農政・農協ニュース

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原産地表示義務化で国産加工用米のニーズ高まる

 戸別所得補償モデル事業による支援もあり、22年産の加工用米は大幅な増産となった。また米トレーサビリティ法の施行により7月から加工品にもコメの原産地表示が義務付けられる。変わりつつある加工用米を取り巻く現状について解説する。

 主に酒、みそ、菓子などの原料として取引される加工用米は、主食用米よりも安い価格水準で取引され、生産数量目標には含まれず、転作作物にカウントされる。
加工用米の作付面積(ha) 22年度から始まった戸別所得補償モデル事業ではソバ、菜種と同じく10aあたり2万円の助成金が付いたこともあり、22年産作付け面積は3万9000ha。21年比で1万3000ha増と大幅に伸びたため、需給ギャップが広がった。
 このためJAグループの23年産水田対策では、加工用米作付けについて、実需者と産地の契約栽培を強化することで需要に見合った生産量をめざすとともに、需要を超える希望数量については飼料用米などへの作付け変更を徹底する方針だ。

◆加工用米新市場の影響は?

 米卸の大手10社が共同出資し2月21日に設立する(株)加工用米取引センターは、こういった供給過剰傾向の加工用米の売買契約を増やし、これまで相対取引が中心だった加工用米市場に相場を形成しようというものだ。
 同社の佐藤孝社長は、播種前にその年のおおよその基準価格がわかれば「計画生産が可能」になり、「供給過剰の際のセーフティネット」があれば生産者側にもメリットが大きいと展望を述べる。
 また、実需者の間では「国産加工用米のニーズが高まっている」という。
 ここ数年の国産加工用米は、用途によって価格差はあるがおおよそ1俵1万円前後で取引され、うるち・もち米あわせた年間供給量は20万トンほどだった。一方、海外から輸入されるミニマム・アクセス(MA)米は、年間輸入量77万トンのうち20〜30万トンほどが加工用として処理されており、価格は1俵5000円ほどで国産に比べると半値ほどの安さだ。
 ただ、MA米を加工用にする場合、主食用への横流しを防ぐため、いったん専門の破砕業者などを通してからでないと卸業者や実需者の手には渡らない仕組みになっている。一方、昨年10月に施行された米トレーサビリティ法により、今年7月からすべての商品でコメの原産地表示が義務付けられる。このため実需者にとってMA米は、安価である一方、表示義務の履行が難しくなることも指摘される。
 こうした点も追い風になり、センター設立で国産加工用米の取引市場ができれば、国産米の需要が高まり、契約栽培の促進、食料自給率の向上などにつながると期待される。
 しかし前述の通り、加工用米は例えば米菓用と酒造用では1トン1万円以上の価格差があるなど用途別で価格にはバラツキがあり、基準価格の形成は困難だとの見方もある。
 新潟県のJAえちご上越では、22年産加工用米は一部の酒造用以外は1俵5000円を割るほどの低価格で取引された。23年産は前年比4割減ほどに留め飼料用・米粉用米に振り分けるよう指導する方針だが、それでもまだ供給過剰のおそれがある。「これまで流通、価格とも全農に頼ってきたが、昨年は地域流通が増え大きく混乱した。米トレーサビリティ法、低価格志向などを背景に流通業者が独自にセンターをつくるというのは、生産現場にとって必ずしも歓迎とは言えない」(JAえちご上越・石澤正親常務理事)と今後の加工用米流通への不安を述べている。

(2011.02.07)