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TPP参加のメリット示せず―地方シンポ  交渉を「クラブ活動」にたとえた石田副大臣に批判の声

 3回目の開催となる「TPPをともに考える地域シンポジウム」(主催:共同通信社・全国地方新聞社連合会)が3月4日、横浜で開かれた。シンポではTPP推進派の研究者からも、農業以外の製造業やサービスなどでも悪影響が出ることも想定されるとして政府はセーフティネットの整備が必要だとの主張が出るなど、TPP参加によるメリットは示されずデメリットを懸念する声が多数を占めた。

◆事前協議はオリエンテーション?

3回目の開催となった「TPPをともに考える地域シンポジウム」 この日、政府側からTPPについて説明したのは内閣府の石田勝之副大臣。
 石田副大臣は、現在行っている関係国との協議について「いわばTPP協定交渉という“クラブ活動”に参加するためのオリエンテーションを受けている段階」と説明した。
 この説明に対し、関税撤廃で打撃を受けたり、投資家から政府が提訴されるISD条項など盛り込まれるのではないかといった懸念を多くの人が持っているのに「楽しいイメージのあるクラブ活動にたとえるのはいかがなものか?」との批判が会場から出た。
 会場からの批判に、石田副大臣は「分かりやすく説明するため部活用語を使った」などと釈明。新入生がどの部活が週にどれくらい練習するのかといったオリエンテーションを受けることなどにたとえた。そのうえで「適切ではなかったかも」とは語ったものの、発言そのものを撤回しなかった。
 ただ、問題は発言を撤回しなかったことにあるのではない。逆にそう簡単に撤回できるものではないということが問題だ。なぜなら、この発言は政府説明の際、石田副大臣が“読み上げていた原稿”だからだ。つまり、この日のために政府側が用意した正式の文書に盛り込まれていたということになる。
 しかし、いうまでもなく、これは不適切なたとえだ。
 たとえば、TPPについては、交渉参加後に離脱できるかどうかは昨年からしばしば指摘されてきた。しかし、クラブ活動なら退部届けを出せば済むだろう。また、新入生の獲得のために各クラブは積極的にPRするだけでなく、部員となったらそれに求められるものも説明するだろう。であるならば、米国をはじめとする関係国との協議について、なぜこれほど国民に情報開示がないのか? 外交をこんな軽いたとえで説明することにあきれかえるというほかない。


◆秘密交渉に批判

 パネリストの服部信司東洋大名誉教授はTPPについて「そもそも秘密交渉であり判断できる情報がない。9か国に提案さえ一切公表されていない。米国の国民自身も米国の提案内容を知らない」と指摘、唯一、明確になっていることは「原則、関税を撤廃すること」であり「最初から手足を縛られた交渉は交渉ではない。農業への打撃は大きい」と批判した。
 会場からもニュージーランド外務省がホームページでTPP交渉の情報は秘密扱いとされていると説明していることについて「これで日本も情報公開されるのか」との質問が出た。
 石田副大臣は「確かに情報が不足している。交渉参加していないから分かることにも限度がある。出せるものは出すように努める」などと述べるにとどまった。


◆「安い」だけで買うか?

 TPP参加賛成の立場で話した浦田秀次郎早大教授は、輸入の完全自由化で「食料品の価格が下がり消費者の選択肢が増える。食料に使っていたお金を家電やサービスなどに使う。それで経済が盛り上がることになる」と強調した。
 これに対しタレントの大東めぐみ氏は「安いだけで飛びつくわけにはいかない。子どもたちに(TPPが)どんな影響を及ぼすか分かったうえで判断すべき」と話したほか、「消費者にとってのメリット、デメリットが分からない」と指摘した。
 石田副大臣は、TPPはAPEC(アジア太平洋経済協力)の21の国・地域がめざす「FTAAP(アジア太平洋自由貿易圏構想)実現のための一里塚」と繰り返し、「アジアの発展がいちばん望める。結果的にはメリットがあると考えている」、「(関税撤廃で)輸出競争力もつく」などと説明した。
 こうした説明に対し大東氏は食料への懸念などを挙げ「他国に依存し自国で立てないことになるのでは。子どもや孫の世代の足かせにならないか」など不安を語った。
 また、農業への影響について浦田氏は「保護があったから農業が弱くなった。関税という方法ではなく直接支払いなどの方法を」と指摘。
 これに対して服部氏は「関税引き下げ要求に応えた結果、自給率が下がった。そこをはっきりさせる必要がある」と反論、関税ゼロになれば現行の農業生産を維持するだけでも2兆円を超える財政支援が必要で「それができるのか」と問い、そもそも自給率50%を目標にしている基本計画とTPP参加は「矛盾する」と強調した。
 一方、浦田氏は対外的な市場開放と国内構造改革を進め、輸入を伸ばせば日本経済が成長できるとの立場でTPP賛成論を唱えたものの、TPP協定締結と国内改革の過程で「職を失った人へのセーフティネットは考えているのか?」と政府に問うなど農業以外の分野でも影響が出かねないことも指摘した。
 シンポジウム終了後、石田副大臣は記者団に対してシンポジウム全体の受け止めとして「きちっとセーフティネットを張ってほしいという意見だったかと思う」と述べ、「交渉参加することになったらその業界がどういう影響を受けるかきちんと精査しなければならないと思っている。そのうえで当然セーフティネットの議論になっていく」と述べた。
 結局は具体的なメリットを示せず、影響が懸念されるならセーフティネットを張る、というばかりだった。


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