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「活力ある職場づくり」とは何か JA人づくりトップセミナー

 「活力ある職場づくり」は「人づくり」の一環であり、それがひいてはJA経営基盤の安定につながる――。「活力ある職場づくり」は第25回JA全国大会で決議され、26回大会の組織協議案でも引き続き全国的な推進課題として掲げられている。5月11日に東京・平河町の海運クラブで開かれた「JA人づくりトップセミナー」では、これをどう進めればよいのか、そもそも「活力ある職場づくり」とは何なのか、といった課題・疑問について、全国から集まった110人のJA・中央会のトップ層らが互いの意見を出しあった。

◆相互討議で問題を浮き彫りに

“教室型”ではない会場の様子 今セミナーでは最初から4〜6人ごとに班分けされたテーブルを会場に配置。プログラムにある「相互討議」が、文字通り参加者らの「意見の述べあい」によって進められることが一目で分かる“教室型”ではないレイアウトだった。
 セミナーを主催したJA全中教育部によると「これまでこうしたセミナーは、講演や事例発表が主な内容であり、大変勉強になる一方、発言者が限られてしまうし、その場で聞いて完結してしまう参加者もいた。そこで、全員が参加し意見を述べ合える形を選んだ」という。

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“教室型”ではない会場の様子


◆そもそも「職場づくり」って?

 ブロックごとに席に着いたJAトップらに対し、コーディネーターの河合昭彦氏が初めに与えた課題は「そもそも職場づくりとは何か?」。
 これに対し「生きがいを感じる職場が必要だ」、「組合員のことをよく知る職員がいなくなった」などグループごとにさまざまな話が出たが、河合氏の発言や討議内容をまとめれば、「職場づくり」とは課題解決のために組織を「変化」させることであり、人を育てる「場」をつくる、ということになるだろう。
コーディネーターの河合昭彦氏 課題を解決するとは、つまり、そのJAの目ざす姿を実現するためのハードルを乗り越えられる組織へと変革するということ。そうした目標や課題解決に向けた筋道がハッキリとしている組織であれば、職員も活き活きと働くことができ、自然と人材は育つ。そうして育った人材はJAに根付き、組合員からの信頼も高まる。その人のもとに組合員が結集してくれば、JA組織基盤の強化にもつながる。
 こうした人づくり・組織基盤強化のサイクルを潤滑に回すために必要なのが「活力ある職場づくり」であり、単に役職員が働きやすい環境を整備したり、事務所の雰囲気を明るくするなどの労務管理的なことは本来の意味での「職場づくり」とは異なる、ということだ。
 JAが課題解決に立ち向かっていく組織に変化しなければならないからこそ、「職場づくり」は経営戦略の中で明確に位置付けられなければならないともいえる。

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コーディネーターの河合昭彦氏


◆JAごとにめざす姿は違う

 一般的にJAでは、信用・共済部門で優秀な成績を上げた職員を営農指導や経済渉外に配置するという人事体系が根強い。それに対して、「JAの経営を支えているのは信用、共済であり、この部門にいかにして優れた人材を残すかが当JAの課題だ」と発言した参加者があった。
 これを「職場づくり」の観点から考えれば、もし、そのJAが営農経済事業の発展を目標としているならば優れた人材がスムーズにその部署に配置される人事体系へと変革すべきであるし、一方、JAの目標が金融・共済で地域組合員の暮らしを支えることであれば、優れた人材は金融・共済のマネジメント業務に就くことが妥当だろう。
各テーブルごとにさまざまな議論があり、その内容について発表もあった。 このように、各JAにとって「職場づくり」の道筋は千差万別である。河合氏がJAの職場づくり進め方について、「一般解はない。特殊解しかない」としたが、それはJAが地域の文化、気候風土、特産品など、さまざまな地域特性に応じた組織づくりが求められているからであり、「トップは自らの組織が何をめざしているのか、という基本理念をまずはしっかり作り上げる」ことが第一歩となるからだ。その上で「それを実現するために『組織の変化』という全体構想(グランド・デザイン)を考えながら、プラン・ドゥー・シーのマネジメント・サイクルを進めなければいけない」と強調した。
 ただし、ポイントはトップ、監督責任者、一般職員がJAとしてめざす組織目標を共有しながらも、「職場づくりにおいてはそれぞれの階層に応じて求められる役割はまったく違う」ことをよく理解すべきだと指摘した。

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各テーブルごとにさまざまな議論があり、その内容について発表もあった。


◆トップの役割はネジ回し

 階層によって役割が違う、という指摘に即して「トップ」の役割をこの日の討議から考えると、▽めざす職場・変化の全体感を明確にし(プラン)、▽それに応じた職員の適材適所をすすめ(ドゥー)、▽全体の計画にズレが生じていないかを常に注視する(シー)、ということに集約できそうだ。
 とくにプランの中で注意すべきこととしては、「トップの役割はネジ回し、きっかけ作り。実際の運動や改革は職員の手に委ねなければいい職場にならない」といった意見が出された。
各テーブルごとにさまざまな議論があり、その内容について発表もあった。 管理の観点からは、「子育てのように慎重に丁寧にすすめる」、「トップは私欲を捨てる」などトップの心構えを説くものから、「5〜10人ほどの小集団活動で職員同士のコミュニケーションが豊かになった」、「心のケアも大切に」など具体的な意見もあった。
 総じてトップには、「職員の能力や職場の人間関係を的確に見抜く力」、「そのためのコミュニケーションづくり」が大事だと強調された。
 セミナーに参加した川上和明・JAはだの常務に終了後話を聞くと、「常に考えさせられる研修で、一人ひとりの発言が深く心に焼き付けられた。(自分の参加したグループが)必ずしもテーマに合った討論ができたかどうかはわからないが、職場づくり、人づくりの実践を肌で感じられた」と、実りあるセミナーだったと感想を話してくれた。
 JA全中では、「トップ同士の相互学習を進めるため、今後もこうした形式を検討していきたい」としている。

 「活力ある職場づくり」を進めるためにJA全中がプランニングしているのが、「JA職員階層別マネジメント研修」(JAMP)だ。
 組織の一部門をマネジメントする管理者、実務担当者を指導する監督者、実務を遂行する中堅・初級職員、と階層別にコースを区分し、それぞれの必要に応じた職場づくりやマネジメントの研修を行っている。今年度からは各コースの教材や内容を全面改訂し、対象となるすべての職員に参加させるよう呼びかけている。

「活力ある職場づくり」のためのポイント


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