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【提言】「使命感を持った活動を―農業再生と地域活性化へ―」 中家徹・JA紀南 代表理事組合長

・JA全国大会決議―地域との関わり強化が不可欠
・JA綱領―「地域に根ざす」を改めて考える
・疲弊する地方―再生は農業の枠超えて
・組織基盤―JAファンをいかに増やすか
・農業再生―国民の理解が最重要課題
・JAの課題―地域での教育広報活動が鍵
・次世代づくり―女性と子ども巻き込んで
・長期展望―時間かかるが土壌づくりを
・国際協同組合年―農と地域再生の火種を広げるチャンス

 農業と地域の再生は全国民の願いであり将来世代への責任でもあるだろう。JAグループは各地のJAがその中心的役割を果たそうと昨年の第25回全国大会で「新たな協同の創造」をスローガンに3つの決議を行った。今年はその実践の初年度でもある。地域でどう実践しJAの存在価値を示すべきか。今回はJA紀南の中家徹代表理事組合長に提言してもらった。

◆JA全国大会決議
地域との関わり強化が不可欠


中家徹・JA紀南 代表理事組合長 昨年10月JAグループは第25回JA全国大会を開催し、「大転換期における新たな協同の創造」のスローガンのもと「消費者との連携による農業の復権」「JAの総合性発揮による地域の再生」「協同を支えるJA経営の改革」の3点を決議したが、いずれをとっても地域社会や地域住民を度外視して実践することはできない。
 それは農業が絶対的な縮小を余儀なくされ、非農業的要素が年々増加する中で、JAとしては必然の方向であり、安定的な経営を確保するためにも地域との関わりを強化し、地域社会の発展に中心的な役割を担うことが今後のJAに課せられた大きな使命でもある。

 


◆JA綱領
「地域に根ざす」を改めて考える


 協同組合としては、1995年のICA創立100周年記念大会において協同組合原則の第7原則として「地域社会への関わり」が加えられている。また1997年に制定された「JA綱領」では、「農家と地域社会に根ざした組織としての社会的役割を誠実に果たす」とし、地域社会の活性化、発展に寄与することもJAの大きな役割であることを明確にしており、「JA綱領」の解説文を見てもいたるところに「地域」や「地域社会」という言葉が出てくる。JA組織にとって農業という枠内だけの協同活動では、いろんな意味で限界が来ているのである。

 

◆疲弊する地方
再生は農業の枠超えて

 

 行き過ぎた市場原理主義はいろんなところでひずみを生み、特に都市と地方の格差が拡大する中で地方の疲弊は予想以上に進んでいる。
 それは、止まらぬ人口減少、19年連続の地価下落、地方産業の象徴である農業はじめ一次産業の所得減少と、「負のスパイラル現象」となって衰退しており、このまま推移すると地方は崩壊しかねない。同時にJA間の格差も拡大しており、異質化、多様化が進み農山村地帯のJAほど組織基盤の脆弱化が顕著となり厳しい経営をしいられている。都市地帯のJAと農山村地帯のJAでは、地域との関わりを強化する意図は全く同じでないかも知れないが、JAが地域の再生に力を注ぎ、地域での存在価値を高めないとJA組織そのものも崩壊しかねない。
 JA紀南は早くから「農業を中心とした地域協同組合」を指向しているが、JAが農業という枠を超えて地域との関わりを強化するのは、まず第1は組織、事業基盤を強固なものにし未来永劫安定経営のもと、組合員の負託にこたえるためのものである。

 


◆組織基盤
JAファンをいかに増やすか

 

 平成15年4月に9JAが合併し、新生JA紀南としてスタートして8年目に入っているが、すでに管内には超限界集落があちこちに見受けられ、組合員の高齢化も進み合併時60歳以上の組合員が53.6%だったのが現在は60%に増加しており、当然ながら70歳以上の比率も高くなっている。農業の厳しさ、高齢化、担い手不足等々、組合員意識の高い正組合員が減少し、真綿で首を絞めるがごとく基盤の弱体化が進んでいる。
 組織基盤は質的な面、量的な面、双方からの強化が必要であり、前者はいわゆる組合員意識の向上による結集力の強化であり、後者は組合員数の増加対策である。地域との絆を強め、地域住民にJAの存在価値を認識してもらうことは量的な強化を期待してことであり、地域住民の皆さんにJAファンになり組合員になって頂くことである。
 現在、JA紀南では総合ポイント制度をスタートさせ組合員メリットを明確にした中で加入運動を展開し、量的な強化に努めているが、これも単に組合員を増やしただけでなく、その方々が事業の利用者になって頂くための努力、つまり質的な強化に努めなければならない。組合員数が増えてその結集力が高まれば組織基盤は磐石なものとなる。

 


◆農業再生
国民の理解が最重要課題

 

 もう1点は農業再生のため国民の合意形成を得るためである。先日、農水省から農業センサスが発表されたが、農業就業人口が260万人と5年間で75万人が減少し25年間で半減して、将来的にはまだまだ加速度的に減少することが予想される。国は平成32年度に自給率50%という目標を掲げているが、自給する生産能力がなくなりつつあり、現状で推移するとまず目標達成は不可能だろう。加えて農業には食糧供給だけでなく、国土保全や自然環境を守り、生物多様性に貢献している、いわゆる多面的機能があり、今こそ農業の必要性、重要性の理解促進が喫緊の課題である。

