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【提言】農協農政と協同組合原則 北出俊昭(元明治大学教授)

・政権交代と農協農政の変化
・協同組合原則からみた政治・宗教問題
・農協農政の具体的な対応方向
・協同組合原則に基づいた活動強化で農協批判の克服を

 民主党政権となり農協農政にも変化がみられる。政党との関係では各党と等距離等間隔の「全方位外交」が主張され、全国農政連も7月の参議院選挙では選挙区では推薦候補者を決定したが比例区は自主投票とした。従来全国農政連での推薦候補者の決定は、農政運動組織・農協グループの代弁者と認められること、中央会など地元組織からの推薦、全国農政連との政策協定、を前提としてきたが、今回比例区についてはそうした候補者がなかったためといわれている。

(1)政権交代と農協農政の変化

 民主党政権となり農協農政にも変化がみられる。政党との関係では各党と等距離等間隔の「全方位外交」が主張され、全国農政連も7月の参議院選挙では選挙区では推薦候補者を決定したが比例区は自主投票とした。従来全国農政連での推薦候補者の決定は、農政運動組織・農協グループの代弁者と認められること、中央会など地元組織からの推薦、全国農政連との政策協定、を前提としてきたが、今回比例区についてはそうした候補者がなかったためといわれている。
 農協農政は自民党との関係が強く、政府―自民党―農協の関係は農政トライアングルといわれていた。また、全国農政連は国政選挙では多数の推薦侯補者を決定してきたが、政党別ではその大半が自民党侯補者であった。民主党政権となりこの構造が崩壊したといえる。今回でも選挙区推薦侯補者で最も多いのが自民党であるが、民主党侯補者の割合が高まり、農協農政にも変化の兆しがみられるのである。

(2)協同組合原則からみた政治・宗教問題

 農協農政ではこれまで、協同組合原則の「政治的・宗教的中立」が重視されてきた。しかしこれは1937年のICA大会(パリ)で決定されたが、1966年大会(ウイーン)で既に廃止されている原則である。ただ、廃止に際して示された理念は農協農政のあり方を考えるだけではなく、現在の「自治と自立」原則を理解する上でも極めて重要である。
 「政治的・宗教的中立」原則が廃止されたのは、「中立」という言葉は「受動性および無関心」という含蓄があるからであったが、注目したいのは、この大会では同時に協同組合として政治的・宗教的問題へのかかわりを否定したものでないことが強調されたことである。大会ではむしろ協同組合人はこうした問題に無関心であってはならないとし、その対応の基本的なあり方を示したのである。その内容は、a.組合員が選んだ政治・宗教団体は組合員の自由に任せること、b.組合は政党や宗教団体に追随することで協同組合本来の任務遂行を危なくしないこと、c.組合は組合員の支持を保持する立場から不偏不党で党およびその関係者から独立していること、d.組合自身の利益と協同組合原則に基づいた方針を終始一貫すること、と要約できる。
 その後開催された1995年のマンチェスター大会では協同組合の定義と価値を規定し、新たな原則として「自治と自立」が加えられた。そこでは協同組合は政府とは「開かれた明瞭な関係を築(き)」、本質的に自治的であるべきことが強調されたが、それは「政治的・宗教的中立」原則を発展させたものといえる。

(3)農協農政の具体的な対応方向

 この理念をわが国の実態に即していえば、協同組合原則に基づいた農協農政とは、如何なる政党にも追陣しないこと、組合員の政治的信条の自由を保障すること、政策策定など政府・政党との関係を組合員に明らかにし運動を進めること、と集約できよう。政党との関係ではこれまでの農協農政は、農業は国政への依存度が大きいので「実利」を確保するには政権与党との協力が必要だとして自民党と強い関係を維持してきたが、これを改善し特定政党に依存しない「全方位外交」のもとでの組合員主体の運動の構築、と換言できる。
 さらに選挙運動の改善も課題となる。わが国では企業、経済団体、労働組合などでは特定政党支持を決定しそれを会員・組合員に強制する例が多いが、本来選挙は思想信条の自由を保障するべきもので、これには批判が強い。とくに協同組合である農協は、組合員個人や別組織による活動は問題ないが、農協が組織として特定政党支持と推薦侯補者を決定し、それを会員・組合員に強制するのは、協同組合原則に反していることは明かである。
 なお、これまで述べたことは政党にもいえることで、いずれの政党も農協を選挙のための「集票組熾」とみて支持したり逆に切り捨てたりするべきでないのは当然である。
 
(4)協同組合原則に基づいた活動強化で農協批判の克服を

 行政刷新会議の農業ワーキンググループには強い農協批判がみられるが、そこには一人一票制や独禁法適用除外の見直しなど、協同組合の否定にもつながる特徴が指摘できる。これは国連が2012年を「国際協同組合年」とした国際的な協同組合の評価の高まりにも反することである。こうした批判については反批判を徹底する必要があるが、同時に農協自らが本来の協同組合としての活動を強め、この批判を克服することが望まれているといえる。

(2010.06.17)