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【クローズアップ 中国新体制】 中国が抱える課題  朱建栄 東洋学園大学教授―聞き手:農村金融研究会 鈴木利徳専務理事

 世界のリーダーの交代が続いた2012年。中国では11月に習近平氏をトップとする新指導部体制が誕生した。今回は中国が抱える課題と新指導部がめざすこと、さらには日中関係改善のために求められることなどについて東洋学園大学の朱建栄教授に聞いた。聞き手は農村金融研究会の鈴木利徳専務理事。

「社会の民主化」を進める中国

◆指導部若返りのための人事ルールが確立

nous1212110201.jpg 鈴木 最初に中国の政治指導体制の基本についてお話いただきたいと思います。まず最高指導部である中央政治局常務委員の選出方法や任期、定年制などについてお願いします。
  今回は政治局常務委員7名のうち5名が入れ替わりました。今の中国では政治局常務委員は20数人いる政治局委員のなかからしか選出されません。その下の中央委員から抜擢されることはないんですね。
 それでもこれほどの大幅な交代が実現したのはルールがあるからです。
 そのルールには2つあって第1は年齢制限です。中国では今、68歳以上は最高首脳部に選出できません。67歳なら選出できますが、任期は1期5年ですから、その任期が終われば72歳になりますね。ですから2期めはないということになります。
 第2のルールは3選禁止です。党でも政府でもこれが適用されます。したがって長くても2期10年ということです。
 ただ、このルールができるまでには紆余曲折がありました。
 毛沢東時代、つまり建国から70年代末までは、日本の明治維新の功労者と同じように彼らに対していろいろ枠をはめるのは極めて難しいため、結局、毛沢東、周恩来、朱徳などの首脳はみな死ぬまでトップのポストに残っていました。
 しかし、次に出てきた鄧小平は、この老人政治の弊害を意識し、首脳部の若返り化を図りはじめたんです。彼は80年ごろ、まずは自分を含め長老たちほぼ全員を中央顧問委員会というグループに入れた。この顧問委員会は今までの職務と待遇は何も変わらないという条件です。さらにみなさん方から後継者を指名していいです、ということにしました。
 それまではポスト交代のルールがないのでみんな離れようとしなかったわけですが、まずは待遇も変わらないし後継者も選んでいい、というかたちで長老たちを最高指導部から引き離した。
 そして7、8年経ったころ鄧小平は、では、顧問委員会を廃止する、みなさんはもう老後を楽しんでください、ということにした。こうして初めて若返り化が実現したわけです。このようなプロセスを経て今申し上げたようなルールが90年代後半にできたということです。

朱 建栄(しゅ けんえい)
 1957年生まれ。中華人民共和国上海市出身。現在、東洋学園大学人文学部教授。中国の政治外交史を専門とする。華東師範大学卒業後、来日し、学習院大学大学院政治学研究科博士後期課程修了。学位は博士(政治学・学習院大学)。東洋女子短期大学助教授を経て、現職。


◆長期戦略を引き継ぐ「第3梯団」

  ただ、若返りを図るといってもどういう人を後継者にしていくかが問題です。鄧小平時代に何よりも大事にされたことは長期戦略を継続させていくことでした。となると人事があまりにどんでん返し的なものになっては戦略の継続ができない。それで人事の安定とともに政策や戦略の継続性を考えて出てきたのが「第3梯団」という発想です。
 すぐ次の後継者候補になるグループを第2梯団といいますが、次の次のホープを育成する仕組みが第3梯団ということで、よく言われるのは共産主義青年団などです。そういう大きな枠をつくって有能な人たちにいろいろな仕事を体験させ、そのなかからより優秀な人を絞り、それが最終的に指導者候補になるという選び方です。
 直接選挙がないなかでの知恵ですが、中国は発展が大幅に遅れていたため、そのなかで路線や人事の大どんでん返しが起こるようなことではキャッチアップできないという考えもあって、このような権力委譲の方法が定着していったと見ていいと思います。
 ちなみに年齢制限は最高指導部だけではなく大臣クラスは65歳、次官クラスは60歳までと決まっています。


◆国家主席と首相の役割分担とは?

 鈴木 総書記と国家主席の関係、また首相との分業体制はどうなっているのでしょうか。
  総書記とは中国共産党のトップのポストの名前で正式には中国共産党中央委員会総書記です。
 国家主席は、中華人民共和国のトップということですが、実質はこの20、30年間、党の総書記と国家主席は1人で兼任してきたわけです。共産党一党支配のなかで党のトップがすなわち国のトップだということです。
 これに対してもうひとつの重要なポストが首相です。
 この2つのポストの権限ですが、総書記は建前上、党の指導しかできないわけですが、国家主席を兼任することによって実質的に中国のすべての政治、軍事、外交政策を決め、さらに人事を握るといういちばん強い権限を持ちます。
 一方、首相はそこから分業するかたちで、おもに経済や中央政府対地方との関係を担当します。
 鈴木 意外に基本的なことを知りませんでした。
  ですから、どこかで大地震が起きたら真っ先に飛んでいくのは首相なんです。
 鈴木 たしかに温家宝首相が被災地に駆けつける姿が報道されてきましたね。
  そうです。首相の担当だから。もちろん場合によっては、後から胡錦涛国家主席が激励に行くこともありましたが、地方の経済、民政は首相の担当ということになっているのです。その一方、軍事や外交については首相はあくまでも参加者であって決定者ではないということです。


◆胡錦涛、完全引退の意味

2012年11月15日に中国共産党第18回全国代表大会第1回総会(1中総会)で共産党中央総書記に選出された習近平氏中央と党中央政治局常務委員(新華社=中国通信) 鈴木 今回の新指導体制発足にあたっては胡錦涛氏の完全引退が注目されていますが、これは何を意味するのでしょうか。
  胡錦涛の完全引退は、私は中国の政治改革を見るうえで重要な出来事であり、転換点だと思っています。 これまで中国のトップは国家と党のトップは辞めても、軍事委員会主席には残り影響力を行使してきました。鄧小平も江沢民もそれをやった。
 理論上はヒラの共産党員にもかかわらず、200万人以上の軍のトップになっていたのです。
 そこには新指導者がそんな簡単に軍を指揮できないから引き継ぎ期間が必要だという一定の合理性はありますが、しかし、中国が大国化し世界に対して説明責任があるとなるとやはり外部からは理解できないものとしてクローズアップされます。中国は軍のトップを個人が務めるのか、それとも制度で決めるのか、と。そんな世界の疑問の声を意識して、今回は初めて国家と党のトップを辞めるとともに軍事委員会主席も辞めることにしたわけです。
 言い換えれば国家と党のトップに就くと自動的に軍のトップにも就くという世界の流れと同じ制度化を進める重要な取り組みだと思っています。(続きはこちらから

(写真)
2012年11月15日に中国共産党第18回全国代表大会第1回総会(1中総会)で共産党中央総書記に選出された習近平氏中央と党中央政治局常務委員(新華社=中国通信)

(2012.12.11)