農政・農協ニュース

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JA経営が苦しい時代  あえていま、地域づくりに取り組む意義とは?

 農業協同組合研究会(会長:梶井功東京農工大名誉教授)は12月11日、東京・大手町のJAビルで第14回研究会「地域づくりの『新たな協同』を求めて」を開いた。総合討議では、JAの経営が苦しい中、なぜ今、地域問題に取り組まなければいけないのかをメインテーマに活発な議論が行われた。

総合討議では活発な意見交換がなされた。(左から)司会の北出氏、報告者の松岡氏、松下氏、池田氏。(写真)
総合討議では活発な意見交換がなされた。(左から)司会の北出氏、報告者の松岡氏、松下氏、池田氏。


◆地域での協同運動は産業組合の原点

研究会会長の梶井功氏 高齢化や経済衰退などにより疲弊がすすむ農村部で、JAはどのような役割を果たすべきか。今回の内容は、地域づくりとJAはじめ協同組合のあり方を考えるものになった。
 研究会の梶井功会長は冒頭あいさつで、産業組合法が制定された明治時代から「地域で協同活動をどう仕組み、どう組織するかを考えるのが産業組合の原点だった。これは戦後の農協活動の中でもずっと、特に最近は大きな問題になっている」と歴史的背景を述べるとともに、昨秋の第25回JA全国大会の決議で『新しい協同』が決議されたことを「大変素晴らしい問題提起になった」と評価。「新しい地域づくり活動の中から、今なにができるかを感じ、学んでほしい」と参加者に呼びかけた。
 報告したのは、池田陽子氏(JAあづみ福祉課)、松下雅雄氏(JAはだの前組合長)、松岡公明氏(協同組合経営研究所常務理事)、の3人。司会は北出俊昭氏(元明大教授)。
 地域住民自らによる組織化とJAの支援、協同組合社会の構築、そのためのリーダーのあり方など報告の内容は多岐にわたった。総合討議では3人の発表を元に、地域づくりとJAのあり方について多くの意見が出された。

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研究会会長の梶井功氏


◆地域貢献を積極的にアピールしよう

 「今は経営が苦しい。少しでも剰余金を出すために信用・共済事業を強化しなければならない。地域問題は非常に大事だが今はそれに取りかかる余裕はない」。
 北出氏は、こういった本音を持つJAもある中で、なぜ、いまJAに地域づくりが求められているのかを問いかけた。
 JA福岡中央会の有光久国氏は「県内では4、5年前から協同組合運動の裾野が広がっていない気がする。いま改めて協同組合の原点を見つめ直し、単発のイベントで終わらない地域づくり活動、新しい協同を広げたい」と現状認識を述べる一方で、「JAは地域貢献をたくさんやっているのに、それがわかりづらい。内に向かって叫んでいる状態で、外へのアピール不足を感じる」と課題を述べた。
 松岡氏は「今の時代、大きい取り組みを新たに始めるのはまずムリだろう。JA、女性部、青年部、それぞれいい活動をいっぱいやっているが、やりっ放しになっている。外部から仲間を入れるなどして、JAの仕事が地域の仕事として見えるようにすべきだ」と提案した。
 東農大の白石正彦名誉教授は「協同組合が溶け込んだ地域」をつくるため、「協同組合が組織の維持をめざしたのでは本末転倒。レイドロー報告にもあるが、社会性と経済性がコインの裏表になるべきだ。営利企業のような利潤追求に終始せず、時代の変化へ果敢にチャレンジしていくことが必要だ」と述べた。


◆協同組合社会をつくる適正規模は?

 全国的にJA合併が進むなか、地域づくり・協同組合社会を形づくるための適正規模についても意見が出た。
 内田正二氏(協同組合経営研究所客員研究員、JAいずも前専務)は地元島根県の1JA構想を例にとり、「協同組合は大きくなりすぎると、協同組合としての活動ができなくなる。合併して組織は大きくなるが、しっかり町や村にこだわって地元密着の活動をしよう、合併を契機にむしろ結集力を高めよう、と目標を掲げている」と紹介した。
 松下氏は自身のJA運動を振り返り、「組合員の数は顔がわかる1万人ぐらいがちょうどいい」としつつも、「大型化が時代の趨勢。2、3万と増えていくなかで、今後どういう活動をするべきか。いまJAは企業寄りになってしまっている。本店や支店の経営を中心に考え、地域を忘れているのではないか」と、現状の問題点と今後の課題を述べた。


