農政・農協ニュース

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TPP参加判断の時期は「総合的に検討」 政府が方針決める

 政府は5月17日、東日本大震災をふまえた今後の政策推進方針を決めた。昨年11月に決定した「包括的経済連携に関する基本方針」に盛り込んだTPP(環太平洋連携協定)への参加と農業改革について、6月の方針決定を先送りした。

◆本質論は相変わらず回避

 閣議決定した「政策推進方針〜日本の再生に向けて」では、「我が国は震災前から経済の停滞、社会の閉塞状況という『危機』に直面していた。その危機のなかで生じたのが今回の震災である」との認識を示した。そのうえで東日本の復興を支え震災前から直面していた課題に対応するため、「日本再生に向けた取り組みも再スタートさせなければならない」というのが「指針」で示した菅政権の基本姿勢だ。
 指針では、TPPを含む経済連携協定などについては「国と国の絆の強化に向けた戦略」と整理。
 その取り扱いについては「震災や原子力災害によって大きな被害を受けている農業者・漁業者の心情、国際交渉の進捗、産業空洞化の懸念」などに配慮しつつ検討する、とした。
 また、TPP交渉の参加判断時期は6月に参加判断をするとしたこれまでの方針は先送りしたが、「総合的に検討する」との抽象的な表現にとどまった。
 鹿野農相は「(震災発生という)大きな変化があった。そういうなかで何が優先されるべきかといえば、復旧・復興。農業者・漁業者が大変苦しんでおられるなかで、そういう方々への施策に懸命に取り組む必要があるのではないか、ということを申し上げてきた」とこの指針決定に向けて農相自身が主張してきたことを明かした。
 判断時期については政府内に2〜3カ月先送り、との見方もあるが、農相は「総合的に検討するということ。それが何カ月かということは議論されておりません」と強調した。

◆「震災」の重みない指針

 しかし、指針で示されているのはTPPの「参加判断時期」のみだ。被災地の農業者や漁業者への心情に配慮するとの文言は盛り込まれたものの、それと同列にTPPを含めFTA・EPAなど「国際交渉の進捗」と、経済産業省や経済界が従来主張してきた「産業の空洞化の懸念」といった言葉も並ぶ。震災をふまえた政策指針だというものの、「開国」という基本路線に変更はない。
 JAグループは12日に「東日本大震災の教訓をふまえた農業復権に向けたJAグループの提言」を決めた(関連記事)。
 そこでは震災によって人々の間に、食料やエネルギーをはじめ「安心・安全な暮らしを守る」ことの大切さへの認識が広がっていることを強調した。そうした価値観の変化をふまえれば「従来の自由貿易至上主義の延長でしかないTPPへの参加検討は時代錯誤と言わざるを得ない」としている。
 今回の政府の指針についてJA全中は「そもそも開国と農業の両立はありえないが、その検討もなく、さらに震災による国民の価値観の変化をまったくふまえていない。内容のない指針」と指摘する。復旧・復興をどんな価値感に基づいてめざすのか、それを示すことこそ農業者や漁業者の「心情」に配慮するということではないか。

◆再生実現会議、5月中に再開

 指針では農林漁業の再生戦略について、政府が昨年末に設置した「食と農林漁業の再生実現会議」で、東日本農林漁業の復興、日本の農水産物の信認回復という新たな課題に応える方策を検討する、としている。
 鹿野農相は再生会議が農林漁業の復興策を検討する場だと指摘し、5月中にも会議が再開されるとの見通しを示した。復旧・復興策を検討するなかで、改めて持続的な日本農業の姿をどう描くかが問われる。

(2011.05.19)