来年6月をめどに基本方針を決定する。
 今年3月、10年後に食料自給率50%を目標にした食料・農業・農村基本計画を策定し、その実践を始めたばかり。新基本計画は、戸別所得補償制度や農業・農村の6次産業化などを柱にした農政転換だと位置づけた。それが経済連携の促進のもと、またまた「農政改革」が議論されることになる。一体何が議論されることになるのか? 篠原孝農水副大臣はその課題について「関税を引き下げても大丈夫だということが相当前面に出てくることになると思う」と述べ、菅内閣は「強い経済・強い財政・強い社会保障」を掲げているが「そこに、強い農業が加わるということです」と話している。
 同本部では基本方針を策定した後、財政措置などを検討し来年10月には中長期的視点をふまえた「行動計画」を策定するという。
 その際には、国内生産維持のために消費者負担を前提として採用されている「関税措置等の国境措置のあり方を見直し」、「段階的に財政措置に変更することにより、より透明性が高い納税者負担に移行することを検討する」とした。

(2010.11.08)