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【提言】今こそ"生活者"として手をつなごう  コープさっぽろ理事組合員活動委員長 前濱喜代美

・多くの仲間と学びあい問題を共有する
・小さなことでも大勢で取り組めば大きな成果が
・豊かに見える食卓も実は薄氷の上の危ういもの
・「食」を考える重要な場として産地と交流する
コープさっぽろ理事組合員活動委員長 前濱喜代美

 消費者が自らの生活をより良くするための組織として生活協同組合がある。同じ協同組合組織同士として、また農産物の産直などを通じてさまざまな交流が行われている。そうした立場から前濱喜代美コープさっぽろ理事にJAの女性へのメッセージをお願いした。

◆多くの仲間と学びあい問題を共有する

コープさっぽろ理事組合員活動委員長 前濱喜代美 イギリスのロッチデール開拓者組合から始まった生活協同組合は、自らの生活をより良くするために出資・利用・運営参加するという組織です。生活協同組合法第1条に「国民の自発的な生活協同組織の発達を図り、もって国民生活の安定と生活文化の向上を期することを目的とする。」と、生協の組織が発達することで国民の生活が良くなることを期待することが書かれています。生協には単に事業をするだけでなく、いろいろな分野で社会に貢献できるような状況を作ることが求められていると言えます。
 より良い暮らしは万人の願いですが、私達のくらしを取り巻く問題は数多く、地球温暖化やごみなどの環境問題、デフレや就職難などの経済問題、少子高齢化で先細りする年金など社会保障問題、巧妙化する消費者問題など…すぐ身の回りの問題を考えただけでも頭が痛くなりそうなくらいです。1人で悩んでいても解決できないことが多いので仲間と語り合います。仲間と語り合い学習する中で、問題を共有したり、問題解決のヒントを得たりすることが出来ます。
 消費者問題などは悪質商法の事例を語り合う中で、身近な問題であることを知ります。自分がだまされていた、またはだまされそうになったことに気づいたり、クーリングオフという解決方法を知ったり、相談窓口を教えてもらったり、きっちり断る力をつけようねと励ましあったりします。この電話のトークが怪しいと気づくだけでかなりの被害が防げるはずです。「だまされた」と泣き寝入りしないで相談機関に訴えることで次の被害を減らせることも出来るでしょう。気づくために仲間と学びあいます。多くの仲間がいることで多くの事例を知り解決の糸口も多くなるわけです。

◆小さなことでも大勢で取り組めば大きな成果が

 環境問題やごみの問題なども、1人1人が生活を見直し無駄を省いていけば改善できることにまずは気づくことがたいせつです。更に大勢で行動すればCO2やごみをより一層削減することが出来ます。いっしょに行動する仲間を増やすために学ぶ場や体験の場を作っています。
 一昨年は、買い物にマイバッグを持参してレジ袋を使用しなければ節約できる石油の量を着色した水で示して見せ、多くの方の共感を得ることが出来ました。理解を広げてからのレジ袋の有料化はスムーズに進み、今ではマイバッグ持参率は9割近くになります。小さなことでも大勢で取り組めば大きな成果につながります。
 食の安全についても1人で出来ないことを多くの仲間の力で達成しました。2001年に食品衛生法の改正を求めて全国の生協で1373万筆の署名を集めて国会に請願したのです。翌年には食品衛生法の抜本改正を見るとともに、「食品安全基本法」制定、「食品安全委員会」の設置など食の安全行政が大きく前進しました。
 また2006年に導入された農薬ポジティブリスト制も長い間生協で要望していたことでした。

◆豊かに見える食卓も実は薄氷の上の危ういもの

 「安全なものを安心して食べたい」はすべての人が願うことだと思います。だからこそ生協は組合員の基本的なニーズに応えようと「食の安全・安心」を掲げて事業を行っていると考えます。
 ミートホープ事件、中国ギョーザ中毒事件はそんな生協で起きたことでショックが大きかったと思います。特に2008年の中国ギョーザ事件後、国産品を求めるようになった人々は、食料のほとんどを海外に依存している日本の危うさに気づかされました。
 また同じ年、アメリカでのトウモロコシのバイオエタノール化による飼料高騰や、オーストラリアの干ばつによる小麦の高騰も、海外の事情が私達の食卓に直結していることを知る材料になりました。食料自給率が40%しかない日本で不測の事態が起これば多くの人が飢えるであろうということを、価格が上がった食品を前に感じました。
 目覚しい経済成長をしている中国で、日本の農水産物が日本国内より高く買われているという報道も眼にしました。佐賀県の農民作家の山下惣一氏が「農産物の貿易は、あまっているところから不足しているところへ、ではなく、値段の安いところから高いところへしか行かない」と言っていましたが、実際日本は中国に買い負け始めています。
 食の安全はまず「量の確保」からと思いますが、飽食のように見える私達の食卓も薄氷の上の危なっかしいものと考えたほうが当たっているのでしょう。それに気づいて私達はどうすればいいのでしょう。

