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【提言】相互扶助発揮のJAグループ  農政ジャーナリスト・鈴木俊彦氏

 東日本大震災は被災地への救援活動を通じて、JAグループは協同組合本来の使命について確認を深め、日常業務の重要性を再確認することができた。
 震災発生後、JAグループは、いち早く大震災復興・再建対策中央本部を立ち上げ、以下の対策を柱に据えた。

再認識したい資本増強の重要性

 東日本大震災は被災地への救援活動を通じて、JAグループは協同組合本来の使命について確認を深め、日常業務の重要性を再確認することができた。
 震災発生後、JAグループは、いち早く大震災復興・再建対策中央本部を立ち上げ、以下の対策を柱に据えた。(1)農地基盤再生対策(2)電子力発電所災害対策(3)被災農家の再建(4)被災農家・農地への税制特例(5)JA経営の再建対策と税制特例の実施――の5つの柱である。
 早急の救助活動としては、まず被災地への食料や飲料など支援物資供給からスタートし、被災地近隣のJAでは被災直後から炊き出しに全力を注いだ。さらに全国規模の募金運動を役職員あげて手早く展開した。
 さし当たりJA全農は、船舶で救援物資を大量に輸送し、被災地JAへ飼料、A重油等の生産資材の補給を敏速に行った。同時に手早く生産・生活資材等、購買品の支払期限延長の措置をとった。
 JA共済連は、建物更生共済・生命総合共済合わせて7780億円の共済金支払いを決めた。日常から不時の災害に備えるJA共済の力の見せ所である。共済金の支払い担保力については、建更は再保険の回収見込額と異常危険準備金の取崩しにより、十分支払い対応ができる。また生命総合共済金の支払い見積もり額については異常危険準備金取崩しの必要なく対応が可能である。今回の被害状況は22都道府県で30万棟に達したが、阪神大震災の6倍に当たる共済金の支払いには十分対応できた。
 JAバンク系統も3000億円規模の緊急つなぎ資金を用意し、さらに4年間で総額1兆円規模の復興支援プログラムを中長期的支援策として打ち出した。このための対策要員として全国100人規模の職員を任命している。さし当たり被災農家への緊急つなぎ資金を無利子とするよう利子補給の体制も組んでいる。
 農林中金としては、長期低利融資の枠組みを設け、第一次産業の再興を積極的に支援する。また農業法人などへの出資と金融支援を通じ、地域の担い手育成・強化にも取り組む。さらに壊滅的な被害を受けた農漁協店舗の建替え費用やATM導入費用への助成など、経営支援への目配りも十分だ。
 法的措置としては、農漁協信用事業再編強化法(JAバンク法)改正により、被災で経営悪化が見込まれる農漁協に対し、予防的な資本注入を目的とする財務基盤強化の手も打っている。また融資の焦げ付きなどで経営悪化の農漁協に「農水産業協同組合貯金保険機構」から資金を注入できる道も開いた。
 原発事故による風評被害の補償については、JAグループは企業法務の手腕で高名な久保利英明弁護士(東大法卒)を代理人に指名することができた。JAサイドとしては東京電力との賠償交渉について強力なスタンスを組み、東電にとっては最大の交渉相手として法廷闘争にのぞむことが可能となった。
 JA全中の萬歳会長は復旧・復興を最優先課題と提起し、次のとおり重点項目を掲げ、平野達男復興相に要請を行っている。(1)復旧作業の加速化(2)営農再開計画の早期策定(3)既往債務の棚上げ等による二重債務問題の軽減(4)被災農漁業者に対する地域金融機関の再編強化法成立(5)原発事故の損害に対する迅速万全な損害賠償――等の要請である。
 JAグループは農家結集の軸となり、このように震災対策についても協同組合ならではの“相互扶助”活動を展開している。ICA(国際協同組合同盟)のポーリン・グリーン会長もJAや漁協の震災救援活動について「まさに協同組合らしい取り組み」と称賛している。
 「協同組合主義」は久しく“幻想”とみられてきたが、ここへきて力強い実践に裏付けられることになった。このような不時の危機に直面して真の実力を発揮し得ることも、JAグループの各分野における日常の推進活動、つまりは資本増強と経営体力の賜物と言える。改めて自信を深め、日常事業活動の重要性を強く認識したい。

(2011.11.15)