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【福島原発事故から学ぶ】「原発は安い」は破綻!  大島堅一・立命館大学教授に聞く

 原子力発電が日本国内で暗黙のうちに受け入れられてきた背景には「クリーンで安全」とともに「安い」電力というイメージを多くの人が持ってきた(持たされてきた)ことがあるのではないだろうか。
 立命館大学の大島堅一教授は、20年近くにわたって日本の「エネルギー政策とその費用」について研究し、「原発は安い」は破綻していると提起している。そこで大島教授に取材し、改めて「原発のコスト」について考えてみることにした。

◆実態を反映していない政府の試算


大島堅一・立命館大学教授 原子力発電(原発)についてこれまでは「クリーンで安い電力」でしかも「安全」だといわれてきた。
 しかし3月11日に発生した東日本大震災による地震と津波によって、東電福島第一原発は原子炉冷却のための電源すべてを失い、冷却ができなくなったために原子炉内の温度をコントロールできなくなり、燃料の温度が急上昇し、圧力上昇回避のために弁を開放(ベント)したために放射能による汚染が始まり、さらに炉心の溶融が進行。12日には1号機が水素爆発し建屋が崩壊。2号機、3号機も同様の経過をたどり、いまだに終息しないことからも分かるように、その「安全」神話は完全に崩壊した。
 それでは「原発のコストは安い」というのは本当なのだろうか。
 表1は2004年に政府が発表した発電コストの試算をまとめたもので、原子力は1kWh当たり5.3円と他の電力より安くなっている。この5.3円が以後原子力のコストは安いという根拠として世間に流布されていくことになる。
 大島教授はこの数字は実態を反映していないと2つの理由をあげる。
 1つは、政府の試算自体がいわゆる「モデルケース」に基づくもので、実態とは異なることだ。例えば、表1の「設備利用率」(稼働率)をみると原子力は「80%」となっている。しかし、実際には02年以降、電力9社全体で原発の稼働率が80%以上になったことはなく、08年には60%にまで下がっている(09年66%、10年67%)。
 大島教授にお目にかかったのは、京都が梅雨明けしたその日で真夏のよう日差し強い7月9日だったが、帰りに京都駅で買った「京都新聞」夕刊の1面トップには「原発稼働率6月36%」と日本原子力産業協会の調査結果を伝える見出しが踊っていた(同協会の正式発表は12日となっている)。
 表1の政府試算5.3円の基になっているのは電気事業連合会の「モデル試算による各電源の発電コスト比較」だ。しかし、この資料では原発の稼働率が60%を割ると石炭火力やLNG火力よりコストが高くなると明確に書かれているのだが、そのことには一切触れられず「5.3円」だけが「エネルギー白書」でも使われ、「原発は安い」の根拠として一人歩きしている。

発電コスト

 

◆実態は火力より高い発電コスト


 大島教授は、政府発表データは「モデル」なので、より現実に近いコストを知るために、年度ごとの「有価証券報告書総覧」で公表されるデータをもとに、原発をもつ電力9社の電源別発電単価を算出した。それが図1の実績だ。この数字は「いずれも設備の稼働率や減価償却などを含めた実態を反映した数字」だ。
 1970年から2007年までの平均をみると原発は1kWh当たり8.64円で、火力より少し安い程度だといえるが、大島教授がここで注目したのは、「原発と揚水発電の関係」だ。原発は火力などと異なり出力調整ができないので、電力需要が下がる夜間でもほぼ100%出力する。その余剰電力で水を汲み上げておき必要に応じてその水を落下させて発電する「揚水発電が付帯されており、70年以降、原発の発電容量に比例して増えている」つまり「揚水発電は原発の必需品」と考えれば、発電コストも「原発と揚水を合わせて考えるのが適切」ではないかと大島教授は考えた。
 そうすると、図1の実績の「原子力+揚水」で分かるように10.13円と火力よりもコスト高になる。

電源毎の発電費用

 

(続きは 【特集】大島堅一・立命館大学教授に聞く  「原発は安い」は破綻!増え続ける使用済み核燃料再処理費用 で)

(2011.07.29)