農政・農協ニュース

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「次代につなぐ協同」を決議  第26回JA全国大会

 JA全中は10月10、11日の2日間、第26回JA全国大会を東京都内で開いた。2日目の式典には全国から約3000人が出席し、平成25年から取り組むJAグループの基本方針を決議した。

第26回JA全国大会 今大会のテーマは「次代へつなぐ協同―協同組合の力で農業・地域を豊かに」。JA全中の萬歳章会長は「これからの3年間、地域農業、くらし、経営基盤の戦略の策定・実践を通じて広く国民理解の醸成に努め、それぞれの地域・JAで農業振興とJA事業の発展、協同組合のさらなる発展に取り組んでいく」として「JAの組合員・役職員一人ひとりが農業・地域・組織の課題と向き合い、課題解決に向けて前進していくことを願っている」と期待した。
 来賓には政府から野田佳彦首相をはじめ各政党の代表者が出席した。野田首相は「現在の豊かさを次世代に引き継いでいくためにはアジア太平洋地域の成長力を取り込んでいかなければならない」とTPP推進の考えを示し、「現在TPP交渉参加に向けた関係国との協議を行っているが仮に交渉に参加する場合は守るべきものは守りぬき国益を最大限に実現するため全力を尽くす」と述べた。
 一方、自民党の安倍晋三新総裁は「自由な貿易は必要だが工業製品と農業を同じテーブルで考えていいとは思っていない。食べ物はお金を出しても買えないときもあり得るからこそ各国は農業を戦略的に考え守っている。聖域なき関税撤廃を要求されるのなら日本のTPP締結はありえない」などと述べた。
nous1210160204.jpg 郡司彰農相は「5年後、10年後の新しいリーダーをつくっていかなければならない。人材づくりをともに進めていきたい」とあいさつした。
 大会議決ではJA宮崎中央会の森永利幸会長が議長に選任、JA仙台の高野秀策組合長、JA全青協の山下秀俊副会長、JAえひめ女性組織協議会の松井律子会長、JA信州諏訪の雨宮勇組合長が意見表明し議案を採択した。
 また、「第26回JA全国大会決議実践に関する特別決議」「TPP交渉参加断固反対と徹底した農政運動の強化に関する特別決議」(別掲)を満場一致で採択した。

(写真)全国から約3000人が出席


来賓あいさつ
◆日本生活協同組合連合会 浅田克己会長
 大会の主題とする「次代へつなぐ協同」はすべての協同組合に共通する志。国際協同組合年を契機に広がった協同組合同士の連携をここから未来に向けて継続していくことが大事。ともに日本の農業と食卓を支えていきましょう。

◆韓国農業協同組合中央会 チェ・ウォンビュン会長(代読 ユン・ジョンイル副会長)
 日本農協と韓国農協は農業者の減少・高齢人口の増加に反面し、政府支援は停滞するなど厳しい状況に立たされています。日本ではTPP交渉参加、韓国では韓中FTAにより未来に不安を抱く農業関係者が少なくない。同じような課題を抱えている日韓両国の農協が知恵と経験を分かち合い努力していくことを期待しております。

◆民主党 輿石東幹事長
 「豊かな農業、豊かな地域を次の未来へどうつないでいくのか」という大会のテーマは、そのまま我が国再生の最大の政治課題。戸別所得補償制度をその第一歩としてみなさんとともに全力を尽くしていきたい。

◆国民の生活が第一 山岡賢次代表代行
 食料の自給体系を根本から破壊するTPPには断固反対。国民の生活が第一とするその原点となるのが古今東西、歴史的に見ても「食料」。それを失うことは国を失うこと。

◆公明党 石井啓一政調会長
 情報開示も国民的議論もないまま拙速にTPP参加を決めることに断固反対。今年は米国を中心に穀物の不作で穀物価格が上昇し、世界の食糧事情はますます不安定になっている。国内の食料供給能力を強化していかなければならない。

◆みんなの党 水野賢一幹事長代理
 党の政策は現在8兆円規模の農業を30兆円産業にすること。そのために全国一律ではなく地域の創意工夫を生かした農業振興策が必要。農業を地域の基幹ビジネスに発展させていきたい。

◆日本共産党 志位和夫委員長
 取り組みの第1は震災復興。営農再開の見込み農地はわずか39%。命と暮らしが脅かされ続けている。
 第2はTPP参加絶対阻止。JAの皆様を始め国民の戦いが政府の参加表明を阻んでいる。第3は原発ゼロの実現です。

◆社会民主党 福島みずほ党首
 二度と原発事故を起こさないためにふるさとを愛し人々を愛し安全安心な食料生産に取り組んできたJAのみなさんと力を合わせたい。みなさんが農業とエネルギーにがんばってくださることをお願いしたい。TPPは断固反対。農業・生活・社会を守る。

