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【特別寄稿】 協同組織の強みを発揮しよう JF全漁連・宮原邦之専務 

【第25回JA全国大会特集】 新たな協同の創造と農と共生の時代づくりをめざして
第25回JA全国大会への期待
JF全漁連 代表理事専務 宮原邦之

 第25回JA全国大会は、現在を大転換期と位置づけ、この時代における新たな協同の創造を目指していくとされている。
 現在、政権交代による民主党の鳩山内閣が出発したばかりである。昨年の9月のリーマン・ショックに端を発した世界同時不況がわが国社会、経済にも根強く影響しており、また、行きすぎたアメリカ型市場原理主義への反省という時期でもある。正に大転換期という認識の通りである。

◆新たな協同の創造に期待

宮原邦之 JF全漁連代表理事専務  第25回JA全国大会は、現在を大転換期と位置づけ、この時代における新たな協同の創造を目指していくとされている。
 現在、政権交代による民主党の鳩山内閣が出発したばかりである。昨年の9月のリーマン・ショックに端を発した世界同時不況がわが国社会、経済にも根強く影響しており、また、行きすぎたアメリカ型市場原理主義への反省という時期でもある。正に大転換期という認識の通りである。
 農業の環境は、経済財政諮問会議や規制改革会議が主導した農業改革という嵐が吹き荒れ、その一環として改正農地法が制定されたと認識している。これにより従来の耕作者たる農業者による農地保有制度が崩れ、一般企業の農業参入が目されることとなった。これまでは農業団体といえばJAであり、JAが農業の唯一の中核的組織であった。それが生産者の多様化を迎える時代となった。JAとは全く関係のない企業、会社や量販店などが農業生産者となり得る。これら新規参入者とJAがどう向き合っていくのかが問われる時代となった。
 ここに新たな協同を創造していく必要性があるし、第25回大会での方針決定の意義がある。同じ協同組合組織であるJF・JFグループとしてもJA全中の決意を高く評価するとともに見守っていきたい。

◆一次産業の復権を

 JAが協同組合運動をさらに発展させることが、この大転換期を乗り越えていく原動力になるものと期待をしている。大会の重点取組事項とされている、(1)農業の復権、(2)地域の再生、(3)JA経営の変革は、多様な連携、ネットワークの構築によりなされるものである。
 特に、農業の復権、つまり一次産業・農林漁業の活性化は協同組織によってしかなし得ない。農業の復権と地域の再生は同意語ともいえるほど密接である。農業の活性化は地域産業・住民の経営と生活を守ることに直結する。
 小泉改革は格差社会を生み、地方の疲弊を加速させた。農業の復権と地方再生のための時間はあまり残されていない。このまま放置すれば立ち直りのきかない所まで来ている。今こそ、JAグループが先頭に立って農業・地方の復権をめざすべき時代である。
 我々、JFグループも地方再生のため、漁業の活性化のため組織をあげて取り組むこととしている。浜の再生がないことには世界に冠たる日本漁業の誇りをとりもどすことができない。

◆農との共生の意義

 農との共生の意義は、消費者との連携、環境保全、農業の多面的機能といったイメージでとらまえられるだろう。国土の大半を緑がカバーしている日本において、農との共生がなければ国民は豊かな生活を享受できなくなる。
 一極集中化が進んでいるが、農なくして都会生活は送れないことを国民は再認識しなければならない。東京の食料自給率が僅か1%しかないことを自覚しなければならない。農との共生をJAグループが主張していくのは国民全体の幸せのためでもある。
 今、WTO交渉において各国とも農業が最大の関心事であることからも、このことが裏付けられている。“農なくして国なし”と声を大にしてアピールすべきである。
 原油価格が一昨年から昨年の夏にかけて著しく高騰した。それに連動してバイオエネルギーの価格が上昇した。トウモロコシ、大豆などの主原料価格が急騰し、食料の国際獲得競争が激化した。この一連の騒ぎの中で、畜産飼料価格がハネ上がったことは記憶に新しい。我々漁業に不可欠である燃油価格も3倍以上になり、昨年7月15日には全国20万隻の漁船の一斉休漁を実施したところである。
 未だ経済界は国際分業論の発想を捨てていない。日本は輸出立国であり、工業製品の輸出のためにはその見返りとして農産物の輸入を促進すべきという主張をしている。また高名な学者が、万一日本が食料難になっても外国が援助してくれるから心配ないと言っていた。日本で農業を行うのは生産効率が悪いから外国から輸入すべきともいった。昨年の日本を誰が助けてくれたか、どこの国も自国のことで他国まで手がまわらなかった、食料自給率は正に安全保障のバロメーターだ。40%という数字は先進国のどこにもない。先進国ほど自給率は高い。農との共生は決して他人事ではない。
 WTO交渉で農業が最大の関心事であるのは、食料の安全保障だけではなく、地域の再生につながるからだ。農業は第1次産業の代表である、農業が農林水産のリーダーであるからだ。

◆漁業の活性化とJF(漁協)

