農政・農協ニュース

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環境変化にあわせたJA経済事業改革を  第30回JA-IT研究会

 マーケティングに基づいた営農販売事業改革や地域農業づくりをめざして設立されたJA-IT研究会(代表:今村奈良臣・東大名誉教授)。今年で設立から丸10年となり、公開研究会の開催も30回を数えた。12月2、3両日、都内で行われた第30回公開研究会のテーマは「JA農産物販売戦略の基本方向と課題〜JA-IT研究会の10年間の活動をふり返る」。今村代表の基調講演と7人の事例報告があったが、その中からJAの直販事業や商品開発についての議論を中心に紹介する。

nous1112070701.jpg 研究会冒頭で大西茂志JA全中常務は「地域、農業を自主的に支えられるJAとその営農事業を構築しなければ、地域組合員の命と暮らしは守れない」とし、来年の第26回JA全国大会に「生産を軸に販売戦略改革に取り組んできたこの研究会の成果を活かしたい」とあいさつした。
 平形雄策農水省経営局協同組織課長は「信用、共済事業がしっかりしているJAは経済事業もしっかりしている」とJAの総合事業を評価した上で、「金融、経済環境ともに変化しているが、常に新しい挑戦を続けてほしい」と、今後のJA経済事業改革に期待を寄せた。
 今村代表は、10年間の活動を集約し、[1]JAほど人材を必要とする組織はない、[2]JAは地域の生命線、[3]農業は生命総合産業であり農村はその創造の場である、との3つの理念の下でさらなる研究・実践活動を続けてほしいと呼びかけた。

(写真)
基調講演する今村代表


◆販売軸に新しいコメ戦略を構築

 吉田敏幸・高崎経済大学教授はこの10年間のコメに対する消費者ニーズや流通の変化について報告した。野菜、果実の産出額は人口減少、高齢化など生産面での問題から減っているのに対しコメは価格下落が最大の要因であること、また年々下落の一途を辿る米価だが世論調査ではそれでもまだ国民の25%が「高い」と回答する(日本政策金融公庫、平成23年調査)など、生産現場と消費者の認識には大きな差があることなどを指摘し、JAも直販拡大、実需者ニーズに即した産地形成、などに取り組むべきだとした。
 コメの販売戦略については、16年に地域水田農業ビジョン大賞を受賞したJA鶴岡(山形)の田沢繁参事も現状を述べた。16年当時には5%だったコメのJA直売比率を23年には50%近くにまで拡大し、また、コメの担当者を各支所に必ず1人以上配置し、地域特性に合った支所別の生産・販売プランをボトムアップで作り上げている取り組みなどを紹介した。
 同じく環境変化への対応として、梅谷栄治・JA中野市営農部長は「作る農協から売る農協へ」というJAのモットーに従い、リンゴ、巨峰、アスパラガス、キノコと消費者ニーズの変化に合わせた主産品の変遷を紹介。昨今は1つの基幹作物を中心にした生産ではなく、8大果樹を主軸にした多種多様多作型多栽培グループという戦略を採っている。量販店中心の一定規格品大量販売から、訳あり商品やこだわり商品に変化したのは「生産者の“物語を伝えたい”ニーズを考慮した」と述べた。

◆産地情報をキャッチできる人材を育成

nous1112070702.jpg 仲野隆三・JA富里市常務は量販店との野菜直販取り引きについて報告。JA富里市では野菜販売額の半分以上となる約30億円が直販だ。「今後、生き残るのは入口(生産)と出口(消費)だけだろう。中間流通業者でも、しっかり生産現場に入り、販売先を見据えた事業を展開しているところは残る」として、販売先のニーズを生産現場にしっかり伝えることがJAの役割だと述べた。また直販取り引きすることで、市場流通だけではわからない全国の競合産地の生産・出荷状況と実需ニーズを確実に把握することが可能になるとして、「JAで経済事業を推進しようとするなら、産地や販売先に対してこうした提案ができる営農指導員を育てなければいけない」と提言した。
 JA営農事業の人材育成については、黒澤賢治・NPO法人アグリネット理事長が「わずか2時間ほどの視察では他JAの営農事業を理解できない」として、JA甘楽富岡で統廃合した支店を利用して宿泊施設を作るなどして6カ月の職員受け入れ制度を設けていることをあげ、「全国には素晴らしいJAがたくさんある。JA同士で長期研修受け入れのネットワークなどを作ってはどうか」と提案した。

(写真)
2日目の総合討論では参加者らとの意見交換が行われた。

◆地域資源を学び商品開発

 小金丸肇・JA糸島直販統括マネージャーはJAファーマーズマーケット「伊都菜彩」について報告した。「伊都菜彩」は平成19年4月設立。これまで毎年販売額は前年比を上回り成長の一途だが、「(直売所は)3年間は放っておいても伸びるもの。4年目以降の仕掛けをどうするかが大きな課題だ」として、改革の必要性を述べた。今後取り組むべき課題として新たな商品開発をあげ、「販売まですべてJAで手がけるか、地元企業らと提携して1次加工のみを手がけるか、2段階の取り組みをめざす」とした。
 商品開発については今村代表が「地域の伝統食、特産物などをしっかり勉強し、商品開発のヒントにすべき」と呼びかけた
 全報告者の中で唯一生産法人として参加した田切農産(長野県上伊那郡)の紫芝勉代表取締役は、地区内の全農家が所属する地区営農組合で地域全体の営農計画や土地利用調整などを決め、それに基づいて各地区の担い手生産法人が独自に事業を行う「二階建て方式」の法人組織で地域全体の農業を支えていると報告。消費者との交流を重視し、さまざまな新商品や新ブランドの開発につなげている事例を紹介した。

(2011.12.07)