◆新党きづな 渡辺浩一郎幹事長
 TPPに絶対反対。お互いに力を合わせて邁進していきたい。

◆国民新党 浜田和幸代表代行
 日本がこれから100年、1000年先もしっかりとした国家として生き残っていくために農業、第一次産業を支えることが政治に課せられた課題だ。

◆たちあがれ日本 園田博之幹事長
 TPPがなくてもこのままでは農業を始め第一次産業はすべて衰退してしまう。自給率50%目標はどの政党も掲げているが、具体的な施策をやってきたか。今度こそ計画的に取り組んでいきたい。

◆新党大地 鈴木宗男代表
 新党大地の理念は「大地に還り、大地に学ぶ」。TPPには絶対反対。反原発の立場だ。

◇    ◇

友誼団体からのメッセージ
 大会には全国農業会議所、全国漁業協同組合連合会、全国森林組合連合会、日本医師会、国際協同組合同盟(ICA)の友誼5団体からもメッセージが寄せられた。日本医師会からメッセージが送られたのは今大会が初めて。
 その一部を紹介する。

○日本医師会からのメッセージ(抜粋)
 食に対する国民の期待・関心が高まるなかで、「食の安全」がこれまで以上に重要視されております。食の安心・安全かつ必要十分にて安定的な供給は、国民生活に必要不可欠であり、そのなかでJAが果たす役割はますます大きくなるものと存じます。
 そもそも、国民の幸福の原点は健康にあり、その支援を担うのが、日々の食を支えるJAであり、地域に寄り添う医師の診療でありますので、国民の健康と生活が、これまで以上に充実したものとなるよう、JAのこれまで以上の活躍に大いに期待を寄せるものであります。

○ICAからのメッセージ(抜粋)
 協同組合は、経済をけん引し、社会変革を促し、世界経済危機に抵抗性があり、そして、真面目で、すべての分野で成功し、雇用を創出しているということが国際社会において認識されています。
 我々は、いま、激動の時代に生きています。協同組合運動は、その価値と原則によって、よりよい社会を作ることに貢献していますし、一層貢献することができます。
 ICAは、世界の協同組合の発展に尽力されているJA全中のリーダーシップに対し、心から感謝の意を表します。


【第26回JA全国大会決議実践に関する特別決議】

 平成23年3月11日の東日本大震災・原発事故から1年半以上の月日が経過したが、復旧・復興も営農再開も、いまだ本格的な足どりに至っていない。
 JAグループは、被災地の農業復興と原発事故被害の克服を最優先に、国の政策強化を求めるとともに、被災地の農業・JAの復興・再建支援にJAグループ全体で、さらなる協同の力を発揮した取組みをすすめていくことが極めて重要である。
 公共でも利潤追求の企業でもない協同組合が、人間の暮らしを豊かにし幸せにするという認識のもと、今年は国連が定めた国際協同組合年である。震災においても再認議された「つながり」、「協同」の役割を再確認し、協同組合の力で農業と地域を豊かにすることが我々の使命である。
 JAグループは、食料自給・自然再生エネルギーを基本とした経済システム、高齢化社会のもとでの地域医療・介護など助け合いを通じて、協同組合の仲間とともに、よりよい社会を築くことをめざしていかなければならない。
 JAは、それぞれの置かれた地域の実態に即し、地域農業戦略、地域くらし戦略、経営基盤戦略を描き、「次代へつなぐ協同」にむかって、さまざまな取組みを着実に実践していく必要がある。
 そして、組合員の期待にこたえ、次代へ、農業・地域をつなぐよう、トップのリーダーシップのもと、組合員・役職員が理念と目標を共有するとともに、持続可能な農業と安心して暮らせる豊かな地域社会の実現をめざして、我々JAグループは、これまで以上に総合力を発揮し、全力で取り組んでいくものである。

 

【TPP交渉参加断固反対と徹底した農政運動の強化に関する特別決議】

 TPP(環太平洋連携協定)交渉は、カナダ、メキシコを加え11カ国での交渉となるが、現在の状況は、砂糖や乳製品、知的財産権、原産地規則などの分野で対立が鮮明となり、合意期限は来年まで延長されることが確実な情勢となっている。
 例外なき関税撤廃をめざし、米国基準で規制・制度のルール統一をはかるTPP交渉は、国家の主権をも侵害する危険性のある極めて異質で極端な貿易交渉である。
 TPP交渉に参加することは、すなわち、我が国の社会経済システムや農業を壊滅させ、食料安全保障を放棄し、安心・安全な国民の暮らし、医療など我が国の根幹にかかわる制度を崩壊させることになり、断じて認められない。
 第3次野田内閣、自民党安倍新総裁がスタートしたが、近いうちに実施される衆議院選挙では、政権選択と併せて、こうしたTPP交渉参加の是非を大きな争点にしていかなければならない。
 2年前、菅前総理が、唐突に関係国との協議開始に言及して以来、農林漁業関係者、消費者、医療関係者をはじめとする国民各層と幅広く連携し、徹底した反対運動に取り組んできた。今後も多くの国民の理解と支持を得て、政府のTPP交渉参加断念を実現するまで、我々の力を結集した最大限の運動を展開し、徹底して闘っていく決意である。

