農政・農協ニュース

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「顔の見える直売所」はもう古い  JA―IT研究会第28回研究会

 JA-IT研究会は12月3〜4日、東京・神保町の日本教育会館で第28回公開研究会を開いた。テーマは「女性の力で営農活動と地域づくりに新たな風を」。来年で発足10周年となる同会はこれまで営農の課題を中心に研究会を重ねてきたが、"女性"をテーマにするのは初めて。発表者、参加者とも女性が多く、にぎやかな研究会になった。

2日目の討論会から。(左から)発表者の小池さん、樽谷さん、池田さん、大木さん、尾崎さん、司会の仲野氏、コーディネーターの松岡氏(写真)
2日目の討論会から。(左から)発表者の小池さん、樽谷さん、池田さん、大木さん、尾崎さん、司会の仲野氏、コーディネーターの松岡氏。

◆JA女性部のワクを超えた活動を

 これまで農山村部の女性活動というと生活文化や福祉活動などが注目されていたが、最近は農産物加工、直売、食農教育など「農」を起点にしたさまざまな活動で存在感が高まっている。
 今回はそれぞれの分野で先駆的活動をしている4人の女性を含む5人の発表があり、活発な意見交換が行われた。
 会の今村奈良臣代表はテーマに掲げた女性の力について「JA女性部の枠組みを超えて、広く地域社会全体を揺り動かすようなエネルギッシュな活動が必要だ」と強調。副代表の仲野隆三JA富里市常務理事も「地域社会が存続するためには、男社会に女性の英知を入れなければいけない」と訴えた。
 4人の発表者とそれぞれのテーマは、▽「女性の視点を活かした営農相談活動の展開」樽谷淳子(兵庫県・JA兵庫六甲三田営農総合センター営農相談員)、▽「互助精神で福祉の協同 あしたあんしんして生き活きと輝いていたい」池田陽子(長野県・JAあづみ総務開発事業部福祉課)、▽「直売所を都市農村交流の拠点に」大木秀子(千葉県・ふれあいパーク八日市場)、▽「生かし切れない素材で新たな商品開発を進めよう」尾崎正利(福岡県・職彩工房たくみ)(敬称略、小池芳子氏の基調講演は別掲)。
 JAの営農相談や生活福祉事業、直売所、加工などの現場から、女性のコミュニケーション力や生活の知恵・心配りなどの視点が必要だと語った。


◆しゃべる農産物を並べよう

 討論会では、直売や加工の現状と今後の課題について多くの意見交換がなされた。
 先日、農水省が発表した農林業センサスでは全国で1万7000の直売所があるとの統計が出た。しかし、直売所が増える一方、生産者の数は毎年減っている。
 参加者から「(直売所を)建てても、どう売ればいいかわからない生産者が多い。これからの運営はどうあるべきか」と問われ、小池氏は「直売所と八百屋やスーパーは違う、ということをしっかり考える必要がある。例えば、おいしい食べ方メモを書いて添えるなどの親切心が1つ加わるだけで売れ行きは変わる。出荷者が加工アドバイスをするコーナーを設けたりするのもいい。“生産者の顔”が見えるなんて当たり前の時代になったので、次のステップに頭を切り替えていかなければいけない」と提言した。
 樽谷氏は「市場出荷をめざす組合員と直売所に出す組合員とで、完全に二極化している。JAの営農指導が両者をしっかりわけて考えて、作付け提案をするべきだ」と、自身の経験も交えて話した。


◆女性の社会進出が経済成長を支える

 大木氏は、ふれあいパーク八日市場で毎年100万円ほどかけてクリスマスのイルミネーションをやっている。当初はJAや出荷者から必要性が疑問視されたというが、「特に子どもが喜んでくれる。山の中の店舗だけど、夕方に点灯する頃には多くの人が集まってくるようになった。地域貢献として必要だと思う」と述べた。
 そのほか「キノコはカットせず、菌床、原木どちらでも栽培されたままの元気な姿で出せば、たくさん売れる」「牛乳や小麦粉を使わない米粉シチューを提案したら、米粉の売れ行きがあがった」など、具体的な事例報告もあった。
 コーディネーターの松岡公明協同組合経営研究所常務理事は、「農業には表現力が必要だ。顔を見せるだけではダメ。保存の仕方、食べ方などを提案し、消費者の買い物に対する課題を解決するのが直売所。雄弁にしゃべる農産物、提案する農産物が今後のキーワードになるだろう」と提案。「どの国や歴史を見ても、経済成長の背景には必ず女性の社会進出があった。女性の感性、経済力、コミュニティー力などのダイナミズムが、これからの農協運動に必要だ」と総括した。

【基調講演概要】

全国各地に農産加工所を
小池芳子氏 (有)小池手造り農産加工所社長(長野県下伊那郡)

小池芳子氏 (有)小池手造り農産加工所社長(長野県下伊那郡) 捨てるのは簡単。しかし農産物は子育てと一緒で、枝になった実に罪はない。捨てているもの、安値で取引されているものをどうやって活かすかが、これからの農業経営に必要な視点だ。コメを1俵1万2000円で売るより、1パック300円のおこわにして売った方が手取りが増える。モチ加工するのでも、単にモチをつくって売るだけでなく、焼いてノリを巻けば1切150円で売れる。ほんの少しの工夫とわずかな人件費でも付加価値を高められる。
 農産加工で重要なのは女性のワザだ。女性はもったいない精神が強いし、わずかな食材でも無駄なく使う技術・知識を持っているから。一気にたくさん作って冷凍して小出しにする、などのコスト削減の知恵もある。
 しかし今、地域で加工、直売などをやっている女性は多いが、人数が少ないとか、規模が小さいとかではダメ。女性の起業が地域産業を支えるようにならなければいけない。
 農産物の受託加工所は、47都道府県それぞれに数箇所あるべきだ。加工施設がたくさんできれば、地域経済は発展する。わたしのところに持ってきている人が来なくなるぐらい、各地域に広がってほしい。

 小池氏は元農協職員。昭和59年に無人直売所を始めて話題を呼んだ。加工所では県内外から年間1800件以上(うち8割が個人農家)の農産物受託加工を行っており、その量はジュース類37万本(≒45万リットル)、ジャム類5万4400本、ドレッシング類3300本に及ぶ。

(2010.12.06)