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【提言】「人々を勇気づける協同組合運動を」 山下俊史・日本生活協同組合連合会会長・2012年国際協同組合年全国実行委員会副代表

・協同組合と「ビジビリティ」
・広く意見を聞き実践と検証を
・協同組合を駆動してきたもの
・生協の取り組み
・叡智を結集し地域貢献を

 2012年国際協同組合年に向けて今年8月、国内の協同組合を中心に全国実行委員会が発足した。
 協同組合の課題などを同実行委副代表でもある山下日本生協連会長に寄稿してもらった。

 世界経済はいまだ、2008年の金融危機の後遺症から脱出できていない。それどころか、中国・インドなど新興国の経済発展による国内あるいは国際経済への影響にいかに対処するか、我が国をはじめいくつかの先進国でも財政危機やデフレをいかに解決するかなど、新たな課題も抱えつつある。
 さらには、地球温暖化や異常気象、自然災害、食料需給の不安定化、貧困・飢餓など、引き続き大きな問題の解決に迫られている。国内においても依然として経済情勢は先行きが見えず、雇用や所得、食品の安全、医療・福祉をはじめ、くらしに関わる不安は大きい。
 このような中で、国連総会が2012年を「国際協同組合年」と決定したことは、これらの問題に対処するにあたり、協同組合の役割へ大きな期待が表明されたものと受けとめている。

◆協同組合と「ビジビリティ」

 9月1日から5日に北京市で国際協同組合同盟(ICA)アジア・太平洋の第9回地域総会および関連会議が開催され、私も参加した。地域総会では、この国際協同組合年である2012年に日本において、第10回地域総会を開催することが決定された。ポーリン・グリーンICA会長は国際協同組合年について触れ、「ビジビリティ」(視認性)というキーワードを使い、この機会に、目に見える形で協同組合の社会的認知が進むよう取り組むことを提起した。では、見せるものとは何なのか、認知されるとはどういうことなのか。

◆広く意見を聞き実践と検証を

 昨年は、今日の日本の協同組合の礎を築いた先達の一人である賀川豊彦が、神戸のスラムで救貧活動を始めてから100年を迎えた年であった。賀川は「貧民を解放する道は彼らが自覚して自立し、組織的活動をすることだ」とし、貧しさを協同の力で克服すべく生協や様々な協同組合を設立した。
 その後、戦中戦後の戦禍と食糧難の時代、高度成長とその終焉、少子高齢化、グローバリズムの進展、産業構造の変化、地域コミュニティーの崩壊、格差の拡大など、それぞれの時代背景の中で協同組合がつくられ、あるものは衰退し、あるものは発展してきた。時代や国によって、協同組合の役割やその位置は変化しているが、世界の協同組合はICAに結集し協同組合原則を掲げ、その価値や原則を都度確認し、実践を積み重ねてきた。
 今日では特に自助・公助にかわる共助の一つとして、また暴走する市場原理主義への対抗として、地域社会における参加型の課題解決のあり方としての協同組合への期待も高まっている。
 しかし協同組合は、拠って立つ理念や制度自体としてその価値が完結しているものではない。1995年のICA声明は「協同組合は、共同で所有し民主的に管理する事業体を通じ」、人々のニーズを満たしていくものとしているが、協同組合が人々のニーズ、期待に応えてきたのか、また今後どう応えていけるのか、一つひとつ具体的に形にして見せていくことこそが、その意義を示すことになろう。
 また今日の日本では、一口に「社会」といっても、そこにおかれた人々の立場やニーズは多様化している。協同組合は、今本当に組合員と社会に求められていることに応えられているのか、広く意見や批判を頂きながら常に検証しつつ、事業・組織のあり方を不断に問い直す、開かれたものであるべきだろう。またそのためにも、協同組合も社会的存在として、より透明で社会的にも先進的な規律を自ら課し、発展する力をもたなければならない。

◆協同組合を駆動してきたもの

 もう一つ、社会的に見せるべき重要なことがある。それは、困難な状況の中、協同組合の先達を駆動してきたものだ。それは、目の前の問題を解決しなければならない、ということも当然だが、それとあわせて、志を同じくする人たちと構想し、協同して実行し、結果を出すということ、そして、自らがその力をもっていると実感すること、それ自体が協同組合員の喜びであり、勇気付けられることである、ということではないか。
 社会に認知されるかどうかは、協同組合の優位性やその有益な効果ということだけではなく、こうした思いが伝わるかどうか、そして当然、我々自身がそう実感しているかどうかによるのではないか。環境変化や競争激化で存続の危機にある組合もあり、大変厳しい状況で楽しい事ばかりではないが、そのような中でも、このような気概をもち、ビジョンを示していきたい。これらのことがあわさって、本当の意味で協同組合が認知されることになろう。

◆生協の取り組み

 日本生協連では1997年、全国の生協の論議のもと、生協の21世紀理念を「自立した市民の協同の力で人間らしいくらしの創造と持続可能な社会の実現を」とした。現在、組合員の活動として地域の委員会やグループ・サークル、学習会などに毎年200万人を超える参加があり、全国世帯の約3分の1が生協に加入している。
 しかし、もう一度改めて、国際的にも国内的にも大きな転換期を迎える中、相互扶助を理念とする生協が負うべき社会的責任は何か、ふだんのくらしや地域社会においてどう役割発揮するのか、検証が必要であると考え、全国の生協と日本生協連は、10年後の生協のありたい姿を描く「生協の2020年ビジョン」づくりを始めている。
 くらしを取り巻く様々な問題をはじめ、食料・農業、地球環境、資源エネルギー、組合員の参加のあり方、格差社会、平和と国際協力、そして協同組合の基本的価値などについて、消費者の協同組織としてどう取り組むのか、全国の生協でひろく論議を進めている。WEBサイトでも意見募集をしているので、意見を頂ければありがたい。

◆叡智を結集し地域貢献を

 国際協同組合年を機に、国内外の協同組合とともに、厳しい状況を打開し未来を築こうという意思を示していきたい。また、この現在の日本の状況の中で、協同組合をいかに発展させ地域コミュニティーに貢献できるか、各種の協同組織の垣根を越えて叡智を結集し、新たな具体的なチャレンジをしていきたい。社会の期待に応えながら、協同組合に関わる一人ひとりが、少しでも勇気付けられるよう、そしてさらに協同組合が発展できるよう、国際協同組合年に向けて取り組んでいきたいと思う。

(2010.10.21)