 


◆JAの課題
地域での教育広報活動が鍵

 

 多面的機能代金は社会全体で負担すべきと考えるが、残念ながら日本の消費者、国民は農業に対する意識も低くまだまだ理解されていない。地域社会との関わりを通じ国民の合意形成をはかることにより積極的な農業予算を確保することが可能になり、いわゆる岩盤対策も実現する。
 いずれにしても、地域社会の中でJAの存在価値を高めることが重要であり、その為に農業やJAをもっと知ってもらうための教育広報活動や、より良い暮らしの実現に生活面活動、そして地域の共通課題に積極的に取り組む地域貢献活動などが特に重要になる。

 


◆次世代づくり
女性と子ども巻き込んで

 

 そして、ポイントとなるのが女性と子どもであり、女性と子どもにソッポを向かれるJAに未来はないと思っている。今後のJA運動は非農家の皆さんの支援なくして成り立たず、そのための協同活動はどうしても女性が中心とならざるをえないし、JA事業の中でも女性の参加、参画により、女性の声や感性をより必要とする事業や活動が多くなってきている。
 さらに、JAの大半の事業はお金を伴う事業であり、近年は家計を支配しているのは女性が多く特に若い世代はその傾向が強い。地域への関わりを強化しながら、女性のJAファンづくりが重要な課題であり、会員が減少している女性会組織も門戸を広げて地域の皆さんも幅広く加入を求める必要がある。
 もう1点は子どもであり、少数化が進む中で子どもは貴重な存在で、地域の担い手である。今日、食育基本法が制定され食農教育が重要視されている中、農業の教育的機能を発揮し、正しい食生活を通じて心豊かな子育てに貢献することも重要である。それはJAだから出来ることであり、幼い頃から農業の果たしている役割や大切さを認識させることが、将来の世論形成に大きな力になると思われる。
 今こそ子どもの健全育成にJAも積極的に活動を展開し、地域を守る将来の人材を育てる役割を果たすべきである。JA紀南でも食農教育プランを策定し、子どもを対象としたいろんな活動を展開しているがまだまだ十分とは言えず、さらに強化したい。

 

◆長期展望
時間かかるが土壌づくりを

 

 地域貢献活動も、JAにとっては今後ますます重要な活動となるがJA紀南では、将来発生が予想される南海、東南海地震に備え、市、町と防災協定を締結したり「わがまち安全パトロール」のステッカーをJAの全車両に添付して地域の安心・安全を啓発、さらに環境問題への取り組みとして「照葉樹の森づくり運動」として植樹をするなど、ささやかであるが地域の共通課題に取り組んでいる。今後はさらに幅を広げ取り組んでまいりたい。
 JAは協同組合運動と言われながらも、長年企業との熾烈な競争激化の中、個々の経営維持安定のため企業の論理で事業展開し、どちらかと言えば運動体としての側面がおろそかになったことも事実である。
 つまり、肥料で言えば、目の前の果実を得るため即効性の化学肥料をやり続けてきた結果、環境変化とともにJAの組織基盤である土壌が疲弊してきて、今あらためて有機肥料施用により、健全な土壌を作らねばならなくなっている。簡単に土壌が良くなるとは思わないが、協同組合としては非常に重要なことで、土壌が良くなれば良い木が育ち良い果実が実る。
 そして有機肥料となるのが前述したような活動で、地域との絆を強化することであり、新たな協同の創造である。
 ただ有機肥料は遅効性で、その効果は見えにくく、厳しい経営の中ではどうしても後まわしになる傾向があるが、長期的にはJA経営にとって大きな力になることを認識しなければならない。

 


◆国際協同組合年
農と地域再生の火種を広げるチャンス


 長年、競争原理社会の中にどっぷり漬かり、協同組合運動は遠くに追いやられた感がしている。これは法的にも制度的にも、協同組合としての組織を否定する方向に進んでいることも事実であり、協同組合としての強みを生かすことがしづらくなってきている。
 したがって環境が激変する中、地についた協同組合運動の展開には、時間も要するだろうが、農村にはまだまだその火種は残っている。火の燃え方や火の色はちがっても、その火種を地域全体に広め、地域ぐるみの協同活動が展開出来ればと願っている。
 その意味では国連が2012年を「国際協同組合年」とすることを議決されたのは、協同組合の意義や役割を周知し存在価値を示す絶好の機会である。このような機会を契機として農業の再生と地域の活性化をはかる、その中心的役割を果たすのがJAであるという使命感をもって協同組合運動を展開しなければならない。


【略歴】
なかや・とおる
昭和24年生まれ。昭和43年田辺高等学校卒。昭和47年中央協同組合学園卒。昭和47年〜48年全中嘱託職員、昭和49年紀南農業協同組合入組。平成3年営農部長、5年企画管理部長、10年参事、11年代表理事専務(旧JA紀南)、15年代表理事専務(新JA紀南)、16年代表理事組合長。

(2010.11.05)