農政・農協ニュース

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微生物農薬の効果的施用を  農作物病害虫防除フォーラム

 農水省と植物防疫全国協議会は11月2日、都内で第17回農作物病害虫防除フォーラムを開いた。今年のテーマは「IPM推進に向けた生物的防除技術の利用を考える」だった。

 農水省では、近年、一般消費者の間で食の安全や環境負荷低減への関心が高まってきたことに加えて、従来の薬剤だけでは防除が難しい新しい病害虫が出てきたことなどを受け、薬剤だけに頼らない総合的病害虫・雑草管理(IPM=Integrated Pest Management)を推進している。しかし、技術、効果、コスト、使いやすさなどの点で様々な課題があり、その普及は思うようには進んでいないのが現実だ。
 本フォーラムでは生物的防除剤・技術の課題と実践例についての研究発表があったが、このうち、微生物農薬について発表した2人の講演を紹介する。


微生物殺菌剤は「予防で使う」と効果的
相野公孝氏
兵庫県農林水産技術センター


相野公孝氏 相野氏は、微生物殺菌剤の歴史や現在の売上高と、その使い方などについて発表した。 日本初の微生物殺菌剤の登録は1955年のトリコデルマ生菌だ。しかし登録数が増えたのは、97年に微生物農薬の登録申請のルールなどを定めた「生物農薬ガイドライン」ができてからだ。これを機に、農薬メーカーでも将来を見据えた研究開発ができるようになり、2011年までに30近くの剤が登録された。
 1999年にはわずか1億円程度だった微生物殺菌剤の出荷量は2009年には8億4600万円にまでのびた。しかし化学殺菌剤の年間売上高758億4000万円に比べると、その市場規模はわずか1.2%ほどしかない。しかも、タフブロック(出光興産)、バイオキーパー(アリスタ)、ボトキラー(出光)、エコホープ(クミアイ化学工業)の上位4剤で売上高の9割近くを占めている。

微生物殺菌剤の出荷量

◆適正な施用方法でコスト・労力削減

 相野氏は生産者へのアンケート結果などから、微生物殺菌剤が普及しない一つの要因を、適正な使い方(施用のタイミング)が知られていないからだ、と分析した。
 病害虫の防除は、(1)予防として病害虫が発生しにくい環境の整備、(2)観察と判断、(3)直接的防除の実施、の3段階で行われる。微生物殺菌剤は(1)または(2)の段階で、直接的防除の労力・コストを軽減するために使用するのがもっとも効率的だが、多くの場合は化学農薬と同様に(3)の段階で直接的防除として用いられているという。
 微生物殺菌剤を(1)予防として使用することで病害虫の発生を抑制できれば、(3)直接的防除が必要な場合にも症状に合わせて化学殺菌剤、物理的防除、生物的防除などの多様な組み合わせが可能になるとして、予防を中心とした適正な施用方法を伝えていくことが必要だとした。
 また、兵庫県で開発された生物的防除の真技術として、種子を内生細菌でコーティングすることで防除する「種子コーティング技術」を紹介した。


「化学農薬との混用」で防除効果アップ
宮田將秀氏
宮城県農業・園芸総合研究所

宮田將秀氏 宮田氏は、常用ではアザミウマ類に対してあまり高い防除効果が見られない昆虫病原糸状菌(害虫の体表にカビ状の菌糸をつくり水分を奪って殺す菌=写真参照)製剤だが、化学殺虫剤との混用で高い相乗効果が表れるとの実験結果を発表した。
ボーベリア・バッシアナ菌に侵されて死んだバッタ 果樹ではカミキリムシ類、ネコブセンチュウ、野菜ではコナジラミ類、アザミウマ類、アブラムシ類など薬剤抵抗性を持つ害虫が増えてきたが、それらに対して有効な薬剤はいまだ少ない。一つの有効手段として微生物農薬が注目され数多く登録されたが、湿度によって防除効果が左右されるとか、複数回の散布が必要で生産者の負担が大きい、などの理由から必ずしも普及が進んでいない。

(写真)
ボーベリア・バッシアナ菌に侵されて死んだバッタ

◆アザミウマ類に効果大

 現在、昆虫病原糸状菌の主な原体とその商品例としては、ボーベリア・バッシアナ(ボタニガードES=アリスタ、バイオリサ・マダラ=出光)、バーティシリウム・レカニ(バータレック、マイコタール=ともにアリスタ)、ペキロマイセス・フモソロセウス(プリファード水和剤=東海物産)などがある。これらはコナジラミ類、アブラムシ類に対しては高い効果を持つが、アザミウマ類に対しては十分な効果を発揮していなかった。
 しかし、アザミウマ類に対しては一部の化学殺虫剤と混用することで、その効果を各段に高めることができた。ボーベリア・バッシアナ製剤をフルフェノクスロン(カスケード乳剤=BASFアグロ)、エマメクチン(アファーム乳剤=シンジェンタ)などと併用した場合、ほかの菌や薬剤との併用では見られなかった高い防除効果が示され、その効果は各剤を個別に使ったときの合算よりも大きかったと報告した。
 また、アザミウマ類は葉の上に卵を産むが土の上で蛹化してサナギとなる習性があるため、現在、土壌表面に直接散布して防除する新たな昆虫病原糸状菌製剤の研究を行っていることも紹介した。

アザミウマ類成幼虫数

(2011.11.10)