農政・農協ニュース

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水田農業とJAを次代へ導くための"再生ビジョン" 岩手県花巻市笹間地区

 「企業の参入などがなくても、農業者がしっかり組織づくりをすれば安定した水田農業はできる。それはJAの再生にもつながる」と自信をのぞかせるのは、元JAいわて花巻職員の大和章利(やまと ふみとし)さんだ。地域の農業者らが自主的に組織した「笹間地区営農再生対策会議」の事務局長を務める。地区内の水田面積1500ha、農家戸数560戸を、平成28年度までに経営面積30ha規模・経営体数50に集約し、産直や加工販売などで所得向上をめざそうと「水田農業再生ビジョン」をまとめ、その実践に取り組んでいる。

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(写真)
大和章利さん。鳥喰生産協業が昭和50年に設立したライスセンターの前で。

◆集落単位よりも規模優先

 今年スタートし、5年がかりで完遂をめざす、この再生ビジョン。最終的には笹間バイパス沿いの施設で加工など付加価値をつけた産直販売を行い農業者の所得と地域の雇用を増やし、水田農業を次代へ引き継ぐための仕組みをつくるのが狙いだ。
 しかしまだ施設を持たない初年度は、その前段階として各経営体の安定経営をはかることを主な活動目標とした。
 対策会議が、21年度の水稲の10aあたり生産費について、全国の15ha以上の経営体の平均と笹間地区で18haを経営する生産組合を調査したところ、全国が7万4174円だったのに対し、笹間の生産組合は9万6998円と2万円以上の差があった。
 そこで、まずは徹底したコスト管理で10aあたり生産費8万円をめざすことを目標にした。
 大きく差が開いたのは肥料・農薬費、建物・車・農機だった。これらを削減するには、今ある機械の有効活用、施肥改善、栽培管理などを徹底できる30ha程度が妥当だと試算した。
 「冬に生産活動ができなくなる雪国では30haほどなければ安定した水田農業はできない。集落単位にこだわらず、あくまでも30haという規模を軸にした組織づくりが必要」というのが大和さんの考えだ。


◆30ha規模で1200万円の当期利益確保を

 再生ビジョンのモデル的経営体の1つとなっているのが、大和さんが組合長を務める鳥喰生産協業だ。
 昭和44年にトラクター・コンバインの共同利用などでコスト削減をめざそうと設立し、これまで独自のライスセンター建設、水稲・転作作物のプール計算の導入などで、水田農業の経営安定を図ってきた。
 構成員8戸に農地を委託している2戸を加えた23年度の経営面積は32.3ha。内訳は水稲17.3ha、小麦8.1ha、雑穀(ハトムギ)5.1ha、飼料用米1.8haだ。
 今年度の計画では10aあたり生産費を8万5800円ほどに抑え、「コメの手取り価格が1万円ほどに回復すれば、という希望的観測に立った計画だが」当期利益が1276万円、構成員に支給する分配金が10aあたり4万2247円との試算を出した。
 将来も30ha規模の経営体を維持するために事務・管理で1人、機械オペレーターで1人の計2人の専従職員を雇いたい考えもある。2人に年間合計600万円の給与を支払い、また構成員と農地を委託人と双方に地代として10aあたり2万円(30haで600万円)を支払うためには、計1200万円の当期利益が必要になる。これの確保も、再生ビジョンの中に盛り込む予定だ。


◆飼料用米増やし経営安定を

nous1107081002.jpg 水田農業の経営安定のためには、戸別所得補償制度で10aあたり8万円の助成金が支給されることになった飼料用米への期待が大きい。飼料用米は、米価の下落や小麦の連作障害などへの対策としても有効だ。
 今年は地区全体1500haの5%ほどになる73haで飼料用米を作付けたが、5年後には全体の1割となる150haまで作付を増やすことを目標にしている。助成金8万円の条件となっている実需者とのマッチングについては、全量JA出荷で対応する。
 5年後には主食用米を全体の5割となる750haほどに減らし、残りの半分で飼料用米、小麦、雑穀などを作付する予定だ。
 対策会議では、省力・低コスト・多収の飼料用米栽培を実現しようと実験ほ場を設置した。
 6月23日には35人の経営者が集まり現地研修会を開き、具体的な栽培技術などについて学んだ。7月下旬にも2回目の研修会を開く予定だ。
 大和さんは「食料自給率向上の面から見ても飼料用米の増産は大きな国益になる。また、東日本大震災で被災した沿岸部では主食用米が作付できるまでに数年かかるとの話も聞いているので、まずは飼料用米を作付けて農業者が向こう2?3年の所得を確保できるようにするためにも、笹間地区がしっかりした生産から販売までの体制を確立したい」と意気込む。
 実験ほ場では小麦のほ場も併設。岩手県は小麦の収穫量が10aあたり140?ほど(22年産、県平均)と全国的にももっとも少ない部類に入るが、笹間地区では来年度の収穫量300?をめざし、土壌診断や品種の選定などに取り組んでいる。

(写真)
飼料用米の実験ほ場


◆モデルづくりはJA主導で

 大和さんはこういった組織づくりの、もっとも重要なファクターは“地域リーダー”であり、その役目は「JAの支店、支店長が担うべきだ」と訴える。
 笹間地区での取り組みは大きな話題となり、近隣地区からも問い合わせが多く来ているというが、一番のネックは「リーダーがいないこと」。その地区の特性に合った再生ビジョンをつくるためには、その地区ごとのJA支店が旗振り役を務めなければまとまらない。
 実際、笹間地区の対策会議は農業者が立ち上げた組織だが、JAいわて花巻笹間支店の小原保信支店長が事務局として携わっている。
 大和さんが“JA支店”にこだわるのは、こういった組織づくりがJA批判への対抗にもなると考えているからだ。
 全国的にJA支店の金融・共済業務の特化が進んでいるが、これを「JA自らが信用・共済分離論を助長しているようなもの」と苦言を呈し、「どんな支店でもJAの名前を冠するからには必ず営農事業に携わらなくては世論の同意は得られない」との持論を述べた。
 地域の農業者が自らの発想で水田農業を再生させる。JA支店がそれを主導することでJAも再生する。ともに生き残り、地域農業を次代へつなぐ道筋を示そうとしている。

(2011.07.08)