農政・農協ニュース

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【座談会】JAグループの水田農業対策2011  大林茂松氏・馬場利彦氏・下村篤氏(前編)

 JAグループは今年1月の全中理事会で「23年産水田農業確立にかかるJAグループの取り組み方針」を決めた。23年度から戸別所得補償制度が本格実施されることになっているが、この方針では水田農業政策をめぐる情勢と新たな状況をふまえて、各JAが自ら取り組むべき基本方向を決めた。
 そのポイントは▽米の計画生産と主食用米以外の作物転換への取り組みの徹底、▽地域水田農業ビジョンに基づく作物振興と担い手づくり、担い手への農地集積、▽戸別所得補償制度の実施に向け地域関係機関と連携したJAの役割発揮、だ。
 本紙では昨年も22年度モデル対策の実施を前に、JAの営農責任者に集まってもらい座談会を開いたが、今回も昨年と同じ出席者により22年度モデル事業を現場から検証しながら、23年産に向けた課題を話し合ってもらった。(司会:本紙編集部)

地域水田農業ビジョンの実践こそ
「強い農業」づくり

出席者
大林茂松氏・JAグリーン近江常務理事(滋賀県)
馬場利彦氏・JA全中農業対策部長
下村篤氏・JA上伊那営農部長(長野県)



◆全職員が研修しモデル事業を推進


 ――今日の座談会では、最初に22年度のモデル対策に各現場でどう取り組んできたか、その評価は? といったところからお話いただきたいと思います。
 JAグリーン近江の大林常務は昨年の座談会で「米づくりは1人ではできない。地域ぐるみ、集落ぐるみで」と強調されていました。モデル対策によってこの点に何か変化はあったでしょうか。
大林茂松氏・JAグリーン近江常務理事 大林 22年度モデル対策についてはほぼ100%、対象農家に加入していただきました。
 われわれのJAではこの制度の普及にあたって、全職員研修もやりました。とくに渉外職ですね、営農渉外はもちろんですが、信用渉外、共済渉外職員も含めて研修をして推進にあたってきました。
 JAの立場からすれば、これまでは補助金もすべてJAの口座に入っていたわけですが、戸別所得補償制度では「国から個人へ」というつながりが強調されました。そこで、やはり交付金はJAへ、という話も生産者にさせていただいたということです。これも99%、JAを指定してもらったという結果です。
 加入申請では、地域水田農業協議会と連携を取りながら、各支店に専門の窓口を設置して申請の手伝いもしました。
 ただ、農政事務所もそれなりの動きをしていただいたと思いますが、当初は何回説明の機会があっても、なかなか生産者1人ひとりにまでは理解してもらえなかった。
 だから、そこは組合員のためにJAとして力を入れなければだめだということから、われわれも推進に力を入れ、ほぼ100%加入という結果になったということだと思います。その点ではJAがなかったら何もできていなかったのではないか、という思いはあります。

 

◆米価下落に品質低下が追い打ち

 大林 加入推進に力を入れたことから、全体としては理解を得られたのではないかと思っています。一方、米価は大幅に下がりましたね。われわれのJAでも概算金支払いの時期から、今後の需給状況などを考えると、米の価格は下がることが想定されていました。では、いくらにするのか、生産者からはいろいろな意見をいただきましたが、昨年にくらべ60kgで2000円ほど安く設定せざるを得ず理解してもらうのにかなり苦労をしました。
 そこに追い打ちをかけるように品質の低下です。われわれの地域では1等比率が40%ぐらいだったんですが、価格低下プラス品質低下でさらに安くなる。1等と2等の価格差で約600円ですから、2000円プラス600円の低下という非常に厳しい状況でした。
 そういう意味では10a1万5000円の定額支払いは生産者にとってプラス要素はあったと思います。ただ、西日本のほうが1等比率が悪いなどの状況がありますが、交付金は全国一律ということで不公平感が生産者にはあると思っています。


◆崩れた地域のとも補償


 ――JA上伊那ではモデル事業をどう評価されていますか。
下村篤氏・JA上伊那営農部長 下村 特筆すべきことは、22年度は初めて生産調整が達成できなかった年だったということです。上伊那地域全体で、わずか1.9haですがオーバーしました。かつてないことです。
 原因は今回の政策転換で、これまで上伊那地域で培ってきた、とも補償が崩れてしまったということです。これまでのとも補償は、加工用米生産を活用したものでした。
 たとえば、配分面積が100であれば、そこから加工用米生産分として20を拠出してもらって地域でプールし、加工用米を多く生産する人には一定の補償をしながら主食用米との所得均衡を図り、それによって主食用米の計画生産を地域全体で達成するという取り組みをしてきました。
 しかし、モデル対策の実施で加工用米生産は生産調整とリンクしなくなりましたから、市町村によっては、加工用米面積の拠出ができないから配分どおりにします、というところもでてきた。これはJAだけでリードできるものではないので、結果として上伊那地域全体のとも補償が崩れたということです。もちろん市町村によっては継続できたところもあります。
 ただ、こうした地域のとも補償の仕組みはこれまでの助成金が水田協議会にまとまって入っていたからできたわけです。モデル対策からは交付は個人ということになると、一旦支払われてしまった交付金からもう一度集めるなんてことはとてもできませんから、ここは課題です。
 加入申請は89%ですが、規模の小さい10a未満のみなさんは入っていないので、出荷する生産者はおおむね100%加入だと思います。この点は各市町村の水田協がしっかり組織されていますので浸透力がかなりありました。
 1等米比率は96%程度で日本一は守ったのかなと思っていますが、1等米のなかでも1ランク落ちるものが非常に増えました。
 概算金は1700円減となりましたし、作況は97でしたから、このダブルパンチでJAの米の取扱い金額については約7億円の減収見込みです。ここから手数料率を考えるとJA全体の収益にも大きな影響を与えており、23年度事業計画にも響いています。

 

◆下がるべくして下がった米価


 ――米価下落が産地に大きな影響を与えていることが分かりした。全国的には22年度をどう総括されていますか。
馬場利彦氏・JA全中農業対策部長 馬場
 ちょうど一年前のこの座談会のときに危惧していたことが、そのとおりになってしまったと思います。
 21年産の価格推移を振り返ると出来秋からずっと下がりはじめて、昨年の夏には公表価格で60kg1万3280円(包装代・消費税相当額を控除)となりました。もっとも実際の全農の相対取引価格はもっと低く、1万1500円ぐらい。というのも民間在庫が積み上がっていたからです。22年6月時点の民間在庫は216万t、その1年前も212万tありました。


(続きは、 【特集】地域水田農業ビジョンの実践こそ「強い農業」づくり(前編) で)

 

(2011.03.11)