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消費税の転嫁拒否取り締まりで立法措置  政府

 政府は「消費税の円滑かつ適正な転嫁等に関する対策推進本部」を10月26日に開き、消費税の転嫁拒否などの行為を取り締まり、被害者の救済を図るための立法措置を講じることなどを決めた。

被害者に税額分の還元措置も導入

◆相談窓口を設置し調査

 消費税の引き上げにともなって取引先に対して価格に消費税分を上乗せして請求できるかどうかは、とくに力の弱い中小零細事業者や下請け事業者にとって最大の懸念となっている。
 26日に政府が決めた具体策では、まず転嫁拒否に関する政府共通の相談窓口として内閣府に「消費税価格転嫁等総合相談センター(仮称)」を設置するというもの。同時に関係省庁にも相談窓口を置く。
 そのうえで来年の通常国会で独占禁止法と下請法に特例を設ける法改正を実現し、次のような対応や措置が可能となるようにする。
 ▽転嫁拒否事案について公正取引委員会と経済産業省(中小企業庁)が書面調査などによって転嫁受け入れを指導、▽各業界の所管省庁も同様の調査と指導を行う、▽指導に従わない場合は経産省を始めとする所管省庁は公正取引委員会に措置請求を行う。
 そして、請求を受けた公正取引委員会は、違法行為があると認める場合には転嫁を拒否した税額分を被害者に支払うことを勧告すると同時に企業名を公表する。これが被害者への救済措置となり、消費税導入以来、初めての措置だという。ただし、政府としては、相談があった場合、ヒアリングや書面調査に基づき価格転嫁を受け入れるよう指導することをこの対策の中心にしたい考え。そのため関係省庁すべてに転嫁拒否の調査・指導を担当する「転嫁対策調査官(仮称)」を置くとともに、司令塔機能を担う消費税価格転嫁等対策推進室を内閣官房に設置する。
 一方で特例措置では業界で転嫁の方法や表示方法などを決めるカルテルについては、独占禁止法の適用除外とすることも盛り込む。
 政府は税率引き上げの半年前には相談窓口や転嫁対策調査官による調査などができるようにしたいとしており関連法案の早期成立をめざす。関係省庁に相談体制を設置することで、たとえば農業者と量販店の取引の場合でも農業者は所管の農水省に相談する。その案件の調査、指導等は量販店を所管する経産省が実施するなどの対応も可能だとしている。平成元年の消費税導入時や平成9年の引き上げ時には相談件数は2万件程度にのぼったという。

◆根本問題は解決せず

 ただし、今回のような措置が必要となるのは消費税を価格に転嫁することを消費税法では義務づけていないからだといえる。政府も「消費税は転嫁を通じて最終的に消費者に負担いただくことが予定されている税である」(転嫁対策・価格表示に関する対応の方向性についての検討状況:平成24年5月31日の資料)としている。消費税法本体には「転嫁」という言葉すら登場していない。消費税導入時の昭和63年の税制改革法第11条に「消費税を円滑かつ適正に転嫁するものとする」とあるが、これも義務づけを規定したものではないとされる。義務づけられていれば転嫁拒否は消費税法違反となる。
 しかし、それができないため、今回は独占禁止法上の「優越的地位の濫用」を根拠に転嫁拒否に対する指導や救済措置を講じるものだといえる。その一方で消費税法第5条では「事業者は〜この法律により、消費税を納める義務がある」と納税義務者だけを規定している。
 消費に広く薄く負担を求める、というのは先の政府の文書でも認めているように「予定」されているに過ぎず、実際には零細で赤字であっても「事業者」が負担するという税、という消費税の根本問題は今回の措置でも解決はされるわけではない。

(2012.10.29)