農政・農協ニュース

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地域の中から次代のリーダーを育てる JA人づくりトップセミナー

 JA全中は4月28日、東京・平河町のJA共済ビルカンファレンスルームで「JA人づくりトップセミナー」を開いた。東日本大震災の影響を鑑みて当初予定より規模を縮小して開催したが、関東以西を中心に全国各地から130人ほどが参加した。基調講演をした三重大学の石田正昭教授が司会したパネルディスカッションでは、組織リーダーの後継者づくりをどうするか、などが議論された。

(写真) パネルディスカッションより(左から)石田教授、奥村氏、喜代永氏、井萱組合長、樋口部長(写真)
パネルディスカッションより(左から)石田教授、奥村氏、喜代永氏、井萱組合長、樋口部長

◆「農業は心の豊かさをつくる産業」

田代武満(人づくり推進委員会委員長・JA全中副会長) セミナー冒頭で田代武満人づくり推進委員会委員長・JA全中副会長は、「わが国は経済至上主義に走りすぎ、理念や仁義など心の豊かさをつくる環境整備を怠ってきたのではないか」と、1980年代から高度経済成長や所得倍増をめざす中で人づくりがおろそかにされてきたと指摘し、「10数年前から、農業は命の源泉をつくるだけでなく心の豊かさをつくる大きな産業だ、国がお金を出して環境整備をすべきだ、と訴えてきたが耳を傾けてはもらえなかった。昨今、ようやく農業の多面的機能が注目され、徐々に農業の役割についての国民合意を得られる状況になってきた」と、JAグループあげての活動の成果もあり環境が変わりつつあるとの認識を述べた。
 また、3月末にベルギーのブリュッセルでWFO(世界農業者機関)の設立総会に参加したことに触れ、「ガバナンスが悪ければ組織は崩壊する。しっかりしたガバナンスを構築するためには、組織のトップにしっかりした教育が必要だ」と、継続的な人づくり運動の重要さを訴えた。
 前嶋恒夫氏(JA全中常務)実践2年目を迎えた「新たな協同を担う人づくり全国運動」の23年度実践強化対策についてはJA全中の前嶋恒夫常務が報告した。運動の主旨について「農協の原点に戻り、協同組合運動に参加できる職員を育てることが目的。農協の事業、組織活動などを通じて協同の理念を自然と身につけられるような環境整備が必要だ」と述べ、「人づくり運動はトップ層の理解がなければ進まない。JAトップは常に自己学習と相互研鑽に取り組まなければならない」と呼びかけた。

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上:田代武満(人づくり推進委員会委員長・JA全中副会長)
下:前嶋恒夫氏(JA全中常務)

◆「参加型民主主義」で協同組合を発展

 石田教授の基調講演は「JA基盤の再構築とJA人づくり運動への期待」がテーマだった。氏は「これまでの協同組合は参加よりも利用に重点がおかれたきたが、本来の協同組合の目的は出資して参加することだ」と強調。参加型民主主義が協同組合発展の条件だと述べ、JAが「地域の協働」の中に入っていくにはどうするべきか、などと問いかけた。
 事例発表を行ったのは前JAみなみ信州まつかわ事業本部本部長で社会福祉法人みなみ信州管理科科長の奥村充由氏、福祉クラブ生協の喜代永眞理子理事長、JAあつぎ(神奈川県)の井萱修己代表理事組合長の3人。
 奥村氏はJA職員だった時代に生田支店の統廃合に立ち会ったが、最終的に地域住民や組合員らの手によって支店を存続させた経緯などを紹介。「中山間地でJAは心のライフライン。これからも心の拠り所としてあり続けるべきだ」と述べた。
 喜代永氏は、福祉専門生協を設立した経緯を「安心して暮らせる街づくり」のためだと述べ、組合員自らが助け合いメンバーとして参加型の活動を行うワーカーズコレクティブ(W.co)の運動を紹介。「やむを得ずお世話になる福祉ではなく、楽しんで参加できる仕組みが必要だ」と述べた。
 JAあつぎは平成22年を「教育文化活動元年」と定め、役職員や組合員の教育活動、社会貢献、広報、食育などの事業を教育文化活動として位置づけた。また、これまで本店の総合企画部が主導していた教育文化活動を支店主導に切り替えるなどの改革も行っている。「教育文化活動がなければ10年、20年先のJAの姿は描けない」との持論を述べた。

◆JAは地域活動のサポートを

全国から130人ほどが集まった。会場の様子。 JAみなみ信州の生田事業所は地域住民がJAから事業委託を受けるための株式会社を設立し支店の存続を決めた。福祉クラブ生協のW.coは福祉を受ける側、世話する側がともに組合員である。パネルディスカッションでは組合員同士、地域住民同士での強固な関係が構築されている中で協同組合やその職員はどのような役割が求められているのかが話題になった。
 奥村氏は「JAは人員削減などがあり仕事量に見合う職員数を揃えられていない場合も出てきた。だからこそJAは、できるだけ地域の人たちに組織をつくってもらい、仕事を委託してやってもらう環境づくりをサポートする必要がある」、喜代永氏は組合員やW.coメンバー同士で理念を共有し学びあう「共育(ともいく)」を例に出し、「活動に参加する人が常に当事者として関わることで活動は継続される。サービスをする側と受ける側ではなく、協同組合として、組合員組織の福祉であるという視点が重要だ」とそれぞれ述べた。
 ディスカッションに登壇したJA全中の樋口直樹教育部長は、「地域社会とJAとの関係だけでなく、場合によっては1個人の組合員が地域やネットワークをつくり、地域全体の連携を図る取り組みも重要だ」と指摘し、「この数年の組織の見直し、JA合併などが進む中で、JAが地域のライフラインとしての機能を果たせない状況も出てきている。JAの枠にとらわれず、さまざまな形でJAがサポートして会社をつくるなり、町興しをするというのはいいモデルだと思う」と評価した。

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全国から130人ほどが集まった。会場の様子。


◆教育文化活動への温度差をいかに埋めるか

 教育文化活動について、役職員や組合員間で参加意識に違いはないのかと問われた井萱組合長は、「担当部署とそうでないところで、確かに温度差はある」と認めた上で、「しかし職員の中には、今のJAのあり方に疑問を感じている人も多く、そういう人たちが動くことで活動は進む。役職員が一丸となって取り組む体制を整えれば、活動は伝播していく。例えば行政との連携なども当初は表面的だったかもしれないが、今は地元の農業をどうしようかと一緒に考える雰囲気が醸成されている」と述べた。
 石田教授は議論を総括して、「JAのトップリーダーが3年ないし6年で交代していく中で、活動の継続やビジョンの引継ぎをどうするかは大きな課題だ。地域の中から協同組合運動の次代のリーダーが出てきて、常勤役員としてJAに入っていけるような仕組みづくりが必要だろう。そうした人が出てくるのを待っているのではなく、組合員学習活動や地域づくりの活動などを通じてそのようなトップリーダーを育ててほしい」と呼びかけた。

(2011.05.09)