提言

JAの現場から

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「自律的改革」とは

佐渡農業協同組合 代表理事理事長 板垣 徹

 平成20年9月25日、10羽のトキが佐渡の大空に放たれた。27年前に日本の大空から消えたトキを、再び野生に返す壮大な取り組みのスタートだ。
 この日の午後、折から降り始めた雨の中、私たちは「佐渡市認証米」の刈り取り式を行った。市とJAのコラボレーションで始まった新たな取り組みであり、大手の量販店が提携に乗り出し全国的に取り扱うこととなり、弾みがついた。

いたがき・とおる
いたがき・とおる
昭和19年生まれ。新潟県立佐渡高等学校卒。昭和48年旧新穂農協入組、平成17〜18年社会福祉法人佐渡ふれあい福祉会常務理事、平成18年佐渡農協代表理事理事長、現在に至る。

 平成20年9月25日、10羽のトキが佐渡の大空に放たれた。27年前に日本の大空から消えたトキを、再び野生に返す壮大な取り組みのスタートだ。
 この日の午後、折から降り始めた雨の中、私たちは「佐渡市認証米」の刈り取り式を行った。市とJAのコラボレーションで始まった新たな取り組みであり、大手の量販店が提携に乗り出し全国的に取り扱うこととなり、弾みがついた。

環境にやさしい「佐渡米」をバネに

 佐渡は日本海に浮かぶ大きな島であり、江戸時代に最盛期を迎えた佐渡金銀山を擁する歴史の島として知られている。しかし、佐渡の農業の中心である米、佐渡産コシヒカリは単独上場銘柄として高い食味評価を得ていながら、消費者への知名度はあまり高くない。「佐渡で米がとれるんですか」と言われることさえ珍しくない。
 そんな中で、トキを初めとする生きものとの共生をテーマに、「環境にやさしい佐渡米づくり」に取り組んできた。やっとその成果が少しずつ見えてきている。かつてそのやや高い価格ポジションゆえに売れ残りに悩まされた佐渡産コシヒカリだったが、平成20年産は今年2月で契約完了となった。
 「環境にやさしい佐渡米づくり」に取り組むにあたって、常勤役員と営農部門でチームを編成し、島内200か所で座談会を開いた。暑い夏のさなか、「なぜ佐渡米が売れ残るのか」「消費者に求められる米にするには」と、生産者の皆さんと語り合い、この方向で行こうと確認した。
 「この方向」とは、平成20年産米から、「環境にやさしい佐渡米」(慣行より3割以上の減農薬・減化学肥料)でないと「JA佐渡米」とはしない、という方針である。しかし、座談会に参加したのは米出荷農家の半数程度でしかない。はたして、全農家がついてきてくれるだろうか、不安な気持ちもあった。
 しかしそれは杞憂であった。ふたを開けてみたら、98%が「JA佐渡米」という取り組み結果となった。そして、「佐渡市認証米」(「朱鷺と暮らす郷米」と命名、5割減減栽培かつ生きものを育む農法が要件)についても多くの生産者が取り組み、1500トンの出荷となった。勢いづいた私たちは更に、平成24年産までに佐渡産コシヒカリの全量を5割減減栽培とし、その2分の1を佐渡市認証米とする、という方針を打ち出した。方向は見えた、という手応えを生産者とともに感じているところである。

経営の厳しさ、見つめて

 昨年8月、地域づくりをテーマとするシンポジウムに参加した。
 私はフロアから「我々も経営改革に取り組んだが、それは『言われたからやる』という他律的改革ではなく、取り組まざるを得ない経営の現実がある。しかし取り組んだ結果でも、経営の厳しさに変わりはない。そのような中でどのように地域づくりに取り組むべきか」とパネリストの藤谷築次先生に質問した。
 藤谷先生から、「やらなければならない現実があり、JAとしての悩みはよくわかる。大事なことは、組合員との話し合いをどれだけ真面目にやったかだ。組合員は敏感に『これは経営のためだ』と感じている。
 その結果、事業結集の弱体化が起こっている。もう一度、しんどいだろうが、運動というところから取り組むべきではないか」との助言をいただいた。

経営改善方策を策定

 平成20年度の私たちの決算は、わずかだが「事業赤字」となる見込みだ。21年度も事業赤字は避けられないと見ている。全中の「経営点検基準」によれば「2期連続事業赤字」のJAは「要改善JA」の指定を受ける。そうなれば、まさに「他律的改革」を迫られることとなる。
 私たちは、昨年の後半から、「経営改善方策」の検討を始めた。「他律的改革」を迫られる前に主体的に課題を設定して取り組もう、ということだ。
 過疎・高齢化が進展し地域の経済が縮小している中で、従来通りの体制を維持することは困難である。
 そこで、機構改革や拠点の集約などを基本とした「経営改善方策骨子」を試案として作成し、支店別総代懇談会や地域座談会で議論していただいた。
 結果は、「利便性が失われる」「農協がますます遠くなる」「経営のための方策だ」と、さんざんであった。何のことはない、組合員の視線で見ればこの「骨子」は「他律的改革」の単なる先取りに過ぎなかったのではないか。反省させられるとともに、「経営」を別次元にとらえがちな組合員組織での改革の困難性を痛感したところである。
 経営的な困難さは続くだろう。改革も、企業のようにドラスティックにはできない。「もう一度、しんどいだろうが、運動というところから取り組むべきだ」という言葉を、つくづくとかみしめるのである。
 米をはじめとする営農事業を軸としてJAへの結集力を強化する取り組みは、少しずつではあるが着実に前進している。生産購買では予約への結集率が再び高まってきた。
 今年度からは新たに営農経済渉外を導入して、農業の中心的な担い手とのコミュニケーション体制をつくりはじめた。
 丁寧な対話、活発なコミュニケーション、魅力ある事業への改革。そして、組合員との対話を繰り返す。そのなかから「組合員の、組合員のための経営改善方策」をつくっていくことだ、と覚悟を決めている。
 それしか「自律的改革」への道はない。

(2009.04.21)