女性たちは、生産者であると同時に、家庭では、自家生産できない食材を購入し、調理する消費者としての感性も持っている。子どもや孫を通じて、非農家の母親たちと同じ目線でコミュニケーションもとれるだけに、JAや農家の枠内を超えて、地域住民の生活や食との接し方について、具体的なイメージを持つこともできる。JAが力を入れている介護事業にしても、実際に家庭で介護の現場を担っているのは女性たちだ。
つまり、女性たちは、食や暮らしに対する、地域の切実なニーズを肌で感じている。しかも、非農家の女性たちがすでに失ってしまった、地域に伝わる伝統料理や郷土食を手作りできる技術も、JA女性部でいえば、エルダー世代は家庭内で受け継いでいる。
残念ながら男性は、農家であっても、「農業」という仕事はしても、自分の食生活を妻に任せきりで、食の分野に関する技術や知識は乏しい。しかも、育児や介護も妻に多くを任せきりというケースが少なくない。
失礼ながら、多くの男性農家諸氏は、日常生活の知識や技術の疎さでは、都市部のサラリーマンとあまり大きな差がないのではないかと私は感じている。ここに、女性と男性の感性や技術の決定的な差異がある。
消費者ニーズを細かにキャッチし、それに対応した生産や加工・販売を考える上で、女性が潜在的に持っているこれらの技術や感性を生かさないのは、農村にとってもJAにとっても損失である。
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農業現場で働く女性が全体の6割を占めているにもかかわらず、地域農業やJA運営の方針決定の場に参加する女性があまりにも少ない。男女共同参画の流れの中でも、JAや農村での女性の発言権を拡大すべく、農業委員やJA総代、理事などへの女性登用、女性のJA組合員化を推進すべきだという指摘は、10年以上前からあった。
JA全国大会でも、2000年には、「正組合員における女性の割合25%以上」「女性総代比率10%以上」「女性理事2名以上」などの数値目標が掲げられていた。しかし、それから現在に至るまで、目標数値はまったく変わっていない。男性の意識改革が必要なのはいうまでもないが、一方の女性にも、「自分たちが地域やJAの運営に参加すれば、もっと農業のイメージも地域も明るくなるはずだ」という主体性を持ち、農家・非農家を問わず広く地域に自分たちの声をきちんと発信できるように、精神的な自立と意識改革、学習が求められていると思う。TPP問題がにわかに浮上して以降、それとセットで、グローバル化に対抗するための農政改革、さらにJA改革を求める声が急激に強まっている。事実、TPPに参加しようがしまいが、農家の高齢化が著しい現状では、10年後、20年後、日本農業は国内から崩れてしまう怖れもある。農政改革の必要性は否めないし、JAにも反省すべき点は多々あると感じている女性も多いはずだ。
のんびりしている場合ではない。地域やJAをどう変えていけば、自分たちがより暮らしやすい社会に変えていけるのか。女性たちの声と行動力が、今こそ求められていると私は思う。
★JA女性組織の最近の活動を各地JAからご提供いただきました。
(写真上から)JA新潟市(新潟県)の農業祭で「米粉カレー」を販売した女性部のみなさん・JA秋田やまもと〈秋田県〉女性部グループ「グランママシスターズ」の小学生巻き寿司体験会の風景・JA松本ハイランド〈長野県〉の女性部の「軽ットラ市」・JAあづみ(長野県)のデイサービスセンターあんしんの里「楡」。