提言

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食と農を結ぶ多様な取り組みで「協同」を育む

特集・新たな協同の創造と農と共生の時代づくりをめざして
パルシステム生活協同組合連合会
若森資朗 理事長

 「大転換期に突入したJA」との環境認識を第25回JA全国大会議案は示し、そのうえでこれまでの組合員間の協同を再構築し、多様な人・組織が多様な方法で連携・ネットワークを構築する「新たな協同の創造」を提起した。これを実現するために消費者は何を「農」に求め、どのような協同を築こうとしているのかを、人と人との交流を前提とした産直や食づくり運動を展開するパルシステム生協連の若森資朗理事長に提言してもらった。

食と農を結ぶ
多様な取り組みで「協同」を育む

いまこそ協同精神を基礎に

パルシステム生活協同組合連合会 若森資朗 理事長 毎日のように悲惨な事件や事故が報道されている。その一つひとつにどうしようもないくらい重い内容、複雑な背景が横たわっている。私達はそのことから眼を背けることなく、真正面から捉え、踏み込み、克服を、人と人のつながり、協同の力に価値おいた取り組みの中で育んでいかなければならない。
 昨年来の米国発の金融危機は、目先の利益を追い求めることがどれだけ多くの不幸を生み出すかを明らかにした。例えば金融、これは資金を効率よく供給するインフラであったにも関わらず、それ自体がなりふり構わない、金さえ手に入れば良いといった金儲けの道具に落ちてしまった。このような行き過ぎがいたるところで発生し、これに歯止めをかける社会的機能も、精神的支柱も後退してしまった。今、格差社会といわれる厳しい状況の中、そのような社会状況を生み出したことへの反省が、多くのところで語られている。しかしあらたな社会システムの見通しを立てるまでには至っていない。いまこそあらたな価値創造として、協同の精神を基礎に据えた取り組みが問われている。
 今年は日本の協同組合の父である賀川豊彦が、神戸のスラム街で献身をはじめて100年になる。賀川豊彦が「防貧」から「救貧」へと至り、様々な協同組合の創立に関わった歴史は、今日の私たちにとっても学ぶべきことが多い。
 奉仕活動に留まることなく、課題を抱えている人と共に、相互扶助の精神で自ら活動し、協同し、自立と継続した活動(事業)を旨とする協同組合の設立に奔走した姿は、先が見えない今の時代を生きる私達に、たくさんの示唆を与える。

「安心・安全・産直」の33年

 目先のことに惑わされず、将来を見据え、どのように何を取り組むことがもっとも最適なのか、それぞれの立場でしっかりと議論し、結論を出し、実行に移すことが問われている。
 例えば生協が、組合員との関係において供給に重点を置き、少しでも安価なものを調達し供給する立場に立つのか、それとも作る人、流通を受け持つ人、消費する人がそれぞれの間で価値や意味を共有し、かつ自然や環境を意識した取り組みとしていくのかが問われる。バルシステムでは「食の安全にこだわり、環境にこだわり、生命にこだわり」つつ、後者の立場に立って、安全・安心・産直を33年続けてきた。その気持ちの根底にあるのは、あらたな社会システム、価値創造に関与したい、また社会を変革したいとの強い思いであった。それはまずは生活の基本である食べることの安心の確保からはじまり、それを司る農、そして流通、環境に眼を向け、生活全般に依拠した活動に広げることであった。

