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協同組合の「社会的経済」の役割と課題  北出俊昭・明治大学元教授

 4月17日、農林中金総研主催で「共生する社会を目指して―重要性を増す『社会的経済』の役割と協同組合への期待―」のタイトルで国際協同組合年記念シンポジウムが開催された。このシンポジウムでの中心的な課題はタイトルにもある「社会的経済」とそれと関連した「社会的企業」の理念と実態に関してであった。ここではこの二つにしぼってシンポジウムのとくに重要と思われた2点について述べてみたい。

◆「社会的経済」と「社会的企業」の概念

農林中金総研主催で「共生する社会を目指して―重要性を増す『社会的経済』の役割と協同組合への期待―」 その一つは「社会的経済」や「社会的企業」の概念にかかわる問題である。ビクター・ペストフ氏は「社会的企業」の定義として5つの経済的特性(持続的な財・サービスの提供、高度な自立性、相当程度の経済的リスク、最小限の有償労働、限定的な利潤分配)と4つの社会的特性(コミュニティへの貢献、市民グループ主導の組織、出資比率に基づかない(民主主義的)意志決定、影響を受ける人々を巻き込む参加型活動(共同生産))を示した。
「社会的経済」や「社会的企業」については、わが国では一部の国際協同組合研究者のほかは必ずしもひろく理解されているとはいいがたいが、近年、西欧の協同組合関係者の間では重視されていることで、この定義も欧州社会的企業研究グループの共同の成果であり、ペストフ氏個人の見解ではないという。
 ここで示された経済的特性と社会的特性は一見して明らかなように、1995年のICA大会声明で示された協同組合の「定義」、「価値」、「原則」と表現は異なるが思想は同じである。ペストフ氏はこの「社会的企業」が国家(公共部門)、市場(企業部門)、地域社会(家計部門)の三つとの関係を維持しながら社会的経済部門を構成することにより均衡した社会が形成されるとしているが、それは同時に協同組合の在り方を示していることでもある。
 ペストフ氏はスウェーデンでも合併により協同組合の民主的構造が失われたが、多様な組合員や市民の多様なニーズに応えることを基本とした取り組みにより、市場や国家がなしうる以上の信頼を得ることができるとし、公共部門、民間部門と同時に協同組合などの第3セクターが重要なことを強調されている。これは地域社会建設のうえで協同組合が果たす役割の重要性を示しているのはいうまでもない。


◆「社会的経済」と「社会的企業」の位置づけ

 シンポジウムで示されたいま一つの注目すべき問題は、内橋克人氏が提起された現代資本主義経済における「社会的経済」や「社会的企業」の位置付けである。内橋克人氏は「『社会的』という冠をつければよい」というものではないとし、[1]資本主義陣営は米ソ冷戦時代には譲歩してきたが現在は市場原理主義の強化でマイルドな姿勢はみられない、[2]その結果、グローバル企業とローカル企業では天文学的格差がみられ、経済的、社会的、地域的に多様な格差が拡大し貧困も進んでいる、[3]それにもかかわらず「社会的経済」というと現在の資本主義のむき出しの姿とは異なる印象をあたえる、と述べ、「社会的経済」は「資本主義の単なる補正」でそれを延命させるだけではないか、と批判された。
 内橋氏がこうした意見を表明された理由は、関西電力・大飯原発の再稼働問題にみられるように野田政権は大震災前とはまったく変わらないやり方を踏襲し日本国民の気持ちを代表していないと批判され、「社会的経済」はこうした生々しい現実に立ちむかっていないのではないか、という思いからであった。
 これはもちろん協同組合にもかかわる重要な問題である。その理由は、世界の協同組合は1995年のICA大会で「定義」、「価値」、「原則」を決定したことは前述したが、それを実現する上ではとくに資本主義への対応が重要問題となるからである。例えば「価値」では民主主義、平等、公正などを規定しているが、現在それが著しく阻害され、むしろ悪化している。その原因は市場原理主義政策にあるのは明かで、協同組合が真にそれを求めるのであれば現代資本主義の市場原理主義と真正面から対決し、それを転換する必要がある。その理由は市場原理主義のもとでは「価値」の実現が困難だからである。シンポジウムで内橋氏が提起されたこの問題はもともと協同組合主義者に対する批判としてかねてからある実践的、理論的な問題である。シンポジウムではその究明が現在の重要課題であることが明らかになったといえる。
 本年の国際協同組合年を契機に、農協も改めて国際的視点にたち本来の協同組合としての在り方を追求する必要があることを痛感したが、17日のシンポジウムはその意味で極めて意義があったといえる。


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