米戸別所得補償モデル事業
(1)交付単価の問題
この制度は生産費用が販売価格を上回る米に対し、国からの直接支払いにより所得補償
を行うものである。「定額部分」と「変動部分」から成り立っており、モデル事業では「定額部分」の単価を全国一律10a当たり15000円とされた。その根拠は、表の60kg当たり「標準的生産費用」(過去7年の中庸5年の平均)13703円と「標準的販売価格」(過去3年平均で流通経費などを控除)11978円の差額の1725円を10a当たり(単収53km)に換算して算出したものである(100円以下切り捨て)。
(表)標準的な生産に要する費用(試算) | ||||||||
(単位: 円/60kg) | ||||||||
年産 | 経営費 | 家族労働費 80% | 計(標準的生産費用) | 全額参入生産費 | 家族労働費100% | |||
2002年 | 9,554 | 4,173 | 17,339 | 5,216 | ||||
2003年 | 10,468 | 4,411 | 18,640 | 5,514 | ||||
2004年 | 9,740 | 4,034 | 17,205 | 5,043 | ||||
2005年 | 9,542 | 3,822 | 16,750 | 4,778 | ||||
2006年 | 9,795 | 3,746 | 16,824 | 4,683 | ||||
2007年 | 9,649 | 3,600 | 16,412 | 4,500 | ||||
2008年 | 10,400 | 3,297 | 16,497 | 4,121 | ||||
7中5平均 | 9,828 | 3,875 | 13,703 | 16,923 | 4,844 | |||
(注) (1)「経営費」は「費用合計〜家族労働費+支払利子+支払地代」である。 | ||||||||
(2)表の「7中5平均」は各項目の最低、最高の年産を除いた5年の平均を示す。 | ||||||||
この制度自体は一定の評価はできるが、「標準的生産費用」を「全額参入生産費」とすれば43681円、「経営費」+「家族労働費100%」では23797円(10当たり。計算式は省略)となり、「定額部分」はアップする。したがって、米価下落による所得減少を真に補てんするためには、「定額部分」は「全額参入生産費」か、最低限、「家族労働費100%」に算定すべきである。政府は「家族労働費100%」では“経営努力が進まずモラルハザードが起きる恐れがある”というが、まったく根拠のないものである。
(2)交付単価の「全国一律」問題
交付単価には「全国一律」問題もある。四国は北海道の1.8倍近いなど、わが国の米生産費の地域格差が大きく、「標準的生産費用」を「全国一律」にすると生産費が高い地域が不利になる。そのため、改善を求める意見が強い。ただ、生産費には地域条件が大きく影響し、とくに生産費の高い地域には条件不利な中山間地で小規模経営が多い。こうした地形や基盤整備などの土地条件を主な要因とした米生産費の格差対策は、「価格問題」ではなく、地域維持や環境保全など「地域問題」としての対応が合理的なのではないか。
(3)米需給と米価下落対策
モデル事業での交付対象者は10a以上の米作付者すべてなので、小規模農家の水稲復帰などで貸し剥がしが起こったり、また、水田利活用自給力向上事業では生産目標数量を守っていなくても交付金が支給されるので、米の需給不均衡を拡大する危険性を指摘する意見が多い。認定農業者の生産調整義務を廃止し、集荷円滑化対策も実施しないとされているので、この不安は増大している。
こうした不安を解消するためには、改めて備蓄対策を含めた米価下落への対応策を明確
にすべきである。民主党は「棚上方式による300万トン備蓄」を方針としているので、それを明確にした対策が望まれている。と同時に、生産者が主食用米生産ではなく、多様な作物生産を求めるような経済誘導的な水田利活用自給力向上対策が重要である。