心豊かなくらしと共生社会

 パルシステムでは基本理念として「心豊かなくらしと共生の社会を創ります」を掲げ活動している。
 人は人だけで存在できないこと、健全な自然があってはじめて存在できること、そしてその健全な自然を形成しているのが、それこそ細菌から微生物、そして多種多様な生物の働きによってであること、この当たり前のことが忘れ去られ、多くのことが今を生きる人の目先の利害で、価値と意味の軽重がはかられ、将来にわたって人が継続して存在していくための健全な自然を維持するための配慮が、置き去りにされている。
 例えば農薬、確かに科学技術の進歩から人に対する影響は、以前に比べれば軽減されたかもしれない。また適正に使用すれば人にとっての安全は、一定担保されるかもしれない。
 しかし農薬の目的は低毒性であっても、また残留しなくても、化学的な外部の力で、自然のバランスを保っている多くの生きものを抹殺する。それは自然の生命力を確実に後退させ、生態系を崩すことにつながる。今、絶滅危惧種が飛躍的に増加していることが明らかとなっている。そのことは回り回って人の生存そのものを将来にわたって脅かしかねない。
 私達の様々な取り組み、経験は現状への警鐘となり、より実体を認識するものとして生産者とともに「田んぼの生きもの調査」などにつながった。
 現在、各地のNPO、生産者団体、農協、JA全農、生協で連携して「田んぼの生きもの調査」が行われ、その実践の中から農薬や化学肥料に頼らない生物多様性農業への理解と実践が取り組まれてきている。パルシステムもその一員として積極的に関与している。
 確かに農薬や化学肥料、機械化は、相互に深く関係し農作業の軽減をはかり、生産性の向上、増産に大きく貢献してきた。そのことはその時代時代の反映としてあり、全てを否定するものではない。しかし今や待ったなしで、出来るところから転換をはかっていく時期であるとの認識を持っている。

交流で農の価値を共有する

 JAは画一的な営農指導から、地域条件、農業者条件に応じた多様な側面を持たなくてはならない。何しろ総合農協は地域では一つであり競争がない。ということは一つの農協で多様な側面を持つことが必要とされている。特に合併した大きな総合農協ではなおさらである。そうでないと農家の農協離れがますます進むだろう。特に篤農家と言われる人達の間で。
 総合農協は文字通り総合的な地域社会の担い手としての看板を降ろそうと思っているならば、それはそれで理解はする面もあるが、それならば多様な生産者団体の取り組みの足を引っ張るようなことはすべきではない。支援する立場になることを願いたい。
 農業の持つ多面的な機能や、自然環境への影響力を考えた時、農ほど微妙で様々な顔を持った業はない。活用の仕方によっては、人にとってはより直接的な食料生産の顔だけではなく、人の心にまで入り込み癒す機能を持っている。
 このことを作り手と食べ手の共通認識として育んでいくことが、農の存在価値への認識につながり、人の心を豊かにしていく。その関係を築いていくには産直が有効と考えており、それを推し進めていくことがパルシステムの役割だと考えている。また農協も、生産者と消費者を直接つなげる立場に立つべきだと考える。
 パルシステムでは生産物の流通関係のみだと産直とは言わない。必ず人と人との交流が前提となっている。また、相互理解のためには地域の理解が前提になると考えている。現在、全国の13ヵ所で、行政や生産者、パルシステム(生協組合員)を巻き込んだ、食と農に関する協議会を作り、年間を通して総合的な交流を行っている。
 また、協議会同士が地域を越えて交流を行い、その地域だけでは経験できないことを経験し、地域の活動に活かしている。そしてそのことを通じて双方の地域興しにつなげることが、相互信頼となり、連帯した変革の力になると考えている。

「100万人の食づくり」運動で日本型食の普及を

 現在、日本の食料自給率は40%となり、先進国にあって類を見ない低さとなっている。その一方では耕作放棄地が大量に生み出されるといういびつな構造となっている。その結果、食料自給率の低さだけでなく里山の荒廃を招き、水路の荒廃を招き、洪水、土砂崩れなど自然災害を数多く派生させている。そのことにも目を向ける取り組みも行っていく。それは当然、そこに住んでいる人との連帯、意義の共有を通して進めていく。
 最後に、パルシステムでは現在、耕作放棄地の減少に向け、米農家、畜産農家、食品メーカーに呼びかけ、飼料米や米粉利用の取り組みを進めている。また、それを支えるものとして「100万人の食づくり」運動、お米を基本においた日本型の食の普及に取り組んでいる。これからも食と農を結ぶ多様な取り組みを、生産者、消費者の立場を超え、生活者共通の課題として取り組み、連帯の絆を強め、協同の力を育んでいきたい。

 

【略歴】
わかもり・しろう 昭和24年生まれ。49年タマ消費生活協同組合入協職員、専務理事を歴任、平成3年パルシステム生活協同組合連合会(旧首都圏コープ事業連合)移籍、管理本部長、事業本部長歴任、7年同連合会常勤理事、8年同連合会常務理事、14年同連合会専務理事、18年同連合会理事長、19年東京都生活協同組合連合会副会長理事、21年日本生活協同組合連合会常任理事。現在に至る。

(2009.07.28)