◆「食」を考える重要な場として産地と交流する

 産地に出かけていって生産者と交流する、または農業体験をするなどの機会を生協では数多く設けています。活動している仲間たちが食を考える場として産地を重視しているからです。
 生産現場の苦労や収穫の喜び、他の命をいただく「食」という行為…こういうことに気づいた仲間たちがもっと多くの仲間にこれを伝えようと、自らバスをチャーターし、参加者を募集し、伝えたいことを資料として準備し、産地を訪れます。身近な産地の生産物を買って食べる仲間をもっと増やしたい、自分たちが応援したい生産者の産物をもっとみんなにも買ってもらいたい、と考えながら手間隙を惜しまずに企画をしています。
 産地・工場見学は2008年度は全道で191回取り組まれ、3382名の参加がありました。2009年度はまだ期中ですが、220回以上3600人以上が参加しています。雪で半年間しか産地が稼動しないことを考えると結構な頻度といえると思います。
 生産者と消費者がお互い「顔の見える関係」を作る場の大切さに気づいた仲間の行動です。

◆生産者と消費者の距離を縮めた「コープさっぽろ農業賞」

 2004年から「コープさっぽろ農業賞」の取り組みが始まりました。
 この賞は消費者ががんばっている生産者を応援しようという全国にも例を見ないものでした。「安全な食を提供する農業者の努力をたたえ励ますと共に、農業者との交流により安全な食をはぐくむ道民の取り組みを支援することで、消費者と生産者が同じ生活者として各々が自立して向き合う関係を作る一助とする」という目的で、生産者だけでなく消費者も交流を通して参加が出来ます。
 6年間で全道延べ647件の生産者の応募があり、また消費者が参加する交流の部では絵・写真・作文で合計2652点の作品が寄せられました。応募してくる生産者は大きな団体から家族経営の生産者まで様々ですが、皆すばらしい実践をしている方ばかりです。応募生産者すべてをバイヤーが訪問し、新たな取引にもつながりその取り扱いは30億円にまでなっています。
 組合員活動の面でも、農業賞への応募を生産者にも消費者にも積極的に働きかけています。生産者の広がりがそのまま交流の広がりへと結びついて、新たな活動が取り組まれています。また、2008年度は農業賞生産者や行政、消費者が意見を交換する農業賞フォーラムを全道8会場で開催して733名が参加しましたが、「生産者の熱意や苦労を感じた」「地産地消を推進するために消費者の意識が変わらないといけない」「食卓に乗るものを改めて考えるきっかけとなった」などの感想が聞かれ、有意義な対話の場になったと思います。
 コープさっぽろ農業賞は、生産者に消費者の応援を意識させ元気付けるとともに、消費者と生産者の距離を縮めることにも貢献しています。安全・安心を意識した生産という消費者の求める農業の姿がはっきり見えるようにもなりました。農業賞審査員として参加していただいている産官学各界の方々、後援いただいている農・漁業協同組合との一体感も生まれ、2008年度は高騰する灯油価格の適正化を求めて農協、漁協、生協で160万筆の署名を集めることが出来ました。皆が危機感から行動をした結果でした。

◆第一次産業が元気になれば北海道が元気になる

 昨年の政権交代で戸別所得補償制度が実現される見通しですが、生産者が生き生きと農業を続けられる状況を私達消費者も支援していきたいと思います。
 第一次産業が元気になってこそ北海道は元気になります。北海道が元気になれば私達の生活もより豊かになるはずです。今年も多くの仲間と思いを共有し、活動を広げて、学びの場を作っていきたいです。多くの気づきと活発な行動で豊かな生活を作っていきましょう。

(2010.02.05)