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環境保全型農業の推進 新たに取り組む農業者をいかに増やすか  農水省が見直し検討

 環境保全に効果の高い営農活動に取り組む農業者に直接支払いを行う「環境保全型農業直接支援対策」は、昨年11月の行政刷新会議の提言型政策仕分けで「実質的に経営安定対策となっているのではないか」、「経営安定対策と環境保全を混然一体とした財政支出はやめるべきだ」との指摘が出された。
 これを受け農水省は事業効果の検証検討会を立ち上げて制度の見直しを議論している。7月3日に議論をとりまとめ来年度予算案で制度の一部見直しを図る予定だ。

◆追加コストを支援

 平成19年度から実施された農地・水・環境保全向上対策では、農地や農業用水などの保全を共同して行っていることを条件に、化学肥料・農薬の5割低減に取り組む農業者に対して環境支払い(営農活動支援交付金)が行われてきた。
 しかし、この仕組みでは地域ぐるみで農地や農業用水の保全を行う素地がない野菜や果樹では環境保全型農業の導入が進まないという課題も出た。
 そこで23年度からは共同活動を要件とせず、農業者が化学肥料・農薬を5割以上低減する取り組みと「セットで地球温暖化防止や生物多様性保全に効果の高い営農活動に取り組む場合」に環境支払いを行うという制度に変更された(環境保全型農業直接支払い交付金)。
 支払いの対象となる営農活動は▽カバークロップの作付け(土壌への炭素貯留を目的に緑肥等を作付け)、▽リビングマルチ・草生栽培(作物の畝間や園地に麦類や牧草などを作付け)、▽冬期湛水管理、▽有機農業の取り組み。 支援単価はこれらの営農活動を導入した場合の追加的コストに着目して設定、10aあたり8000円(国は同4000円)とされている。


◆取組み面積、8万ha

 また、24年度からは地域の環境や農業の実態をふまえて、支援対象の営農活動に地域特認の考え方も導入した。たとえば、総合的病害虫・雑草管理と組み合わせた性フェロモン材の導入(青森、奈良、島根など)、生き物緩衝地帯の設置(福井)、大豆の不耕起栽培(佐賀)などだ。
 では、どれだけ取り組みが進んでいるのか。19年度からの農地・水・環境保全向上対策での営農活動支援交付金の支払い面積は4万haから22年度で8万4000haにまで増えた。
 23年度からは新たな対策である環境保全型農業直接支払交付金となったが、これは2万ha程度。ただし、前対策での取り組みが23年度も経過措置として認められ、それは8万2000ha程度となっている。このため農水省は24年度以降も8万haを超える取り組みが想定されるとしている。


◆地域によりバラツキ

 この取り組み面積を営農活動別にみるとカバークロップ、冬期湛水管理、有機農業の3つで99%を占めた。
 作物別では水稲が5割を占めるが、麦・豆類(12%)、野菜(14%)など多様な作物で取り組まれている。
 ただし、地域によるばらつきがある。ブロック別でみると面積でもっとも多いのは北陸で6000ha近くになるが、東海や近畿では1000haにも満たない(グラフ)。

ブロック別の取組面積


◆エコファーマー増加

 この対策の政策目標を農水省は平成26年度までに化学肥料や農薬の低減に取り組む「エコファーマー」の累積認定件数を34万件とし、23年度で26万件程度となり増えてはいる。ただし、対前年増加率は20年度が16%だったのに対し、23年度は7.8%と低下している。
 有機JAS認定農産物の生産量を19年度の約5万3000tから26年度に8万tするのも目標だ。22年度には有機JAS認定農産物は5万6000tあまりとなったことから増加はした。しかし、国内総生産量に占める割合はわずか0.2%だ。農水省もこの対策によって「有機農業の増大に資する状況には至っていない」としている。
 ただ、農業者へのアンケート結果からは「環境保全効果への貢献」という意識で環境保全型の取り組みを始めたのが9割前後であることも明らかになった。


◆どう取組み拡大?

 こうした現状や評価をもとに検討会では現地調査も含めて議論、6月25日には検証結果の骨子案をもとにさらに意見交換した。
 骨子では、環境保全のためには相当のインセンティブがなければ導入を進めることが難しく一定の財政支援が必要と指摘。行政刷新会議の指摘に対しては「経営安定対策として措置したものではない」と反論。ただし、取り組み年数にかかわらず、同額の支援を行うという現在の仕組みが「経営安定対策との誤解を与えている可能性はある」とした。
 そのうえで、予算が限られていることから、既に取り組んでいる農業者への支援を削減し、新たなに取り組む人に予算を振り向け、全体として取り組みが増えるような仕組みにしてはどうかとの意見が出されている。
 また、支援水準を取り組みの実態に応じて精査する必要があるとの指摘もある。予算の抑制をする場合、地域で交付金をプールして基金化し、既に取り組んでいる農業者と新規取り組み者への支援を公平に保つ工夫も必要ではないかとの意見もある。
 全国的に広げるためには、地域の実情に合わせた地域特認の営農活動をもっと増やすべきとの意見も出た。


◆現場の受け止めは?

 とりまとめ文書には環境保全型農業の推進についての考え方も盛り込む方針だ。
 そこでは今回、問題となった直接支払い対策だけではなく、各種政策を組み合わせた総合的な施策が必要なことや、環境保全型農業によって生産された農産物の販路拡大などについてもこの対策とは別に検討する必要性も指摘する。
 ただ、行政刷新会議の指摘を受けた今回のとりまとめをもとに、今後、交付金の支払い水準などが抑制される可能性もある。
 この対策は環境保全が目的で経営安定対策ではない、と整理しても、現場には「コウノトリのために農業をやっているわけでない」という率直な声もあり、いわゆる農業が果たす環境保全機能を評価した「環境支払い」という農家支援策を、という期待もある。検討会では「農家のやる気をそがないような見直しが必要」とも強調されている。

(2012.07.03)