◆反対はない・・・しかし反応は鈍い

JAあづみで活動する女性らも参加し、意見を述べた

 JAあづみからは、報告した池田氏のほかにも、生き活き塾を卒業し地域リーダーとして活躍する女性ら数人が参加した。
 JAの事業が広く地域を対象とし、員外サービスも拡充していることについて問われた小口輔貴子(ふきこ)さんは、「生き活き塾は従来の女性大学とは異なり、地域住民すべてを対象に地域づくりをしたい人たちに広く門戸を開いた。どこからも反対意見はなかった」と述べた。
 一方、JA理事の曽根原由美子さんは、「今年10月に始まった移動購買車『あんしん号』は、理事会で反対こそ出なかったものの、反応が鈍かったと感じた。役職員や理事の方々にもっと理解してほしい」と、JA内での意思統一の難しさを述べた。
 北出氏は討議のまとめとして「日本の農協は職能組合か、地域組合か、という長い論争もあるが、本来の協同組合としては両機能を統一しているところに特徴がある」と私見を述べつつ、「JAはこれまで以上に公益性を高め、オープンにして、農村での存在感を高めるべきだ。いま、地域の中で必要とされているものはなにかを重要な課題にして活動してほしい」と今後のJA運動の発展を願った。

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JAあづみで活動する女性らも参加し、意見を述べた


【報告1】

池田陽子(JAあづみ福祉課)「組織ありきではなく、自分たちで地域をつくる」
池田陽子(JAあづみ福祉課)

 農協は、高度経済成長の中で、農業を軸にして生活を豊かにするという本質を忘れてしまったのではないか。組合員の高齢化が進み、若い人たちが運動に入れない、組合員の中で健康・生活・農地などへの不安が高まっていく今の時代だからこそ、新しい協同組合のあり方を考え、協同組合運動らしい福祉事業を築きたいと思った。
 協同組合の原点とはなにか。組織や行政から何かをしてもらうのを待つのではなく、一人ひとりが活動に参画していくやり方が必要だ。「あんしん」して暮らせる地域は誰かに作ってもらうのではなく、自分で作るんだ、ということを知ってもらおうと思い地域で活動したい人たちを集めて、暮らしの助けあいネットワーク“あんしん”をつくり、地域のみんなの学びの場であり人材育成の観点からも「生き活き塾」をつくった。
 JAは、例えるなら富士山の頂点が事業、広い裾野が人と地域。人と地域がたくさん集まって大きな事業になっていくという広がりが大事だ。

 

【報告2】

松下雅雄(前JAはだの組合長)「信念をもった協同組合運動を」
松下雅雄(前JAはだの組合長)

 先日、NHKが「縮み行く行政」ということで秦野市を取り上げたが、人口減については行政も問題意識を持っている。その中で農協は、なんとか地域活性化の手助けをしようと月見会、芋煮会などのイベントを開いてきた。これからは、時の流れに身を任せではなく、しっかりした信念をもった活動が極めて重要だ。
 JAはだのは、組合員1万人を超えた今でも、総代会ではなく総会を開いている。たくさんの人が集まって、役職員が説明し、組合員が質問し、組合長はじめ経営陣が答える。一見簡単なことだが、それぞれが責任を持ち準備することが必要だ。
 40年前から曜日不問でやっている毎月26日の組合員全戸一斉訪問も、職員教育や組合員への情報提供、協同活動の補完や地域とのつながりを作る場として重要な役割を果たしている。
 農協はなにより協同組合らしい経営が一番大事。損得ばかりではなく、健全で、高い結集力をめざした、民主的運営を追求しなければならない。

 

【報告3】
松岡公明(協同組合経営研究所 常務理事)
「わかりやすい、具体的なビジョンが大事」
松岡公明(協同組合経営研究所 常務理事)

 地域にひらかれたJAになるには、さまざまな地域住民・社会とともに地域協同組合をつくることが必要だ。そのためにも、組合員の共益だけでなく、組合員の周りにいるステークホルダー(支援客)も含めた満足度をめざす必要がある。
 重要なのはJAの戦略だが、そのビジョンはわかりやすく、伝わりやすく、共有しやすく、具体的でなければいけない。例えばトップが「火の用心」と言っても、そのスローガンだけが浸透して研修会・連絡網の設置などが話されなくては何も変わらない。
 医学の世界では、本人に病気の自覚がなければ治療をしても効果があまりないと言われる。組織も同じで、いま、JAへの危機感がなければどんな予防線を張っても無駄に終わる。徳島県上勝町のように、農業が福祉力・経済力を実践した例もある。これからは協同組合運動のダイナミズムさとそれを感じるマインドが必要だ。「大きな協同」の中に「小さな協同」をつくり、組織全体に緊張感と主体性を持たせなければいけない。

(2010.12.16)