農政・農協ニュース

農政・農協ニュース

一覧に戻る

筋を通した激しさと優しさを貫いた吉武輝子さん

 本紙、新年女性大会特集号でおなじみの作家、評論家の吉武輝子さんが4月17日、入院先の病院で亡くなられた。御年80歳。筆者は、料理研究家小林カツ代さんが作られた「神楽坂女声合唱団」の同じパート、アルトの仲間として面識を得、以来御著者の装幀を何冊も担当させていただいた。

吉武輝子さん わたくしが仕事場と自宅を一緒にしていることもあり、電話をかけ易かったこともあるのでしょう、ほとんど毎日、電話を頂くようになりました。
 そうこうするうちに、お互いに気づいたのは、嫌いなことが同じということでした。強権発動はもちろん、立場の弱い人を見下し、平気でおおいかぶさる人へは異議申し立てをいとわない点です。その際の表現の激しさについては、わたくしなどとても輝子さんにかないません。
 ある時に言われました。不快であること、嫌だということをはっきりと示さなければだめだと。そしてそれは、その相手のためでもあると。確かにその通りでした。次の犠牲者を出さないためにも必要なことだと、気づかされました。
 輝子さんと書いている表記に違和をもたれるかと思いますが、これもまた、教わったことの一つです。姓、苗字とは家の名。その人個人と向き合うため親しくなった方には名前で呼ぶのだと。個と個の向き合い方のスタートラインと受け止め、わたくしも実践しています。


◆暴力から始まった輝子さんの戦後

 春秋社から出版された御著書『戦争の世紀を超えて』は是非、お読み頂きたい。戦争がいかに人々を傷つけるのか、殺される人、殺す人…。そして否応なく巻き込まれる女性や子供、高齢者たち。輝子さんの戦後はなんとアメリカ兵からの性暴力から始まる。空襲の恐怖から解き放され弟さんと二人、自宅近くの青山墓地へ花を摘みに行った折り、集団暴行を受けてしまう。
 『「私」が「わたくし」であることへ―吉武輝子対話集』パド・ウィメンズ・オフィス刊の巻末には、雑誌『戦争と性』の編集発行人の谷口和憲さんとの対談がありますので、是非、ご購読下さい。その対談の頁の冒頭には、「戦争と性暴力の問題というのは、男と女の対立問題ではなくて、まさに男女を引っくるめた人間の尊厳を掲げて生きるというぎりぎりの「一分」、そこに関わる問題であることを、ていねいに捉えていく必要があります」と話された輝子さんの言葉を大きな文字で掲げました。


◆隠された歴史の証言

 わたくしが装幀(ブックデザイン)を担当した『置き去り―サハリン残留日本女性たちの六十年』海竜社刊のカバーの上に巻かれる帯には「歴史の闇に埋もれた女たちの衝撃の証言!これは、あなたの歴史だったかもしれない。」と大きく入れました。帯の宣伝文章は通常、担当の編集者の方が作られますが、わたくしは編集をしていたこともありましたので、提案し、採用して頂きました。
 過去の歴史だから、平和な時代を生きるわたしには関係ない…と思われたくなかったからです。病いをおして現地へ取材へ出向かれた輝子さんの本を、多くの人々の手に届けたいの一念でした。
 吉武輝子さんの望まれた社会の実現を、農村からも是非、進めて頂ければ幸いです。
(装幀家・林 佳恵)

(2012.04.20)