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【提言】「新しい協同社会への道筋をつけよう」 茂木守・全国農業協同組合中央会会長・国際協同組合同盟(ICA)理事・日本協同組合連絡協議会(JJC)委員長・2012年国際協同組合年全国実行委員会副代表

・国際協同組合年の意義
・協同組合の将来像を描く
・原点見据えたJAづくりを
・「協同組合」を再確認する

 2012年国際協同組合年に向け、今年8月、国内の協同組合が結集し全国実行委員会が発足した。協同組合の価値、現代社会に果たしている役割などについて、今後、広く発信する活動が期待されるとともに、各協同組合がそれぞれの足下で地道に「協同」を実践することも求められる。協同組合の課題などを同実行委副代表でもある茂木JA全中会長に寄稿してもらった。

◆国際協同組合年の意義

 2009年12月18日、第64回国連総会は、2012年を「国際協同組合年(IYC)」とする宣言を行い、各国政府、協同組合関係組織に対し、社会的・経済的開発への協同組合の貢献に対する認識を高め、協同組合の発展に努めるよう求めました。
 これは、協同組合に対して与えられた最高の名誉であり、国際協同組合同盟(ICA)の理事として、また、約半世紀の間、協同組合運動に携わってきた協同組合人の一人として喜びを隠すことができません。
 また、このことはICA理事諸氏並びに協同組合活動に携わってこられた多くの方々の努力の賜物であり、心から感謝を申し上げる次第です。
 2007年、ある国連加盟国からIYCへの関心を聞かれたICAは、理事会でその実現のために最大限の活動を行うことを決定いたしました。またICAは、IYCが望ましく、かつ、実現可能であることが国連事務総長報告の中に記されるよう、国連事務局と共同で活動しIYCが議論される国連専門家グループ会議に参加するようになりました。
 こうしたICAの活動がIYC実現に大きく貢献したことは間違いなく、また、ICAが国連の議論に加わることによりICAを通じて世界の協同組合の考えを国連に伝えることができるようになったと理解しています。


◆協同組合の将来像を描く


 国連総会のIYC宣言を受け、私は、日本のICA会員協同組織で構成する日本協同組合連絡協議会(JJC)の委員長として、宣言を心から歓迎し、IYCに向けて日本国政府ならびに関係機関やICAと協力し、広く国民に参加を呼びかけ、現代における協同組合の価値、役割について社会にアピールする取り組みを展開するとの談話を発表いたしました。
 さらにJJCに加入していない協同組合組織にも広く参加を呼びかけ、数回にわたる準備会合や関係省庁との意見交換を経て、本年8月4日、各種協同組合、NPO、研究機関、学識者、文化人、マスコミ関係者等約100人からなる「2012国際協同組合年全国実行委員会」の発足が実現いたしました。実行委員会の代表には、経済評論家の内橋克人先生が就任され、大変心強い限りであります。
 IYCは、今日の経済社会における協同組合の価値と役割を改めて確認し、将来のあり方を考える絶好の機会であると認識しています。今後、そのための研究を深めるとともに、協同組合の将来像を描き出す活動を全国的に推し進めていく必要があります。
 わが国の協同組合に対する政策は、「新しい公共円卓会議」での議論や「協同労働の協同組合法」制定の動きがある一方、JA等に対する独占禁止法適用除外の見直しや金融庁検査・公認会計士監査の実施が課題とされるなど、JAグループに対する攻撃が強まっており、錯綜した状況となっています。なお、ヨーロッパでも、協同組合の税制に関連した攻撃が強くなってきていると聞き及んでいます。
 このため、協同組合に共通する政策課題について、広く合意形成をはかり、協同組合グループとして国・地方自治体・政党等に働きかけ、正しい協同組合政策づくりにむけた活動をすすめていくことが重要であります。第1回全国実行委員会で提案された「協同組合憲章」の制定を国に求めることについても、積極的に検討する必要があると考えています。


◆原点見据えたJAづくりを


 また、都道府県段階・地域・JAでの取り組みは、さらに重要であると認識しています。
 JAグループにおいては、組合員や農業・地域の多様化、JAを担ってきた世代の高齢化が進行するなかで、農業の復権と地域の再生をはかり、事業を伸長させるため、地域の多様な人々との新たな協同の創造と協同組合の原点に立ち返ったJAづくりが求められています。
 このため、都道府県段階でも他の協同組合や学識者、マスコミ関係者等と連携してIYCをきっかけとした幅広い取り組みを進めていただきたいと思います。具体的には、遅くとも2011年7月の国際協同組合デーに合わせた取り組みが可能となるよう、各都道府県でIYC実行委員会を発足させ、また、各段階で平成23年度の事業計画にIYCに向けた取り組みを盛り込んでいただきたいと考えています。
 国連宣言のとおり、協同組合の事業や活動は、現代社会において、開発途上国のみならず先進国においても、広がりのある重要な社会的役割を果たしています。しかし、残念なことに、国内においては、このことが多くの人たちに正しく理解され評価されていない実態にあります。
 また、NPOなどの非営利組織に期待する人でも協同組合を古い組織と考えたり、協同組合運動を評価する人でも農業協同組合については十分に評価しないなどという傾向も見られます。
 JAグループはIYCを機会に、他の協同組合と連携し、マスコミや政府関係者をはじめ、多くの人々にJAと協同組合の役割・価値、事業・活動の実態を伝える取り組みを行っていきます。


◆「協同組合」を再確認する


 ところで、1980年に発表された「西暦2000年における協同組合」、いわゆるレイドロー報告で、彼が「将来に対する協同組合のかかわり」として最後に述べている「恐るべき企業の時代にあって、協同組合的方法こそ、お互いに犠牲を強いることなく、大衆が法人の権利を行使し、その恩恵を享受することのできる唯一の手段である」という言葉は、今日、ますます重要性を増してきているといえます。
 例えば、世界に大打撃を与えたリーマンショックに関しても、協同組合はその影響をあまり受けず、受けても多くが協同組合的方法で問題を解決し、協同組合の理念が広く人々の間で見直され、事業が拡大しているといった指摘がICAの諸会議で多くなされています。
 2012年は、第26回JA全国大会の年でもあります。
 我々JAグループは、2012年に向けて、「共存共栄」という協同組合の本質を改めて確認し、自らが「協同組合」であるということをこれまで以上に深く認識し、協同組合の仲間や地域社会の人たちとともに新しい協同社会を構築するための道筋をつけるよう最大限努力する必要があると考えています。私もその先頭に立ち、積極的な取り組みを続けてまいる所存です。

(2010.10.07)