 漁業も農業と同様に大きな課題を抱えている。それは漁業者数の減少である。顕著なのは高齢化と後継者不足である。その理由は漁業生産量がピーク時の昭和58年には1200万トンであったものが、現在は半分以下の500万トン台になっていること。生産量が半減したにもかかわらず、価格が一層低落していること、その結果、経営は悪化の一途を辿っている。
 その背景には、世界中から水産物の輸入が増大していること、輸入水産物の価格が国内産よりも割安であるため、国産の水産物価格が輸入品に足をひっぱられていることがある。生産量、金額ともに下がれば、経営悪化は自明の理である。その上、昨年の燃油価格の高騰だ。世界不況により原油価格は沈静化したものの、今また反転して上昇傾向にある。正に三重苦に陥っている。
 JFグループとして漁業の活性化のためには、漁業の所得補償制度の導入と燃油価格高騰に備えたセーフティネットの構築が不可欠であると主張している。また、漁業者の高齢化と漁船の船齢の高齢化対策も大きな課題である。
 JFグループも10月30日にJF全国代表者集会を開催する。ここで今後5ヵ年間のJFグループの進むべき方向とその実現のための政策要望を決定する。運動方針の骨格はJFの組織再編を通じて、協同組織の強みを発揮していくことにある。簡単に新たな運動方針の骨子を述べる。
 JFグループの将来ビジョンとして、(1)生産者メリットを最大限発揮できる事業推進により、効率的な事業運営を目指す、(2)ガバナンス・マネジメント態勢の確立により、困難な局面を克服しうる組織を目指す、(3)地域の中核、コミュニティーの一員として、地域社会、ひいては社会全体に貢献する組織を目指す、(4)社会的責任を果たすべく、組織の活動を広く一般に周知する、(5)他協同組織やNPO団体等と協同・連携し、互いの価値を高める―ことを掲げている。
 そのため、JFグループとしての具体的実践事項を組織・事業改革においている。
 浜に根ざした協同組織がJF、つまり漁協である。根拠法である水産業協同組合法は組合員の純化を求めている。公正な組織運営の上に、地域社会への貢献がなし得るからである。社会のJFに対する期待は大きいと自覚している。
 安全・安心な水産物の安定的供給、漁村の振興、漁業漁村の多面的機能の発揮、環境・生態系保全への取組みなど、社会の期待に応え得る協同組織にJFグループを築き上げたい。

◆農林水産資源は世界に誇れる

 日本の農協組織は世界の頂点にたっている。組織面、事業面、どれをとってもその潜在力はトップの実力を持つ。それだけにJAに対する批判もあるが、JAグループは批判を甘んじて受けとめるだけの度量をもっており、批判に応える抜本的な改善を進めている。
 大転換期において協同組織はどうあるべきかの組織討議もJAグループは進めておられる。
 改めて協同組合を見つめ直さなければならない。企業は企業の利潤を追及する。協同組合も利益を求めるが、株主への配当目的ではない。組合の継続のためである。組合員は出資者であるが、配当を期待するのではない。組合の組織や事業を利用することが目的であるからだ。組合員は組合の事業を通じて利益を得て、生活や経営を守ることとなる。
 組合と組合員の関係は、出資者であり、事業利用者であることが、企業と全く異なる。協同組合の価値はここにある。「一人は万人のため、万人は一人のため」という協同組合の精神がある。この精神こそ協同組合運動の大前提である。組合を設立しても、組合員が利用しなければ成り立たない。組合員である以上、組合を利用する覚悟が求められる。だから運動である。運動しない協同組合は崩壊すると私は信じている。
 JAグループが組合員に根ざした運動を推進されるのは当然のことである。ネット販売などでJAを利用しない組合員も出現してきている。確かにネット販売の方が有利なことも多いだろう。しかし、JA抜きで未来にわたって営農活動ができるのだろうか。
 このような時代にJAがどう組合員に理解を求めていくか。協同組織の強みを組合員に知ってもらう努力が必要だろう。日本は大半の資源を海外に依存している。日本が世界に誇れる資源は何か。それは農林水産資源だと断言できる。農林水産資源とそれに関連する地域の技術という資源がある。これらの資源を活用した地域経済の活性化こそが、日本の進むべき方向であり、同時世界不況から日本経済を復興させる原点でもある。現実は容易ではない。しかし光明はある。
 それは消費者との連携である。消費者の求める食と農林水産資源の結びつきの中心にJAが立つべきである。
 この発想が協同組織の価値であり、強みである。JAと食との連携が強固なものとなれば、組合員のJAに対する理解は急速に深化するだろう。JAが大胆に役割を発揮することこそ、大転換期の日本、いや世界の将来を明るいものとしていくことにつながる。JAグループに大いに期待したい。

【略歴】
(みやはら・くにゆき) 昭和19年生まれ。早稲田大学法学部卒。昭和42年全国漁業協同組合連合会入会、平成16年より現職。農林水産省水産政策審議会委員、同農林漁業保険審査会委員など。

(2009.10.09)