 

 

 

農業、地域など5つの分科会を開催

 第26回JA全国大会の1日目には5つの分野で分科会を開いた。
 「農業」の分科会のテーマは「地域営農ビジョンの策定と実践」。 JA全中の担い手・農地対策推進委員会委員長の飛田稔章JA全中副会長は地域営農ビジョン策定運動の意義を「今後の担い手を確保し次代へ継承していく取り組み。JAの生産・販売戦略を担い手段階から積み上げることでもあり、組合員との絆を一層強くすること」と強調した。
「地域」をテーマとした分科会会場 実践報告はJAいわて花巻の高橋専太郎代表理事組合長が行った。同JAは▽集落ごとの担い手を明確にし集落経営体の育成をはかる、▽混住化社会における65歳以上組合員が過半を占めるなかで、次世代組合員との新たな絆づくり、▽28支店ごとに農村の歴史的伝統文化を継承した支店経営をするなどを基本にしたビジョンづくりを進めると報告した。

(写真)
「地域」をテーマとした分科会会場


◆くらしの活動から事業につなげる

 「地域」をテーマとした分科会では、大会決議に掲げた3本柱の一つ、「JA地域くらし戦略」についてJA周南(山口県)の事業方針に着目し、その実践事例に学ぼうと金子光夫経営管理委員会会長から経営理念や取り組みについての報告があった。

◆利用者重視の視点で取り組む

 JA周南の最大の目標は「『地域協同組合』としての存在価値を高めること」。組合員の高齢化や取引基盤の半数以上が第一世代という現状のなかで、同JAは「協同組合とは、くらしにかかわる思いや願いを解決・実現するために設立され、事業部門はその実現のためのもの」という金子会長の考えのもと、「すべての活動は事業につながる」として「活動」と「事業」の一体性を重視した取り組みを実践している。
 「くらしの活動」の基本方針も組合員や利用者、地域住民らが支えあい、つながりあうこと。それがJAのファンをつくり、最終的に事業につながるとの考えで実践している。また、JAの強みは総合事業であるとして、横断的な事業の展開で総合力の発揮を図っている。
 例えば、組合員と女性部が連携して子どもを対象にした農業体験イベントを開いたり、「JA健康寿命100歳プロジェクト」は金融・共済、福祉など他部署と連携しあいながら展開している。これらの活動は支所が拠点。本店に置かれた「くらしの活動課」はあくまでもコーディネーター機能として各事業の「横串」の役割を担う。
 その他、利用者を取り込む工夫として直売所を起点に、平成22年から「総合ポイントサービス」を導入した。これは組合員資格を取得したり、他の事業利用が増えるごとに利用者のステージが上がり、ポイントも増える仕組みだ。介護福祉事業の利用者に既存事業の利用客が多いことから、金子会長は「今後、介護福祉事業を拡大していくためにも各事業の顧客を増やしていく必要がある」と述べた。


記念講演
「家族農業は社会を支える強い背骨」

EU農業団体連合会(COPA)ゲルト・ゾンライトナー会長


EU農業団体連合会(COPA)ゲルト・ゾンライトナー会長 10日の全体会ではEU農業団体連合会のゲルト・ゾンライトナー会長が記念講演を行った。
 ゾンライトナー会長はEU農業者、1300万人の代表。ドイツのバイエルン州で100haを経営している。農場は13世紀から何世代も維持してきたもので、「よりよく引き継いでいくのが私たち家族の誇り」と話した。また、国連が2014年を「国際家族農業年」と制定した意義にも触れ「家族農業は社会を支える強い背骨である」などと強調した。 WTO交渉では日本と協力し農業の多面的機能を守ることなどを主張してきた。TPP交渉について会長は「どんな協定も非貿易的関心事項にもっと配慮すべきと主張している。TPPはこれにあてはまらない」と指摘、会場参加者に「参加を阻止してください。私たちは支援しています」と訴えると大きな拍手が湧いた。
 EUでは農機関係や外食、小売業まで含めると農業関連では4000万人が働き「EUでは車や化学産業をしのぐ最大の分野」だという。とくにEU危機のなか農業分野の成長で雇用創出などに応えるため、協同組合が競争力を高めていくことが重要だと話した。

 

 

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