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【特別寄稿】 JAグループ総体の力で難局を乗り切ろう JA全中・茂木守会長

【第25回JA全国大会特集】新たな協同の創造と農と共生の時代づくりをめざして
JA全国大会へのメッセージ
JA全中・茂木守会長

 昨年秋に起きた、米国の金融危機に端を発した世界的な景気減速を受けて、米国型の市場原理主義への過度な偏重を見直す動きが高まっており、われわれのような協同組合理念にもとづく事業・活動が再評価される環境が醸成されているのではないか、と感じています。

◆協同組合理念が再評価される時代

JA全中・茂木守会長 昨年秋に起きた、米国の金融危機に端を発した世界的な景気減速を受けて、米国型の市場原理主義への過度な偏重を見直す動きが高まっており、われわれのような協同組合理念にもとづく事業・活動が再評価される環境が醸成されているのではないか、と感じています。
 そのような中、農業についてみてみれば、人口増加、異常気象の続発などにより世界的に食料需給がひっ迫する中で、今後、本格化するであろうWTO農業交渉や、「食料・農業・農村基本計画」の見直し、農地法の改正などわが国の農業政策は大きく変わろうとしています。
 また、農村部、地域経済に目を向けてみれば、人口減少・少子高齢社会の進展や高齢者単独世帯の増加にあわせ、地域経済の格差拡大や農村経済の疲弊によって、「豊かなくらし」「生活の安定」「医療・福祉」等に対する国民のニーズは高まっているものの、すべてを行政サービスに頼ることのできない現状となっております。
 さらに、JAの組織基盤・事業基盤に目を向けてみれば、高齢化と後継者不足などにより販売農家戸数の減少に応じて正組合員数は減少傾向にあります。正組合員構成も自給的農家の増加や集落営農組織、大規模法人等新たな担い手の台頭により多様化しております。
 加えて、景気悪化の底入れ感が出てきたとはいえ、依然として経済・金融環境は厳しい状況にあり、JA経営も未曽有の厳しさに直面する懸念があります。
 このように、農業やくらし、JA経営すべての面において大転換期を迎えているのではないでしょうか。

 

◆「大転換期」のなかで迎える
    第25回JA全国大会の意義

 こうした、大転換期に突入したという環境認識を踏まえ、JAグループは協同組合の価値を再認識して、組合員・地域住民の視点から英知を結集し、多様な連携・ネットワークを構築することで新たな協同の輪を広げ、わが国の農業の復権・地域の再生とそれを支えるJA経営の変革を進めていきたいと考えています。
 そこで「新たな協同の創造」のスローガンを掲げ、次の3年間のJAグループ共通の意思・取組みの方向性について、JAグループ内外に対し積極的に理解促進を図るとともに、JA役職員・組合員・消費者などからJAグループが「みえる」をキーワードに大会を行います。
 「農業の復権」については、農業・農村に元気を取り戻す取組みを第一としており、「農業生産額」と「農業所得」の増大がまずもって必要であると考えています。また、生産者が農業という職業に自信と誇りが持てるようにしていきたいと思っています。そのためには、「生産から流通・販売を通じた戦略」を構築し、生産基盤の維持・拡充による農畜産物の増産や付加価値の拡大とそれの生産段階への配分の拡大が必要であると考えております。具体的には、生産資材コストの低減や、消費者ニーズに対応した安全・安心な農畜産物の生産拡大、流通各段階のコスト削減や国産農畜産物を有利に販売できる仕組みなど食品関連産業全体を巻き込んだ販売戦略を「JAグループの安全・安心ネットワーク」として構築し、実践していきたいと考えております。
 これらの取り組みと併せて、国民理解の醸成を図るため、「みんなのよい食プロジェクト」を通じて国内農業や国産農畜産物の重要性・安全性等を広く国民にアピールして、国民運動として展開していきたいと考えております。
 「地域の再生」については、老後のくらしや生活環境、家族の問題などくらしにおける国民の不安が多様化しているなか、JAは組合員のそれらの不安の解消に向け、各種事業・活動の総合性を発揮し、地域の再生を図ってまいりたいと思います。
 また、地域を再生し活性化するためには、組合員や地域住民の自主的な活動を支援し、活発化させることが重要であると考え、地元行政やNPOなどとネットワーク化を図り連携・協働しながら「JAくらしの活動」を積極的に展開し、新たな協同を創造していきたいと思います。
 加えて、JAの事業・活動に賛同する人々を幅広くJAの仲間として組合員化をすすめ、協同活動の輪を広げていきたいと考えております。
 「JA経営の変革」については、「農業の復権」「地域の再生」に取り組むためには、JA自体の経営の健全性が必要となりますが、大転換期という現状認識のところでも申し上げましたとおり、農業・地域・JAを取り巻く環境は大きく変容・多様化しているため、JA経営においても変革が必要である、という認識であり、「経営の変革」というテーマ設定をさせていただいたところです。
 まず、経営トップのリーダーシップのもと「地域農業の振興とくらしの活動などの地域貢献」を実践するための経営理念を明確化し、経営戦略を策定のうえ、経営計画を具体化して、地域における営農・生活事業や各種活動を戦略的に展開することで、組合員・利用者満足度のみならず、職員満足度の向上と万全な経営の確立を目指してまいりたいと考えております。
 次に、組合員・利用者への機能・サービス提供と効果的な事業推進を実践するために、JAは事業・活動の強化と経営の高度化を図りつつ、効率化可能な部分については、徹底した効率化を図っていきたいと考えております。その際、JA内での効率化に加え、JAの枠組みを超えて、県域等を単位として、企画・管理業務や事務処理の効率化が図れないか検討するなど、JAと中央会・連合会トータルでの効率化・合理化を徹底していきたいと考えております。

 

◆組合員・地域住民の
    視点から英知の集結を

 以上で述べたとおり、大転換期に突入するなかで、第25回JA全国大会を機にJAグループ全体で進むべき方向性を共有して、各地域で、それぞれのJA・県・全国の各段階が、組合員のみならず、広く地域・消費者のみなさまと、「新たな協同の創造」を図り、着実に実践していけば、今後とも、JAグループが、農業振興・地域貢献に大きな役割を果たすことができると確信しております。
 生産現場においては、いうまでもないかもしれませんが、農家組合員が何を求めているのか的確に捉えなくてはならず、消費者の現場からは、消費者のニーズを捉えて、今度はそのニーズにこたえていかなくてはなりません。そしてJAの現場で、農家と消費者を結びつけていく必要があります。
 組織の基本は「農業者・組合員」。それを協同の力でまとめているのがJAだという認識を持ち、JAグループの職員は農業の振興を図り、JAグループ総体としての力で難局を乗り切り、様々なことを実現していかなければなりません。
 最近では、農産物価格の低迷など、農業の現場だけでは解決できない課題ももちろんありますが、消費者が、農業に対して何を求めているのか、消費者からの「風」を適宜的確に感じて、消費者にどう貢献できるかを考え、農業やJAが地域に不可欠であるにはどうしたらよいか、農業やJAの存在意義は何かを考えなくてはなりません。
 今後も引き続き、JAグループ役職員は、協同組合の価値を再認識し、組合員・地域住民の視点から英知を結集して、地域の多様な組織や団体などとの連携・ネットワークを構築して、新たな協同の輪を広げ、農業の復権、地域の再生と、JA経営の変革をすすめていく必要があります。

 

(2009.10.01)